権力の座につけるのは 鉄の女、それともプリンセス?
ダイバーシティ進化論(水無田気流)
10月の衆院選は「希望の党」を旗揚げした小池百合子東京都知事が、当初は台風の目と騒がれたものの序盤で失速。野党第1党にもなれず、公務で訪れたフランスでは「都知事に当選してガラスの天井を破ったが、総選挙で鉄の天井があると改めて知った」と述べた。党代表辞任は、その天井の強固さゆえだろうか。
ニューズウィーク日本版は小池氏を「鉄の蝶(ちょう)」と形容。「政界渡り鳥」とも呼ばれた彼女だが、どれほど「風」が吹いて蝶や鳥を華麗に舞い上げても天井は打ち砕けないのか。それとも戦略的撤退なのか。今後も注視したい。
それにしても、かつてのサッチャー元英国首相の「鉄の女」から、ドイツのメルケル首相の「鉄のお嬢さん」まで、権力中枢に上り詰めた女性のニックネームは、なぜこんなに鉄分が高くなってしまうのか。そこには、「一般的な(生身の)女性は、権力などには興味をもたないはず」との社会通念が潜んでいるように見える。国会議員の女性割合が日本より高い欧米社会でもこれでは、日本は推して知るべしである。
「鉄化」未満の女性政治家は「斬り込み隊長」の役割を担う場合も多い。かつて「仕分け」隊長を担った蓮舫元民進党代表しかり、待機児童問題で斬り込んだ山尾志桜里議員しかり。依然、女性議員割合が低い日本では、女性政治家は「紅一点」としてパフォーマンス要員に使われがちだ。
では女性は「鉄化」もせず、「斬り込み隊長」となることもなく、権力の座につくことはできないのか。出自に恵まれた「プリンセス」ならば、それは可能だ。小渕恵三元首相が亡くなった直後に、地盤を継承し26歳で当選した小渕優子議員は、その典型といえる。
先日来日して注目を浴びたイバンカ・トランプ米大統領補佐官は、大富豪にして現大統領の娘、起業家でモデルも務める美貌に3人の子持ちという、格差社会アメリカを象徴する最強の「プリンセス」である。今回の来日では、安倍総理主催の会食に招かれるなど、大統領補佐官としては異例の厚遇を受けたが、これも「プリンセス」ゆえか。
先日発表された世界経済フォーラムの男女平等ランキング(ジェンダーギャップ指数)で、日本は144カ国中114位と前年よりさらに順位を下げた。今この国では、「普通の女性」の引き上げこそが、求められているのではないか。
1970年生まれ。詩人。中原中也賞を受賞。「『居場所』のない男、『時間』がない女」(日本経済新聞出版社)を執筆し社会学者としても活躍。1児の母。
[日本経済新聞朝刊2017年11月20日付]
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