「もっと頑張れ!」 部下のやる気をくじく3つの英語
デイビッド・セイン「影の英語」(54)部下に努力を促す
ひとつの言葉は様々な顔を持っています。日本人の言葉が意図していない意味合いで伝わることもあります。日本人向けの英語教育で豊富な経験を持つデイビッド・セインさんが、日本人が使いがちな言葉から「影にある意味」を紹介します。今回は、部下にもっと頑張ってほしいと奮起を促す場面です。
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上司としてはやはり部下に期待するものです。なかなかその期待に応えてくれない部下に対して「もっと頑張ってほしい。頑張らないといけない」という気持ちがある場合、どのようにそのひと言を伝えるか、それが問題です。
正しい訳:君はもっと一生懸命やらなければなりません。
影の意味:頑張らないとね……
You have to… は実はネイティブにとってはかなり強い意味になります。「君は頑張らざるを得ないよ、そうしないとよくない結果があるからね……」という含みがあります。
正しい訳:本当に頑張っていますか?
影の意味:君って怠け者なの?
直訳すれば「君は本当に頑張ろうとしているの?」の意味。「本当にやる気あるの?」すなわち「君って怠け者なの?」ということになります。
正しい訳:もうちょっと頑張れないでしょうか?
影の意味:もうちょっとちゃんとできないの? それくらいもできないのか……
Can't you…? は「(普通の人ならできるのに)そんなこともできないの?」と相手への配慮や敬意を欠くきつい言葉と受け取られかねません。そのような問いかけをされても相手はどう答えていいか分からないはずです。
これなら影の意味はない
一生懸命頑張っていますが、もう少し向上する必要があります。
You have to…と違い、We need to… にすると相手を責めるニュアンスが薄まります。そのひと言の前に、例え努力や能力が足りないと思う場面があっても、You're trying hard.のように一度は頑張りを認めることで相手の受け取り方はずっと違って来ます。
君がもっと頑張れるようにこちらでできることはありますか?
まず相手には可能性や能力があることを前提にした発言。相手にただ「頑張れ、頑張れ!」と言うのではなく「私も関わっていくから頑張ろう」というひと言であれば、相手は思うところがあるはずです。How can I help you make better use of your time? 「君の時間をもっと有効に使えるようにこちらでできることはありますか?」あるいは How can I help you meet your goals? 「君が目標を達せるようにこちらでできることはありますか?」なども相手のためを思うひと言になります。
君はもっとうまくできるはず。皆君をあてにしているからね。
「あなたにはそれなりの力があることはもう分かっている」だからこそWe're counting on you. 「君をあてにしている、頼っている」ということは「あなたが頑張ってくれないと皆が困る」の意味。相手の実力を認めているからこそのひと言になります。
あなたが知らない本当の使い方――better
betterにはあまり知られていませんが「よくする、よくなる、改善する」など動詞の意味もありますが、文書で使われることが多く、一般的にはbetterは「比較級」の意味合いで使われます。「より良い、より優れた」のように「形容詞」の意味もありますが「さらに好ましく、もっとうまく」などのような「副詞」の意味もあります。
・The new factory isn't very good, but it's better than nothing. 新工場はあまりよくありませんが、ないよりもましです。
*better than nothing:nothing(何もない)よりはよい、すなわち「ないよりはましである」の意味。この場合のbetter は積極的な「よい」ではなく「まだましである」のように消極的な意味になります。
・Better late than never. しないよりはましである。
*never (決してしない)よりはlate (遅れる)方がよい。例えば、約束の時間に遅れてしまっても、顔を出さないよりはましである、というような場面に使われます。
・Better luck next time! この次はもっとうまくいくといいですね! 次は頑張りましょう。
*失敗した人への励ましの言葉になります。
・There's nothing better than really nice sushi. 寿司より素晴らしいものはない!
*nothing better than… :ほど~のものはない。比較級で表していますが、これは「最上級」で「一番素晴らしい」ことを表します。
・For better or worse, we have to change our strategy. よかれ悪しかれ、私たちは戦略を変更せざるを得ないでしょう。
*for better or (for) worse:良かれ悪しかれ、良くても悪くても、将来どうなろうとも
・The presentation went well, but I could have done better. プレゼンはうまくいきました。でももっとうまくやれたはずだと思います。
*<could + have + 過去分詞> は「仮定法過去完了」。「過去の事実」に反することを表します。「(過去の時点で)もっとうまくやれただろうに、でも現実はできなかった」の意味。I think I could have done better.「もっとうまくやれただろうにと思う」は過去のことを振り返ったり、ちょっぴり後悔する場合にぴったりのフレーズです。また 「(あの人・あなたよりも)私なら上手にできたと思う」の意味にもなります。
・I hope John quits. We're better off without him. ジョンが辞めるといい。彼がいない方がよい状態になります。
*be better off without:~なしの方が/いない方がよい、よい状態になる
・Try to better your record. 自己記録の更新を目指せ。
*better:向上する、改善する
do better 「よりよくする」は「向上する」の意味があります。この場合のdo は「する」という「動詞」ですが、Do you play tennis? 「テニスをしますか?」のdo は「助動詞」です。
「動詞」のdo はシンプルですが、非常に幅広い意味や使い方があります。I do the washing every Sunday morning.「私は毎日曜日の朝、洗濯をします」のようにdo + the +…(ing) で「~をする、~の行為を行う」の意味になります。
You can do with this. 「これで間に合わせられますよ」。do with は「~で間に合わせる、~ですませる」の意味になりますが、反対に We can do without this.「これなしですませられますよ」。do withoutは「~なしですませる」の意味。
2通りのスケジュールがあります。Which is more convenient to you? 「どちらがよろしいですか?」の問いに対して Either will do. であれば「どちらでもよい」ということ。この場合のdo は「とりあえず用が足りる」。Ten dollars will do. であれば「10ドルで間に合います」の意味になります。
シンプルな動詞ほど使い勝手がよく、使途も幅広いもの。使いこなせばずっと表現の幅が広がります。
Stay on the road to success.
:D セイン
※デイビッド・セインの「ビジネス英語・今日の一場面」は木曜更新です。次回は11月30日の予定です。
米国出身、20数年前に来日。 翻訳、通訳、執筆、英語学校経営など活動は多岐にわたる。企業や学校の人気セミナー講師。英語関連の出版物の企画・編集を手掛けるAtoZ(http://www.atozenglish.jp)・AtoZ 英語学校代表。