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新潟・村上のサケ料理 骨も皮もありがたく食べ尽くす

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NIKKEI STYLE

海に囲まれた日本列島では、海からの恵みである魚を、1匹まるごと余すことなく食べる食文化が各地にある。茨城のアンコウは皮も肝もまるごと鍋に入れて味わうし、青森や秋田ではタラを白子も肝も食べる。

なかでも「1匹まるごと」の極みと言えるのが新潟・村上のサケ料理だ。村上ではサケを鼻の先から中骨まで1匹まるごと食べつくすと言われ、実に100を超える多様なサケ料理が伝わる。

村上市内を流れる三面川でサケの遡上がはじまるのが毎年10月後半ごろ。この川で生まれ育ったサケは、海に出て回遊し、ふたたび産卵のために故郷に戻ってくる。それから12月にかけて村上はサケに沸く。

この頃から村上の街中で見られるのが、家々の軒先に、サケを吊り下げ、寒風にあてて乾燥させる風景。これは特産の「塩引きサケ」を作る工程だ。近づいて、サケのお腹のあたりを見ると、吊り下げられたサケは腹をすべて開かずに一部を残した状態でさばかれている。村上は村上藩の城下町として栄えた街であり、切腹が忌み嫌われたため、この独特のさばき方が広まった。

寛永3年から続くサケ加工品の老舗「千年鮭 きっかわ」では、店先にサケが吊り下げられている。店内に足を踏み入れると天井からは何百匹ものサケが下がり、圧倒されるほどの迫力だ。あたり一面にはほんのりとサケの香りが漂っている。今も昔ながらの伝統製法で作られる「塩引きサケ」は、こうして吊るされたまま北西の冷たい風にさらされ、乾燥や湿気により自然発酵が進む。

3~4週間で完成した「塩引きサケ」は、見た目は普通の塩サケと変わらないが、発酵によって旨味が凝縮されるため、通常の焼きサケとはまた違い、塩気は強いものの旨みが多く味わい深い。これだけで何杯でもご飯をおかわりできる「Theご飯の友」。

この塩引きサケをさらに1年かけて発酵をすすめたものが「サケの酒びたし」。村上の四季の気候で完熟させた、独特の発酵食だ。

薄くスライスしたものは水分が抜けてカチカチ。まるで板のようだ。だが食べる直前に日本酒に少しひたすと、サケと日本酒の香りがなんともいえない芳香を放ち、日本酒好きならにんまり笑ってしまいそう。

塩引きサケやサケびたしは村上の気温、湿度、風の吹き具合や風に含まれるマイナスイオンなどこの土地ならではの気候条件がそろってこそ、できあがる。他の土地では同じように仕上がらない。つまり、ここでしか作れない味なのだそう。

村上の人々とサケの関係を象徴する言葉に「イヨボヤ」がある。

「イヨボヤ」とは村上の方言でサケのことを指す。「ボヤ」とは魚のこと、「イヨ」は敬称だというから、「イヨボヤ」とはサケを尊び高めるために用いられた呼称だ。村上において、サケは尊ばれ、感謝される特別な存在だった。村上でサケがこのように尊ばれるようになった背景に何があったのだろう。

そこには、ある歴史が関わっている。サケはかつて藩の財政難を救った救世主だったのだ。

村上におけるサケの歴史は平安時代にさかのぼる。延喜式には朝廷への租税がサケで納められていたことが記されており、古くからサケは村上藩の貴重な収入源だった。しかし江戸時代になると三面川でサケがとれなくなってしまい、藩は財政難に陥る。この窮地を救ったのが、青砥武平治というひとりの村上藩士とサケだった。

青砥武平治はサケが生まれた川に帰ってくる回帰性に目をつけ、世界ではじめてのサケの自然ふ化増殖システム「種川の制」を考案。このことで藩は財政難から立ち直ることができた。

サケは藩を救った救世主。

村上の人々がサケをまるごと捨てることなく食べるのは、こういった歴史をふまえ、サケに対する感謝の気持ちを持っているからなのだそう。だからこそ、サケを身だけでなく、皮も軟骨も内臓も捨てずに調理していただく。

サケのことをあらわす言葉も独特で、各部位ごとに料理がある。イクラのことは「はらこ」と呼ぶ。イクラ丼は「はらこ丼」だ。「なわた」とは内臓のこと。内臓を味噌汁にした「なわた汁」はサケが上がったときだけ食べられる村上ならではの味噌汁。

「ドンガラ」は中骨のことで煮つけて食べる。「ドンビコ」は心臓のこと。心臓まで食べるのかとひるんでしまいそうだが、濃いしょうゆ味で心臓を煮つけた「どんびこ煮」は全く違和感なく佃煮感覚で味わえる。

「イチビレ」とは胸ビレ部分のカマのこと。1匹からふたつしかとれない希少な部位で、正月は年神様にお供えし、それから一家の主人が食べた。「イチビレは一家の主人しか食べてはいけない」と言われるほどだった。

サケの皮だって捨てない。サケ皮を揚げた「サケ皮せんべい」は村上版サケチップスといったところか。塩気がきいていて、おやつ感覚でポリポリ食べられる。塩引きサケの皮も酒の肴にする。鼻の軟骨は「氷頭なます」に。白子を寒風にさらした「寒風干し」は確かな噛み応えで日本酒に合う。煮つけた「白子煮」も食べやすい。

村上にはおいしいコシヒカリの産地である岩船もあり「〆張鶴」や「大洋盛」などおいしい日本酒を醸す蔵元もある。サケと白ごはん、サケと地酒。土地のもの同士を組み合わせて味わえるのも魅力だ。

市内にはサケに関する博物館であるイヨボヤ会館もある。なんと館内まるごとサケに関する展示という珍しい博物館だ。居繰網漁をはじめとした伝統漁法の展示、サケの種類のあれこれ、サケの生態について等、サケのことにこんなに詳しくなれる博物館は他にはそうないだろう。

サケは年中行事の食卓にも登場する。正月には「サケの飯寿司」を食べ、七五三にはおサケ料理で盛大にお祝いをする。7月7日の村上大祭ではサケの酒びたしを食べながら山車を曳き、大晦日に食べる年取り魚もサケだった。イヨボヤ=サケの食文化は人々の四季の暮らしの中で大切に受け継がれてきた。

サケに救われた歴史のある土地だからこそ、感謝してすべていただく。村上に根付くサケ料理は「食べる」ことの原点を教えてくれるようだ。

(日本の旅ライター 吉野りり花)

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