ご当地ちゃんぽん、透明スープやあんかけも 地域映す
全国各地のご当地ちゃんぽんを一堂に集め、その違いを味わいながら各地域の活性化を目指すイベント「ワールドちゃんぽんクラシック」が、11月11、12日の週末、福岡県久留米市の久留米シティプラザ六角堂広場で開催された。
ちゃんぽんというと、多くの人が「長崎」を思い浮かべるだろう。明治時代に長崎で誕生したと言われるちゃんぽんは、その人気とともに、やがて九州各地に広がっていく。各地に根付いた「ご当地ちゃんぽん」は、現地のくらしや食材事情から、長崎のときとは様々に姿を変え、ローカライズされた独自のちゃんぽんに変身していくのだ。
長崎でちゃんぽんのおいしさを知った人たちは、その味を地元で再現すべく、様々に試行錯誤を繰り返した。地域によっては手に入れにくい食材もあり、それは手近なものに置き換えていく。もちろん単なる「長崎ちゃんぽんもどき」では現地で受け入れられるはずもない。地元の人々の舌に合わせ、独自の工夫が施される。そうした課程で「ローカライズ」が起こるのだ。
たとえば、佐賀県の武雄市。長崎の隣県、佐賀県の炭鉱町に伝わったちゃんぽんは、海から離れた内陸のため、具からエビなどの魚介が姿を消す。その代わりになるのは豊富な野菜だ。さらに、炭鉱で働く人たちの旺盛な食欲と結びつく。その結果、野菜山盛りの、びっくりするような大盛りちゃんぽんが誕生した。
同様に工業都市の福岡県北九州市戸畑区に伝わると、また違った「ローカライズ」が起こる。戸畑を代表する産業は製鉄。旧八幡製鐵所戸畑工場の限られた昼休み時間に、多くの客が店へと殺到したため、ちゃんぽん特有の太い麺は、ゆであがりを早くするために細くなり、さらにゆで時間を短くしようと事前に加熱された蒸し麺が導入される。茶色い細麺のちゃんぽんの誕生だ。
ちゃんぽんは九州を飛び出し、四国にまで伝わっている。海運を通じて長崎とつながりのあった愛媛県八幡浜市のちゃんぽんは、ちゃんぽん特有の白濁スープではなく、鶏ガラ、カツオ、昆布などでだしを取った黄金色のスープだ。あっさり風味になり、麺も中華麺になる。
さらに本州では、ちゃんぽんはあんかけ麺になる。兵庫県の尼崎市や鳥取市、長崎との関係は不明だが、秋田市にもちゃんぽんがあり、いずれもあんかけ麺だ。
そう、同じちゃんぽんという名前のメニューでありながら、地域によって様々に形を変えた料理が全国に存在するのだ。
イベントに登場したご当地ちゃんぽんを紹介する前に、まず本家本元、長崎のちゃんぽんをおさらいしておこう。ちゃんぽんのルーツには諸説あるが、これから紹介する「四海樓」発祥説が一般によく知られている。
ちゃんぽんの原型になったのは、豚肉やシイタケ、タケノコ、ネギなどを具にしたあっさりスープを使った福建省の麺料理「湯肉絲麺」。これを長崎にある「四海樓」の初代、陳平順さんが、濃いめのスープ、豊富な具、独自のコシのある麺で日本風にアレンジした。
ちゃんぽんの代名詞とも言える白濁スープは丸鶏と鶏ガラ、とんこつを合わせて3~4時間かけて煮出したもの。具の魚介は、イカ、小ガキ、小エビなど、練り物も含めて長崎近海でとれる海産物がベース。また、独特の太いちゃんぽん麺は、麺に弾力を加えるかんすい=アルカリ塩水溶液の代わりに、中国由来の唐灰汁(とうあく)を使っている。
さぁ、イベントに出展したご当地ちゃんぽんを順次チェックしていこう。
まずは長崎県雲仙市の小浜ちゃんぽん。今回出展したご当地ちゃんぽんの中では久留米と並ぶ約100年の長い歴史を誇る。長崎とは橘湾をはさんだ対岸の湯治場だった小浜温泉には、海を渡ってちゃんぽんが持ち込まれたようだ。
特徴は具の殻付きエビ。地元では握りずしとセットで食べるのも定番だ。「ちゃんぽん番長」こと林田真明さんが、ちゃんぽんを旗印にまちおこしに奔走する物語は、テレビでドラマ化もされた。
島原半島からちゃんぽんは、再び海を越えて天草へと到達する。天草ちゃんぽんは「島民食」と呼ばれるほど地元に根付いた味。2013年には天草のちゃんぽんを対外的にアピールするため、仕様を共通化した「天草Sea×Oh!南蛮ちゃんぽん」を開発した。
透明なスープ、天草の塩、オリーブオイルでいためる、すり身を入れる(魚に限らない)、オリジナルの後付けソース、天草陶器の器は必須。さらには車エビ、タコ、天草産ブランド豚の「天草のこだわり食材」のうちいずれかをメインの具材する――というものだ。
天草へと至ったちゃんぽんは三たび海を越える。たどり着いたのは、熊本県水俣市だ。水俣チャンポンは、あっさりとしたスープが特徴。具も野菜がたっぷりでヘルシー。
そして最大の特徴が白っぽい麺だ。スープをしっかり吸い込む卵を使わないモチモチ麺がおいしさの秘訣だ。
久留米ちゃんぽんは、1917年開業の「光華楼」がルーツと言われる。このスープが後のとんこつラーメン誕生にも影響を与えたとも言われている。現在も食堂や屋台などで幅広く、様々な味付けのちゃんぽんが食べられている。
とんこつラーメン発祥の地と言われる久留米だけに、今回はとんこつ特有のうまみをしっかり効かせたスープで提供した。魚介の豊富さも魅力だ。
佐賀県の唐津上場ちゃんぽんは「ワールドちゃんぽんクラシック」の前身となった「全国ご当地ちゃんぽんサミット」をきっかけに誕生した。スープは玄界灘の塩を使ったあっさり味。メインの具材としてイカの口、通称「トンビ」を使用している。有名な呼子のイカ料理で捨てられていた部分を活用したものだ。
本州に移ろう。山口県長門市の「ながとりちゃんぽん」は今回が初登場だ。「やきとりの町」として名高い長門の、まさに焼き鳥を具に取り入れたちゃんぽんだ。
長門やきとりの最大の特徴である、後がけする大量のガーリックパウダーも、ちゃんぽんにかけて食べる。
鳥取市は、本州のちゃんぽんを代表する「あんかけ麺」で知られるが、今回は、鳥取市が全国でも有数のカレー消費量を誇ることから、カレーをあんかけ風にした鳥取カレーちゃんぽんを出展した。具として添えられている白いちくわは、鳥取のご当地グルメ、魚のすり身と豆腐を合わせて作ったとうふちくわだ。
兵庫県尼崎市からは「尼ちゃん」の愛称で親しまれている尼崎あんかけチャンポンが出展した。地元では唯一の共通点が「あんかけ」で、具材や味は店ごとに違うという。白濁スープとは一線を画した「あんかけラーメン」の味だ。
滋賀県彦根市の近江ちゃんぽんは、関西を代表するご当地ラーメンとしても広く知られるちゃんぽんだ。カツオ節や昆布などでだしを取り、薄口しょうゆをベースにしたかえしを合わせた和風のスープが特徴。たっぷりの野菜もヘルシーで、地元では酢をたっぷりかけて食べるのが作法になっている。
遠く北海道から参戦したのは、網走ちゃんぽん。練り物の町として知られ「日本一長いちくわづくり」で小浜ちゃんぽんを擁する長崎県雲仙市と対決したのが誕生のきっかけ。練り物を生かしたちゃんぽんを北海道に定着させるべく、小浜のスープを使って新たに「ご両地ちゃんぽん」を生み出した。
最後は海外から。韓国のちゃんぽんは、食堂はもちろん出前専門店まであるという、市民に深く愛されている定番メニューだ。ただし、味付けは韓国らしく真っ赤な辛いスープになっている。たとえ日本語が通じなくても、現地の店で「ちゃんぽん」と注文すれば、こうした真っ赤なちゃんぽんが運ばれてくると言う。
ご当地ちゃんぽんのキーワードとも言える「ローカライズ」は、海外にも波及したことになる。
札幌の味噌、福岡のとんこつなどご当地ラーメンは、その土地ならでは味わいが魅力。ちゃんぽんも同様だ。九州に限らず、旅先で訪れた店で「ちゃんぽん」のメニューを見つけたら、ぜひ注目してほしい。ちゃんぽんとの新しい出合いがそこに待っているかもしれない。
(渡辺智哉)
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