iPhone Xの販売でauが苦戦? 新料金プランの功罪
佐野正弘のモバイル最前線
米アップルの「iPhone X(テン)」の販売で異変が生じている。auにおけるiPhone Xの占める比率がNTTドコモやソフトバンクより低いようなのだ。auが主力と位置づける新しい料金プランが、高額な端末では割高に見えてしまう。そのことが災いしているのではないだろうか。
iPhone X人気でアップルの業績予想も大幅増
iPhone Xの人気と注目度は非常に高い。それは、2017年10月27日午後4時に始まった予約の段階から既に明らかだった。筆者も当日、Apple Storeや、iPhone Xを販売するキャリアの予約サイトなどでiPhone Xの予約にチャレンジしたのだが、予約開始直後はどのWebサイトもアクセスが殺到したようで、なかなか予約ページにアクセスできなかったほどだ。その後も品薄傾向が続く人気ぶりで、大手キャリアの関係者からは「もっと端末を供給してほしい」との声も上がっている。
そうしたiPhone Xの好調を反映して、アップルは18年度第1四半期(17年10~12月期)の売上高を、840億~870億ドル(約9.5兆~約9.9兆円)と予測している。ちなみに前年同期の売り上げは784億ドル(約8.9兆円)であったことから、約60億~90億ドル(約6800億~1兆円)の売り上げ増加が見込まれることとなる。iPhone Xの効果がいかに大きいか理解できる。
予約・販売が倍増の2キャリア、伸び悩むau
確かにiPhone Xの販売は好調だ。だが国内でそれを販売するキャリアの予約・販売動向を見ると、トーンにやや違いが見られた。
11月1日に開催されたKDDIの決算説明会で、同社の田中孝司社長は、auにおけるiPhone Xの事前予約数が、iPhone 8/8 Plusの1.5倍に達すると話していた。だが一方で、iPhone XとiPhone 8/8 Plusを合わせた予約数は、前年の「iPhone 7」「iPhone 7 Plus」の予約数とほぼ同じだという。iPhone Xの単価は従来機種より高いので、前年より売り上げはプラスになるだろうが、アップルの業績と比べると見劣りする。
一方、11月6日に実施されたソフトバンクグループの決算説明会で、ソフトバンク社長の宮内謙氏は、iPhone Xは「非常に順調な滑り出しで、iPhone 8/8 Plusの倍くらい予約がある」と話している。またiPhone 8/8 Plusも含めた予約数は、前年のiPhone 7/7 Plusを大きく上回っているという。
またNTTドコモに、iPhone Xの販売動向に関して確認したところ、iPhone Xの予約数はiPhone 8/8 Plusの約2倍とのこと。iPhone 8/8 PlusとiPhone Xを含めた予約数は、前年のiPhone 7/7 Plusを上回っているとの回答だった。
ちなみにNTTドコモ社長の吉沢和弘氏は、10月18日の新商品・サービス発表会で、iPhone 8/8 Plusの予約数が、前年(iPhone 7/7 Plus)の約7割だったと話している。そこで単純計算すると、iPhone Xだけで前年の1.4倍、3つの新機種を合わせると2倍以上の予約があったことになる。
いずれのキャリアもiPhone Xの販売が好調なのは確かだが、予約の比率で見る限りは、NTTドコモとソフトバンクに比べてKDDIは見劣りする。
「値引きなし」au新料金プランの弱みが露呈
auのiPhone X販売比率が低い理由は料金施策の違いにあると筆者はみる。auは17年7月に2つの新料金プラン「auピタットプラン」「auフラットプラン」を打ち出し、これら2つを主力のプランとしてユーザーへの浸透を図っている。従来のiPhoneは新料金プランの対象外だったが、新iPhoneの発売に合わせ、9月よりiPhoneも対象機種となっている。
そしてこれら2つの料金プランは、端末の値引きをしない代わりに、毎月の通信料を安くしている点に特徴がある。同様の料金プランとしてNTTドコモの「docomo with」があるが、docomo withは対象となる機種が限定されているのに対し、KDDIの新料金プランは全ての機種が対象となるため、適用するには10万円を超える高額なiPhone Xも、値引きなしで購入しなければならない。
それでは高額の端末が買いづらくなることから、auは月額390円を支払い、端末を48回の割賦で購入する代わりに、一定期間経過後に端末を買い替えると、残債の支払いが必要なくなる「アップグレードプログラムEX」と、買い替え頻度の高いiPhoneユーザーに向け、割賦期間を24カ月に短くした「アップグレードプログラムEX(a)」を提供している。
だがこれらはいずれも残債を支払う必要がなくなる代わりに端末が回収され、手元に残らない仕組みである。ユーザーからしてみればデメリットも大きい内容となっている。これまで契約期間の縛り以外、ほぼ無条件で端末代値引きの恩恵を受けてきた人たちにとって見れば「購入のハードルが上がった」と感じたことが、auで高額なiPhone Xを購入する人が伸び悩んだ要因になったと考えられる。
一方、NTTドコモやソフトバンクは、新iPhoneに関しても従来通りの料金プランが適用されることから、「月々サポート」「月月割」といった端末値引き施策もこれまで通り受けられる。加えてNTTドコモは「機種変更応援プログラムプラス」、ソフトバンクは「半額サポート for iPhone」と、auのアップグレードプログラムEX(a)に近い購入支援プログラムも展開。これらはいずれも機種変更時に端末こそ回収されるものの、auと異なり月額料金がかからないことからユーザー負担は比較的軽く、しかも値引きやポイント進呈などで大きな恩恵が受けられるため、高額なiPhoneを一層購入しやすくなる。そうした端末値引きの充実ぶりが、両キャリアのiPhone Xの販売増に拍車をかけたといえそうだ。
端末の実質コストは倍以上
上の表に、iPhone X(64GB)を3キャリアで購入した場合の端末コストの例を示した。24カ月で分割払いし、1年たった13カ月で次の機種に機種変更したときに、端末のコストが実質的にいくらになるのかを計算したものだ。2万7000円のソフトバンク、3万6768円のNTTドコモと比べると7万3440円のauは倍以上。かなり高く感じられる。
ただ、auの新料金は月額の通信料は安くなる。それを加味するとどうなるか。各キャリアが共通して提供している、5分かけ放題の料金プランと20GBのデータ定額サービスをセットで契約した場合の料金を、下の表に示した。
12カ月の通信料はNTTドコモやソフトバンクと比べて2万円程度安くなる。端末の実質コストと合わせると、1~2割程度の差と、比率的にはだいぶ近づいた感がある。それでもNTTドコモで2万円近く、ソフトバンクでは3万円近くもの違いがある。なお、auは他社にないプランとして、月額3480円から利用できる「auピタットプラン」も提供している。この料金プランを選んで各種割引やキャンペーン施策を適用し、なおかつ通信料を月1GB未満に抑えた場合は、iPhone Xを最も安く利用できる。
では、今回iPhone Xを予約しなかったauユーザーは一体どうしているのだろうか。最近は番号ポータビリティーによる乗り換えでは、メリットが得にくくなっているため、キャリアを乗り換えてまでiPhone Xを購入する人が多いとは考えにくい。むしろ、安くなったiPhoneの旧機種を選ぶ人が増えたのではないかと筆者はみる。
実は田中社長は決算説明会で、iPhoneの販売に関して「昨年と比べると、今年は分散化傾向が進んでいる」と話している。通信料と端末価格を安く抑えるため、値段が安くなった旧機種に流れた人も増えているのではないだろうか。特にiPhone 7/7 PlusはiPhone 8/8 Plusとの機能差が大きくないことから、お得感が高いのは確かだろう。
auの新料金プランは、通信料を引き下げることでMVNOへの顧客流出を阻止する狙いが大きかったが、今回のiPhone X商戦では逆に、高額端末が買いづらくなるという新料金プランのデメリットが出てしまったのかもしれない。iPhoneを積極的に買い替える先進的なユーザーは、データ通信を積極的に利用してくれる優良顧客が多い。KDDIにはその優良顧客を逃さないための、新たな施策が求められることとなりそうだ。
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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