よみがえるモーリス・ベジャールの世界

革新的な振り付けで世界に名を知られるモーリス・ベジャール氏。没後10年にあたる今年、その名を冠した名門バレエ団が3年ぶりの来日公演を行う。公演は11月17日の「魔笛」を皮切りに7日間で8公演。命日にあたる11月22日にはベジャール氏の名作と振り付けをえりすぐって構成した舞台も披露される。「バレエ界の革命児」「20世紀最大の巨匠」と呼ばれたベジャール氏の志を受け継ぎながら、後継者はモーリス・ベジャール・バレエ団をどこへ導こうとしているのか。ジル・ロマン芸術監督に聞いた。

ベジャール作品と自作を通して観客と交流・交換

――今回の公演の見どころは。

「すべてだ。本当にすべてのプログラムを薦めたい。どのプログラムも面白いよう、興味深い構成で組まれている。それぞれ異なったプログラムになっているので、一つを取り上げることはできない。すべてのプログラムを楽しんでほしい。私たちが一番大切にしているのは、観客と交流する、何かを交換するということだ。それをモーリス・ベジャールの古い作品と、私が振り付けをした新しい作品を通して表現したい」

モーリス・ベジャール氏は20世紀後半、バレエの古い形式美とは異なる革新的な動きをつくり出し、バレエに大変革をもたらした天才振付家だ。多様な文化や題材から発想を得て作った作品は300を超える。アフリカやアジアの文化にも関心が高く、とりわけ日本には愛着を持っていた。歌舞伎や三島由紀夫を題材にした作品もあるほどだ。ベジャールが率いるバレエ団が初来日したのは50年前の1967年のことで、今回で前身を含め17回目の来日公演となる。

公演のプログラムは3つ。初日の「魔笛」はモーツァルトの人気オペラをまるごとバレエで表現した、ベジャール的な作品だ。公演後半では名作「ボレロ」、フランスの国民的シャンソン歌手エディット・ピアフをモチーフにした「ピアフ」も登場する。「兄弟」は日本人ダンサーに着想を得てつくられたロマン監督の作品で、音楽には吉田兄弟の津軽三味線や美空ひばりの歌が使われている。

さらに、ベジャール没後10年を記念してロマン監督が構成したプログラム「ベジャール・セレブレーション」は、東京バレエ団のダンサーと共同で様々なベジャール作品の抜粋を演じる。

現実の超越を含むダンスの本質が人を感動させる

――モーリス・ベジャールらしさとは何か。

「一口で語るのは非常に難しい。『春の祭典』『ボレロ』『ピアフ』『魔笛』のような作品を思い浮かべるだけでも、いかに幅広く、多様な作品をつくっているかが分かると思う。それこそがベジャールだと思うし、なかなか言葉で説明するのは難しい。強いて言えば、ダンスを通して感動や、心動かされるものを伝えていくことができる人だった。そして常に人と何かを分かち合うことを求めていた。監督を引き継いだ私は、ベジャールの作品を変えていくことはしない。愛情を持って伝えていこうと思う」

――日本とのつながりをどう感じているか。

「日本は私にとって大事な国だ。初めて来日したのが20歳くらいのときで、最初はなかなかつらいところがあった。でも友人たちから少しずつ日本について学んでいった。そして日本に恋してしまうくらい、とても好きな国になった。日本には文化をはじめ、心を動かされ、自分にインスピレーションを与えてくれて、栄養になるものがたくさんある。食べ物と同じで、自分の中に取り入れたものは、振り付けにも反映される。日本は私にとって非常に豊かで大切なもの。同じようにベジャールにとっても日本は重要だった。彼のおかげで文楽や能を見ることができた。私は日本人ではないけれど、感情的には日本と強いつながりがあるように思える」

――今回の公演で、東京バレエ団と共演することについての感想は。

「他のバレエ団と共演するのは珍しいことだが、東京バレエ団とは非常に特別な関係で、ベジャールも私も兄弟カンパニーだと考えている。実際にベジャールは東京バレエ団のために作品を作ったこともあった。東京バレエ団も私たちと同様、モーリス・ベジャールの作品のために活動している。深い友情で結ばれたバレエ団だ。このような記念の公演は一緒に演じることが重要だと思っている」

――バレエの魅力はどこにあるか。

「ダンスには言葉で表現しにくい、本質的なものがあると思う。現実や現在というものを超越した何かが含まれている。それこそが人を深く感動させるのだと思う。日常生活から少し抜け出したい人には、ぜひ劇場に足を運んでもらいたい。非常に重要な栄養になる心の糧を差し上げられるはずだ。それは言葉で表現しにくいものだが、とても価値のあるもの、ミステリアスなものだといえる。人をひき付けたいときは、どんなものなのかを明確に伝えるのではなく、ミステリアスでむしろ分からない方が魅力的なのではないか」

人間の限界に挑戦する「肉体の魔術師」の振り付け

――芸術監督としてベジャール・バレエ団をどこに導くのか。

「自分はモーリス・ベジャールではないし、監督への取り組み方や稽古の仕方も違う。ただ、私の中にはやはりベジャールから受けた教育や考え方が息づいている。なので、ベジャールの要素は入っているけれど、常にすべてのものを問い直していくというのが重要だと考えている」

「ただ、それは意味もなくバレエ団を変えることではない。世の中は日々変わっていくので、それを受け入れ、我々も必要があれば変えていく。ベジャールの後継者としてバレエ団を引き継ぐということは以前から同意していて、2人ともこのバレエ団が広いレパートリーを持ちつつ、新たな創作活動もしていくようなカンパニーになることを夢見てきた。ダンサーが入れ替わっていき、世の中も変わっていく中で、そういうものを受け入れつつ、自分たちの考えを伝承していくバレエ団でありたい」

公演初日を3日後に控えた14日、ベジャール・バレエ団は東京バレエ団のスタジオで行った合同のリハーサルを報道陣に公開した。今回の映像ではこのリハーサルを捉えている。「ベジャール・セレブレーション」の通し稽古で、群舞による迫力のある舞台から、2人のダンサーによる優雅で美しい動きの作品まで、様々な振り付けが登場する。人間の限界に挑戦するかのような難しく、きつそうな振り付けをダンサーたちは軽やかに、心から楽しんでいるような表情で次々に披露していた。ベジャールが「肉体の魔術師」とも評されるのも分かる。古典バレエとはひと味違う動きは刺激的で、見ていてくぎ付けにされた。ベジャールの世界を堪能できる来日公演になりそうだ。

(映像報道部 槍田真希子)

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