布団だって芸術だ! 平均150万円、買うのは誰?
日本特有の文化であり、生活必需品の布団。近年海外でも「FUTON」という言葉が通用するほど、その価値が認められつつある。欧米人からするとクールで、「必要なときだけ出せばよくて便利」なものとして人気が高まっている。
しかし、日本では少々事情が異なる。一般住居から和室が激減するにつれ、就寝時はベッドを使うことが多くなった。寝具に関しても、掛け布団はともかく、敷布団の需要は減っていく一方。また、大量生産の外国製布団が安価で売られるようになり、昔ながらの方法で作られている国産布団はぜいたく品となっているようだ。
そこで立ち上がったのが、ライフスタイル関連製品を扱う商社のメルクロス。日本の老舗布団メーカー6社(アサギ、コドモわた、木村綿業、丸三綿業、マルゼン、四国繊維販売)を中心に、布団メーカー、布団職人が全く新しい布団を作り、発信していこうとしている。それが『FUTONSTAR』だ。
「和から離れよう」とひらめき
「競争」ではなく「協業」で、業界全体を盛り上げていくのが狙い。6社のなかで一番若手は、1966年創業の四国繊維販売。いずれも50年以上の歴史ある伝統企業を束ねたコラボレーションだ。
「文句のない技術力とクオリティーにアーティスティックな観点をプラス。唯一無二の布団として、『FUTONSTAR』を立ち上げた。自分だけのオーダーメードの布団というのが基本にあり、ここにあるものはあくまで『こんなことができますよ』というプレゼンテーションのひとつにすぎない」(メルクロス西川宗行社長)
先日開催された東京・南青山でのポップアップショップでは、ド派手な布団が勢ぞろい。価格も平均150万円という値札がついている。
どうしてこんなに高いのかと尋ねてみたところ、「例えばこの布団は、生地をプリントするところからオリジナルで起こしているのでどうしても高くなってしまう。中の綿も最高級のものを使用している」(コドモわた)とのこと。いやいや、それにしても高すぎるだろう。しかし、今回発表されたものはファッションでいうところの「コレクションライン」のような立ち位置なのだと考えると、ふに落ちる。
ちなみに、コドモわたの河村佑太社長は渋谷でDJもやるノリのいい経営者。「日本の和から離れよう」とひらめき、「シャンパンを飲みすぎてストリートで朝方目を覚ますようなヤンチャでクールな大人にささげるクリエーティブなふとん」を目指したとのこと。
ロックな布団は120万円
丸三綿業は世界文化遺産に指定された富岡製糸場のお膝元にある、1938年創業のメーカー。「神レベル」の布団をつくりたいと、最高級のシルクの中綿を使用し、末広がりの「8」と丸三の「3」を掛けた24、達磨大師の言葉などをモチーフに240万円の商品を紹介。
月産5万枚を製造する日本屈指の布団メーカーである、香川県高松市の四国繊維販売の作品は、その名も『SANUKI LEGEND』。ヘビーロックを表現した布団の値段は120万円だ。「本当に売れるのか?」と心配になってしまうが、「分かる人に買ってもらえればいい」とメルクロスの西川社長は言う。
今のところ販路はECのみで完全受注制。公式サイトに行ってみたが、正直、前衛的すぎて分かりづらいというのが率直な感想だ。サイト内にあるFUTONはあくまでも一例ということで、これを原案としてオリジナル発注の参考にしてもいいし、もちろんこのデザインでも注文できる。
海外の受注も想定
それにしても高いもので300万円超えのFUTONSTAR、一体誰が買うのだろうか。「こだわりのある人、最高級のものを身の回りに置きたい人、つまり限られた方々のためのものと考えている」(西川社長)。海外の受注も想定しており、公式サイトは英文も併記している。
注文を受けてから職人たちが生地を染め、中身を精錬し、最高の布団に仕立てるため、納期は3~4カ月後。早くも百貨店やアパレルブランドが興味を示しているという。これはこれでよいのだが、この10分の1くらいの現実的な価格で展開するものがあってもいいのではないだろうか。はたしてこの布団を買うのはどんな人物なのか、興味深いところだ。
(文 三井三奈子)
[日経トレンディネット 2017年11月8日付の記事を再構成]
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