2017/11/25

海保氏の今回の研究は、従来の説明に異議を唱えるものであり、森林火災だけでは地球全体の温度を下げるほどの煤は発生しないとしている。彼はまた、小惑星の衝突によって生じた煤は均等には分布しなかったと考えられ、このことは、北半球の方が寒冷化が厳しく、南半球の方が回復が早かったことを示すデータともよく合っていると主張する。

オランダのナチュラリス生物多様性センターの見学者の前にそびえ立つティラノサウルスの骨格。(PHOTOGRAPH BY MARTIN VAN DIJL, AFP/GETTY)

硫黄が原因である可能性も

しかし、1つ問題がある。最近、チクシュルーブ・クレーターの掘削調査が行われたが、炭化水素はあまり見つからなかったのだ。

チクシュルーブ・クレーターの海底部分の掘削プロジェクトに参加した米テキサス大学オースティン校の地質学者ショーン・ギューリック氏は、小惑星の衝突直後の寒冷化は、煤ではなく蒸発した硫黄が原因である可能性が高いと指摘する。

10月30日に『Geophysical Resesarch Letters』に論文を発表したジョアンナ・モーガン氏は、小惑星の衝突により約3250億トンの硫黄が放出されたと推測している。これは、地球を一時的に寒冷化させるのに十分な量だが、実際にはもっと多かった可能性がある。

ギューリック氏は、チクシュルーブから650キロ離れたハイチで採集された煤が、森林火災によって堆積したものである可能性があり、近く発表されるチクシュルーブの掘削コアの分析結果が、この部分の議論を明確にするだろうと言う。

そんな彼も、小惑星が衝突した場所が悪かったという点では海保氏と同じ意見だ。大きな小惑星が衝突した場所はほかにもあり、米国のチェサピーク湾やドイツのバイエルン州西部に痕跡がある。しかし、化石記録を見るかぎり、これらの小惑星は大量絶滅は引き起こさなかった。理由はおそらく、衝突地点の岩石の組成にある。

ギューリック氏は、「チクシュルーブに衝突した小惑星と同じ大きさの小惑星が衝突したときに、同じ規模の変化を大気に生じさせられるような地域は、地球上にはあまりありません」と言う。

犯人が硫黄であろうと煤であろうと、海保氏の研究は、古代の地球に起きた変化をシミュレーションする気候モデルの評価に役立つ可能性がある。

「それぞれのモデルで硫黄や煤や二酸化炭素が大量に放出された場合にどうなるかを見ていくことで、大気中の化学反応に関する問題を検証することができます」とギューリック氏は言う。「今日の気候変動の影響を考える上でも非常に重要です」

(文 Michelle Z. Donahue、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2017年11月10日付]

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