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体長60mのウミヘビ? 船乗りが恐れた海の怪物たち

日経ナショナル ジオグラフィック社

2017/11/26

ナショナルジオグラフィック日本版

オラウス・マグヌスによる「カルタ・マリナ」の一部。1539年に発行されたこの地図には、さまざまな海の怪物が描かれている

大航海時代の古い地図や海図を見ると、海のなかに奇妙な生き物が描かれていることがある。一見、ただの挿絵のように見えるが、巨大なクジラやウミヘビが船を襲っていたり、巨大なザリガニが人間を食べようとしていたりと、恐ろしい描写も少なくない。これらの怪物は、いったい何を意味しているのだろうか。

ナショナル ジオグラフィックの書籍『世界をまどわせた地図』でも、こうした海の怪物については取り上げている。同書は、神話や伝承、あるいは探検家の間違いや嘘などから生まれた「幻の世界の地図」を紹介する本だ。幻といっても、当時の人々には信じられていた世界であり、それゆえに地図にも描かれていた。前述した海の怪物たちも同様である。かつて船乗りたちが信じ、恐れていた怪物たちの姿が、地図に描かれているのだ。ここでは『世界をまどわせた地図』のなかから、16世紀の「カルタ・マリナ」に描かれた海の怪物たちを紹介しよう。

■美しく奇妙な海の怪物が勢ぞろい

豊かな想像力で描かれ、絶大な影響力を誇ったオラウス・マグヌスの北欧地図は、現在確認されている限りでは2枚しか残っていない。地図の名前は「カルタ・マリナ」。1539年に発行され、9枚の原版から印刷された地図は125×170センチにもなる。カルタ・マリナの海には、美しくも奇怪な生き物があちこちに描かれている。

「カルタ・マリナ」の全図。125×170センチもの大作だ

オラウスは怪物だらけの海を作るために、船乗りたちから話を聞いたり中世の動物寓話(ぐうわ)を読んだりするなど、民間伝承を広く調べて情報を集めた。なかでも有名なのは、1555年にローマで発行された彼の著作『北方民族文化誌』だ。あまり現実的とは思えない描写も混じっているが、オラウスの意図は海洋生物に関する科学的な知識を正確に世に広めることにあった。

もちろん、登場する生き物のなかには、実在の生物の姿をねじ曲げたようなものもあるし、神話にしか登場しないようなものもある。だが、このような怪物たちを16世紀の船乗りたちは信じ、恐れていたのだ。以下、カルタ・マリナに登場する怪物のなかから8種を紹介する。

■オオウミヘビ

「200フィート(60メートル)はありそうな巨大な体を持つヘビがいる。太さは20フィート(6メートル)を超え、ベルゲの海岸付近の岩礁や洞窟にすむ。首から1キュービット(50センチ弱)ほどの長さの毛を垂らし、ウロコは鋭く、色は黒い。その眼は燃えるような光を放つ。このヘビは船乗りたちを恐れさせ、柱のように高く頭を持ち上げて人間をつかまえ、食べてしまう。しかし、それが起こるのは、近くにある王国に大きな変化が迫っているときに限られていた。オオウミヘビの出現という前触れの後には、王子が死んだり、追放されたり、あるいは大きな戦争が起こったりしたという」

これは、もともとノルウェーに伝わる大蛇の紹介だった。おそらく、北欧神話に登場する蛇の怪物ヨルムンガンドの影響を受けていると思われる。ヨルムンガンドは海の深さよりも大きく成長し、ついには世界を丸ごとぐるりと取り囲むほどになったという。

■ウミブタ

「私自身も1537年に目撃したこの怪物のような海のブタは、ゲルマン海のいたるところを泳いでいる。ブタの頭を持ち、後ろから見ると月のように丸く、4フィート(1.2メートル)ほどある後頭部は竜のようだ。胴体の両側に目が2つずつあり、へその位置を示すような第3の目が腹についている。尾は普通の魚と同じくギザギザしながら二股に分かれている」

オラウスはこの海のブタについて、古代ローマの博物学者プリニウスの観察記録をそのまま引き継いでいる。プリニウスは「豚魚」がつかまるとブタのように鳴くと記した。セイウチを脚色した可能性が高いと思われる。

■ポリプス

この巨大なウミザリガニはポリプスと呼ばれる。船乗りや泳いでいる人間をつかまえ、非情にも食べてしまう恐ろしい怪物だ。ポリプスは体の色を変えて周囲と同化することができ、最も恐れる敵であるアナゴから逃れるためにそうする場合もあるという。

「まるで海水など存在しないかのように自由自在に足を伸ばし、血に飢えたギザギザのハサミを使って、近くに来たあらゆる生き物をつかむ。どんな獲物でも、自分がすむ穴の中に溜め込んでいく。それから皮をはぎ取り、肉を食べ、獲物に群がってくる魚も捕まえる」

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