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スコッチを育んだフランス食文化 ワインの技術を応用

世界5大ウイスキーの一角・ジャパニーズ(9)

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NIKKEI STYLE

前回、スコットランドが「オールドアライアンス」で保障された権利を最も活用したのが「フランスワインの輸入」であったと書いた。ワインはフランスからの輸入品目中最大の量であり、中でも「クラレット」と呼ばれていたボルドー産赤ワインが中心であった。フランスのボルドー、ロッシェル、ルーアンなどのワイン積み出し港の主な目的地はエディンバラのリース港であり、ワインの取扱量ではロンドンに次ぐ2番目の規模を誇っていた。

リースで蓄積した、そんな分厚いワインのインフラが後にウイスキービジネスを担うことになる。

評価が高まる国産ウイスキーへと至るウイスキーの歴史と魅力をひもとく本連載、今回はワインがスコッチに与えた影響を紹介する。

リースは1989年に始まる私の留学時代には想像もできないほどの大きな変貌を遂げた。以前のリースは寂しい町だった。

しかし、私はリースに良く通った。訪れたのは、ザ・ヴォールツと言う名の建物。スコッチシングルモルトの会員制頒布組織の本部と付属の広くゴージャスなラウンジがあったからだ。

ラウンジのバーカウンターの壁に設えられた製品棚にはぎっしりとグリーンの製品瓶が並ぶ。その奥の製品庫には、おそらく数千本と思われる製品が保管されていた。発表されたばかりの製品もいち早く飲むことができた。ここで私は実に様々なスコッチシングルモルトを味わった。顔なじみのバーマンがウィンクしておまけしてくれることもあった。

建物は1682年にエディンバラ・ワイン商ギルドの資金で建設され、1753年から1960年までの長きにわたってワイン商トムソン家が賃借していた。その後ビール会社の手に渡り、1983年に現オーナーの所有となった。1階や地下にはワイン貯蔵庫跡が残っている。

元々多くのスコットランド人がフランスに渡って、フランスの食文化に触れていたが、人口ではイングランドよりはるかに少ないスコットランドへの膨大なワインの流入は、スコットランド人の味覚に大きな影響を与えたと思われる。このフランスとのつながりはイングランドともアイルランドとも異なるスコットランドの、そしてスコッチウイスキーの独自性の源泉の一つになったと考えている。

スコッチウイスキーはエールを蒸溜したものであると書いた。そのエールとはどのようなものであったか? 修道院で醸造されていたもの、ホップは未使用であったのではないかと言うこと以外、残念ながら証拠を見付けることはまだできていない。

一方、エールの持つ可能性を確認することはできる。

前回紹介したレッドエール「デュシェス・ドゥ・ブルゴーニュ」を思い出していただきたい。まるで麦で造った赤ワインである。しかし、ブドウ果汁を加えているわけではない。エール酵母は、ワインの果実香の成分を造ることができるし、赤ワインのタンニンは麦芽を焦がしてできるメラノイジンで代替できる。昔は雑菌を抑えるホップを使っていなかったので、乳酸菌も生育してくる。エール製造技術を駆使すれば、「デュシェス・ドゥ・ブルゴーニュ」レベルの味わいは難なく造ることができるのである。

レッドエールでなくても、エールを原料にして蒸溜することには香味形成上様々なメリットがある。

まずエール酵母は、例えばどの家庭も持っているパン酵母に比べて、華やかな果実香の源であるエステル成分を多く造る。発酵が終わると自己消化という現象で、自らの細胞を溶かし、体内にためられていた成分を発酵液中に流出させ、蒸溜液の香味を増す。乳酸菌の造る乳酸も香気成分を増やし整えるのに役立つ。

スコッチの厚みのある多彩で複雑な味、香りはエールの蒸溜でこそ実現できたと私は考えている。

フランスのワイン文化は、スコッチウイスキーが酒として進化する上でとても重要な、3つの概念をもたらした。

<ワインのもたらした概念(1):グレード>

ワインにグレードが存在することはヨーロッパの王侯貴族、富裕層の間では良く知られていた。最高品質はブルゴーニュのヴォーヌ・ロマネで産み出されていたことは常識だった。

グレードが高いワインの特徴は、多彩な香味、バランス、クリーンさ、味わいの強さによる後口の長い余韻などである。この品質の特徴はスコッチウイスキーに応用され、確実に深められて行った。特にスコットランドの北部、ハイランドと呼ばれる地域や島々では、ワインやブランデーを飲んでいる貴族や領主が、酒を造る小作人や密造業者たちの品質向上への努力を後押ししたと言われている。

アイルランドでは粗末なポティーン(密造酒)か、大規模蒸溜釜で3回蒸溜した軽快で口あたりがよく、飲みやすいウイスキーが主流であった。それに対しスコットランドでは、エディンバラやグラスゴーなどが位置するローランドではアイルランドと状況が似通っていたものの、ハイランドではエールを小型蒸溜釜で蒸溜して造った重くて飲みにくくはあったが香味豊かなハイランドモルトが様々な種類造られていた。

<ワインのもたらした概念(2):ブレンド技術>

フランスはじめ、海外から輸入されるワインは大だるに入れられて運搬された。

多くのワイン商たちがいて、品質を見ながらそれら大だるのワインを小だるやつぼ、そして瓶などに小分けして顧客に供給していた。彼らがウイスキーを扱い始めた時、ワインで培った技術を応用したことは想像に難くない。ウイスキー同士を混ぜ合わせて、品質を安定させ、新たなおいしさを造り出す「ブレンド」は、ワイン商たちが最も得意とするところであった。

実際に、ウイスキーでモルトにグレーンを混ぜたブレンデッドの手法が誕生すると、多くのワイン商たちが、様々な名ブレンドを造り出した。

<ワインのもたらした概念(3):熟成>

ワイン商たちはたるやその他容器に入れておくとワインがまろやかになること、つまり樽後熟による「なじみ」効果や風味の安定化に精通していたと思われる。しかし、ワインによっては、そのようなささやかな品質向上をはるかにしのぐおいしさのポテンシャリティーを持つものがあったのだ。

最も象徴的な例が、先程のブルゴーニュ、ヴォーヌ・ロマネのロマネ・コンティやボルドー、メドック、グランクリュ1級のラフィット・ロッチルドである。

ロマネ・コンティの場合、若いヴィンテージは30万円で買える。それが30年ほどたち、飲みごろになると200万円以上に跳ね上がる。この価格の差こそが熟成によって加わる価値である。その価値は、深く多彩な香味とそのバランスの良さ、クリーンだが厚みがあり心地良い余韻が長く続くという「おいしさ」そのものである。

度数が低いワインと度数の高いウイスキーでは、樽熟成、瓶熟成の目的やメカニズムは異なる。しかし、時間をかけておこなう熟成がもたらす効果により味わいの向上が大きいものと効果が出にくいものがあるという点では、ウイスキーもワインも共通である。

熟成という過程で「おいしさ」という価値が高まるウイスキーをどう造るかという命題をいち早く理解したのがスコッチであった。樽熟成でますますおいしくなるものと、こはく色が付いてはいても、それほどおいしくならないものがあることを彼らは見極めていった。

彼らはまた、熟成のポテンシャルが高いウイスキーを加えることで混和した液全体の品質を調整する「ブレンド技術」を思う存分使って、優れたブレンデッドを世に送り出したのだった。

ワインの場合、瓶熟成で熟成ポテンシャルの高いものはグランヴァンと呼ばれている。シャンパーニュも特級は素晴らしい熟成香味が出てくる。コニャックも熟成ポテンシャルが高いものがある。ワインの場合、ブドウの品質を決めるブドウ畑のテロワール(ブドウが育つ全ての自然環境)が非常に大きなファクターとなる。コニャックにしてもグランシャンパーニュ地区、そしてプチシャンパーニュ地区で収穫されたブドウは他の4つの地区に比べ圧倒的なおいしさを持つ。

ウイスキーの場合も、テロワールはもちろん非常に大切だが、ワインに比べ人が判断し、条件設定しなければならない工程が多い。最後は気候や環境などの自然条件に委ねることになるが、ギリギリまであらゆる努力を尽くす余地があるのだ。そこにウイスキーの進化がある。産業革命とともにウイスキーが享受した技術については次回で触れたい。

今回ご紹介するウイスキーは、3本。全てシングルモルトである。

赤ワインの味わいの面影が感じられる2本と『The most richly flavoured of all Scotch whiskies』。

1本目:ボウモア18年(アイラモルトの女王)

<柔らかいスモーキー、フルーツコンポート、樹液の香り、プラムジャム、ブドウ、甘いスモーキーな味わい>

2本目:バルヴェニー14年カリビアンカスク

<トロピカルフルーツ、クリーミーな香り、リンゴ、マンゴー、ブドウ、オレンジ、バニラの味わい>

3本目:ラフロイグ10年(アイラモルトの王『The most richly flavoured of all Scotch whiskies』)

<力強いピート香、スパイシー、磯の香り、バニラアイス、海草、黒コショウ、唐辛子、たるの味わい>

1本目と2本目に共通する赤ワインを連想させる香味、1本目と3本目はともにアイラモルトだが、そのスモーキーの違いの対比をお楽しみいただきたい。

(サントリースピリッツ社専任シニアスペシャリスト=ウイスキー 三鍋昌春)

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