カードサイズの新携帯 通話とモバイルルーターで活躍
SIMフリーで利用できる超小型携帯電話「NichePhone-S」(フューチャーモデル、税込み1万780円)が面白い。そのサイズ感やSIMフリーという特徴以外に、テザリング機能を備えているのが大きな特徴。クラウドファンディングサイト「Makuake」では1800万円を超える支援を集めた。実際の使い勝手はどんなものなのか。隅々までチェックしてみた。
メールやウェブ閲覧はできない
格安スマホでもひと通りの機能を備えている昨今だが、NichePhone-Sは機能をかなり限定している。基本となる「通話」と「SMS(ショートメッセージ)」は利用できるものの、インターネット関連のサービスは非対応。メールも使えない。
そのなかで、唯一使えるのがテザリング。携帯電話というよりも「モバイルルーターに通話機能を付けた製品」といったほうが実態に近いかもしれない。
サイズはとても小さい。クレジットカードとほぼ同じで、厚さも6.5mmと非常に薄い。重さも38gと軽いので、胸ポケットなどにも気軽に入れられる。
画面はモノクロの0.96型有機EL画面を搭載。画面タッチでの操作には対応しない。番号ボタンといくつかの機能ボタンで操作する、昔の携帯電話に近い構成となっている。
デジタルガジェットっぽい尖った感じはなく、全体的に丸みを帯びたカジュアルなデザイン。何も知らなければ「電卓?」と思ってしまう人もいるだろう。
OSにはAndroid 4.2を採用している点も興味深い。現状こそ機能を絞っているが、場合によってはOSのバージョンアップなどで機能が追加できそうな点は、今後の可能性を感じる。有機ELといいAndroid OSといい、気づきにくい部分で新しい技術が使われている。
連絡帳はシンプルだが日本語入力に難
ここからは各機能の使い勝手を見ていこう。
SIMカードはNanoSIMに対応し、通信回線はNTTドコモとソフトバンクの3G/W-CDMAネットワークに対応する。SIMフリー端末なので、多くの格安SIMが利用可能だ。
通話関連では「連絡帳」機能を備え、呼び出してすぐに電話をかけたりSMSを送ったりできる。登録できる内容はとてもシンプルで、名前と電話番号のみ。メールが使えないのでメールアドレスを登録できないのはもちろんのこと、メモ書きなどもできない。やや物足りなくもあるが、機能を絞っていることを考えれば逆に潔いともいえる。
気になったのは日本語入力の単語の少なさ。それほど珍しくない名前(大木、近藤、佐々木、中西など)でも、そのまま変換できないことがあったので、名前の入力にはちょっと手間取ると感じた。この辺りは、早期に強化してほしい点だ。
なお、メモリーカードスロットがないため、他のスマホに登録済みのデータを移す場合などはSIMカードを利用する。SIMカードに保存した連絡帳データを本体にインポートしたり、逆にエクスポートしたりすることが可能だ。これでも使えないことはないが、個人的にはAndroid OSを搭載しながらグーグルの連絡先を活用できないのはやや残念に感じた。
通話の音質は、今回使った感じではとくに問題や不満はなかった。相手の声はしっかり聞こえたし、相手にもちゃんと届いていた。ただ、1つだけ気になったのは通話のボリュームを変える方法がないこと。聞こえやすいのはとてもよいのだが、逆に静かな場所では音漏れする可能性が高いので、これについても機能追加が望まれる。
テザリング機能は簡単で使いやすい
テザリングは、NichePhone-Sをアクセスポイントとして、ノートPCやタブレット端末、携帯ゲーム機などでインターネット接続を可能にする機能だ。NichePhone-Sでは専用ボタンを備えており、簡単にオン/オフできる。この点が最大の魅力で、シンプルだからこその使い勝手の良さといえる。
筆者は通常、手持ちのタブレット端末でインターネットをする場合はAndroidスマホのテザリングを利用している。ただし、その際は一度スマホの画面を表示させ、クイック設定パネルのテザリングボタンをタップして機能をオンにする必要がある。これに比べると、NichePhone-Sは物理ボタンで素早く操作できるのでとにかく簡単でスムーズ。とても使いやすいと感じた。
なお、テザリング用のネットワークSSIDやパスワードは変更可能。その設定に応じて、利用したいノートPCやタブレット端末、ゲーム機などでWi-Fi接続を設定すればOKだ。これらの設定は既存のスマホと同じなので、すでにテザリングを利用している人であれば問題なく使いこなせるだろう。
音楽再生や録音にも対応
機能を絞ったシンプルさがNichePhone-Sの魅力だが、とはいえ電話やテザリング以外の機能が全くないわけではない。その他の機能として「音楽再生」と「録音」、そして一般的な目覚ましの「アラーム」を備えている。
音楽再生は、いわゆる音楽プレーヤーとして利用できる機能。SDカードスロットは装備せず、本体の保存領域も約100MBしかないため、高音質な音楽データを多量に保存しておくことは難しいが、ランニングや通勤中などのBGM的な使い方として割り切れば十分活用できる。
なお、NichePhone-Sはイヤホンジャックは搭載していないが、Bluetooth機能は内蔵しているので、Bluetooth対応のワイヤレスヘッドホンやスピーカーで楽しめる。
録音は、ボイスメモやミーティングの記録などで利用できる便利機能だ。ただし、音質の選択などをできず、データの保存領域も100MBしかないので、その点を踏まえるとオマケ的な要素は強い。いざというときの最終手段や、ちょっとしたメモ用の録音として活用するとよいだろう。
待機時間は3日間
最後に、バッテリー容量は550mAhで連続通話時間は約3時間、待機時間は約72時間となる。通常のスマホと比較して、バッテリーが最長で3日持つのはありがたいところだ。また、テザリングでの利用時間は公表されていないが、機能をオンにした待機状態では7時間半ほどバッテリーが持った。
バッテリーの充電には専用コネクタが必要となる。汎用的なマイクロUSBケーブルをそのまま利用できない点は手間といえるが、マグネット式の専用コネクタは本体背面の電源端子へ簡単に着脱できるのがメリット。日常的な充電はUSB端子よりもはるかにスムーズで手間なくできるので、利便性を重視すればこれもありだと感じた。
2台目ニーズにおすすめ
ここまで見てきてお分かりの通り、NichePhone-Sは機能を大幅に絞っていることもあり、利用にあたっては別のスマホやタブレット端末を持っていることがほぼ前提となる。そのため、2台持ちユーザーがサブとして利用するのが基本となるだろう。
端末としては、特定の機能に特化しているからこそコンパクトかつ軽量で持ち運びやすく、シンプルな操作で使えるのがメリットといえる。通話とテザリング以外の機能はどれもオマケ程度なので全ての人が利便性を感じるわけではないが、1万円で購入できるコスパの良さも含めれば、ニーズにうまくハマった人にとっては最適な1台となるだろう。
(ライター 近藤 寿成=スプール)
[日経トレンディネット 2017年10月13日付の記事を再構成]
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