「亜鉛は脳の認知機能にも関与します。うつ傾向で意欲が低下して外出が減ると、身体機能は衰えていきます。亜鉛欠乏症では、肌荒れや脱毛で老けて見えやすくなるので、それも外出する意欲を低下させるでしょう。こういった悪循環は、フレイルから要介護へと一直線につながっていきます。若々しさと健康を保つためには、亜鉛というキーワードをぜひ認識してください」(平澤氏)。

フレイルとは、高齢者の身体機能や認知機能が低下して虚弱になった状態のこと。フレイルから要介護へと進むことが多く、要介護予備軍とも言える。亜鉛不足がもとで要介護になってしまったら、大変だ。

薬の影響でも、味覚障害が起こる

味覚障害には、普段から飲んでいる薬が影響することもある。そのメカニズムは薬の種類によってさまざまだが、中でも注目されるのは、「亜鉛キレート作用」の影響だ。キレート作用とは、化学物質が金属イオンを包み込むような形で結合すること。亜鉛はキレート結合すると体外に排出されやすくなるため、亜鉛をいくらとっても、どんどん排出されてしまう。結果的に、亜鉛不足による味覚障害を起こすというわけだ。

亜鉛不足が原因の味覚障害は、根気よく治療をすれば改善することが多い(C)Katarzyna Bialasiewicz-123rf

亜鉛キレート作用を起こす薬は慢性疾患に使用するものが多く、何百種類もある。高齢者は、さまざまな慢性疾患を抱えていて、服用する薬の種類が多くなりがちなため、薬剤による味覚障害も多いと考えられる。

「高齢者の味覚障害が、薬剤による亜鉛不足が原因と分かっても、病気の治療に必要な薬はやめられません。そうなると外から亜鉛を補うしかないのですが、多量の亜鉛製剤を飲んでも亜鉛がどんどん排出されていくので、改善するまでにかなり時間がかかります」と任氏。

だが、亜鉛不足による味覚障害なら、根気よく亜鉛を補充していけば、治ることも多い。

任氏によると、「亜鉛補充療法に漢方薬を併用すると、亜鉛欠乏性の味覚障害と特発性の味覚障害[注2]は7割以上が治ります。ただ、効果が表れるまでに3カ月から半年はかかりますので、あきらめずにじっくり治療をしてください」とのことだ。

「感覚に関する加齢変化を調べた調査では、味覚は視覚、聴覚、嗅覚に比べて、年を取ってもそれほど衰えないことが分かっています。ですから味覚障害は高齢者でも改善しやすく、特発性と亜鉛欠乏性に限ると、65歳以上と65歳未満の改善比率は、ほとんど差がありません」と任氏は言う。

これは、味覚障害に悩む高齢者には朗報だろう。

自己判断で大量摂取すると過剰症の恐れも

味覚障害は、一緒に食事をした人から指摘されて気付くことが多い。ひとり暮らしの人は、食事をまずく感じたら、「ひょっとして味覚障害かも?」と疑ってみることが肝心だ。

「以前と同じように作っているのにまずい、味が薄いと思うようになったら、要注意」(平澤氏)。「台所に置いてある塩や砂糖をちょっとなめてみて味が分からなければ、ほぼ味覚障害」(任氏)なので、そういった方法も試してみよう。

ただ、自己判断で亜鉛不足と考え、亜鉛サプリメントをむやみに飲むのは禁物だ。亜鉛には過剰症があって、とり過ぎると貧血、免疫力の低下、性機能低下、味覚や嗅覚の低下などが起こる。これらの症状は亜鉛欠乏症と似ているので、過剰になっていても分からずにサプリメントを飲み続け、ますます悪化する恐れがあるという。

ひょっとして亜鉛不足かもと思ったら、まずは医療機関を受診して、血液検査で亜鉛の値を測ってもらおう。低亜鉛血症と診断されたら、保険診療での治療が可能だ。亜鉛を豊富に含む食べ物から亜鉛を摂取することももちろん重要だが、亜鉛欠乏症と診断されるほどの亜鉛不足になったら、医師の指導の下、適切な治療を受けて、以前の味覚と食欲を取り戻そう。

[注2] 特発性味覚障害:亜鉛欠乏性、薬剤性など他の原因にあてはまらない味覚障害を特発性と分類する。特発性の多くは潜在性の亜鉛欠乏症と考えられる。

任智美さん
 兵庫医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科講師。2002年兵庫医科大学卒業。同大耳鼻咽喉科、神戸百年記念病院耳鼻咽喉科、ドイツ・ドレスデン大学嗅覚・味覚クリニックなどを経て2014年2月より現職。日本でも数少ない味覚外来を担当する。医学博士、耳鼻咽喉科専門医。
平澤精一さん
 マイシティクリニック(東京都新宿区)院長。1981年日本医科大学卒業。同大大学院医学研究科、同大泌尿器科、河北病院などを経て1992年、東京都新宿区にマイシティクリニックを開業。1996年医療法人社団医精会理事長、2016年より東京医科大学地域医療指導教授を兼任。医学博士、日本泌尿器科学会認定専門医。

(ライター 梅方久仁子)

[日経Gooday 2017年11月6日付記事を再構成]

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