我が家のWi-Fi、手軽に高速化 3台で全室カバー
筆者宅は、狭小地に建てた3階建ての一戸建てだ。仕事部屋が1階にあるため、Wi-Fiルーターも仕事部屋に設置している。このため、2階や3階は電波の入りが悪くなり、通信スピードが落ちるのが悩ましかった。筆者宅のような住宅のWi-Fi環境を改善できるWi-Fiルーターとして話題になっているのが、ティーピーリンクジャパン(TP-Link)の「Deco M5」だ。3台のWi-Fiルーター(以下、ユニット)で構成されており、最大420立方m(3台の場合)の広い範囲をカバーできる。実際に使えるのか、試してみた。
スマホで設定、専門知識は不要
Deco M5を設定する際にパソコンは必要ない。スマートフォン(スマホ)を使ってセッティングする仕組みだ。1台目のユニットを自宅のモデムやルーターとLANケーブルで接続し、電源を入れると自動的に回線を認識してくれるので、あとはスマホに専用アプリを導入してアプリの指示に従って設定していけばよい。Deco M5とスマホはBluetoothで接続してセッティングを進めていく仕組みだ。
設定項目も最小限で済むように工夫されている。ユニットをフレッツ光のモデムに直接接続する場合、PPPoE接続の設定が必要になるが、そのときはスマホアプリにIDやパスワードを入力する画面が表示される。しかし、既に接続設定済みのルーター経由でつなぐとIDやパスワードの画面は表示されなかった。自動で回線を判断して、必要な設定画面だけが表示される仕組みになっているようだ。Wi-Fiルーターというと、ネットワークの接続設定やWi-Fi設定が難しい印象があるが、Deco M5はスマホアプリ上の操作だけでとても簡単に設定できた。
Deco M5は、複数のユニットを組み合わせて利用する仕組みだが、2台目以降の設定もスマホアプリ上から簡単にできる。ユニットを設置したい場所で電源ケーブルを接続して起動し、1台目のときと同様にアプリの指示に従ってBluetoothで接続すれば、基本的な設定がアプリから転送される仕組みだ。
Deco M5は、このようにして最大10台までユニットを増やすことができる。すべてのユニットに同じSSIDで接続できる「ART」(アダプティブ ルーティング テクノロジー)を採用しているので、もっとも効率よく通信できるユニットに自動で接続して通信が可能になる。
また、Deco M5は2.4GHzと5GHzの周波数帯に対応しているが、これも周辺の状況に応じて自動的に選択されるので、ユーザーが選ぶ必要はない。このあたりの工夫は、デジタル機器に詳しくない家庭にとってありがたいポイントといえよう。
3階の通信速度が劇的に改善
では、一戸建ての家庭にDeco M5を設置すると、Wi-Fi環境は実際どれぐらい改善するのだろうか? 前述の通り、筆者宅は3階建ての一戸建てで、普段は1階の仕事部屋に理論値で1733Mbpsの高速通信ができるIEEE802.11ac規格のWi-Fiルーターを設置している。この状況と、Wi-Fiルーターの代わりにDeco M5を1階の仕事部屋と2階・3階の階段近くに1台ずつ設置したあとの状況を比べてみたい。
Wi-Fiの電波の強さは無料アプリ「Wi-Fiミレル」(アイ・オー・データ機器)のヒートマップ機能で確認した。緑が電波強度が強いところ、赤が弱いところになる。
1階の仕事部屋では、どちらの環境でも実測で200Mbps超の通信速度を計測できた。2階のリビングでも130Mbps超を記録し、ほとんど不満は感じなかった。もともと利用していたWi-Fiルーターが高速タイプだったこともあり、1階と2階では通信速度に大きな違いは見られなかった。強いていえば、2階の奥にある和室の電波強度がDeco M5の導入後に若干よくなった点は評価できる。
顕著な差が見られたのが3階だ。これまで、3階の寝室ではWi-Fiの通信速度は10Mbpsを切ることがほとんどで、YouTubeなどの動画ストリーミングは再生が途切れることが多かった。しかし、Deco M5では大幅に改善した。
スピードテストで3階の速度を測ったところ、802.11acのWi-Fiルーターでは、下りがわずか6Mbps台にまで遅くなっていた。Deco M5では下りは38Mbps超にまで改善され、動画も途切れることなく視聴できるようになった。今回は、電源が取りやすい階段近くに設置したが、設置する場所や高さを見直せばさらに通信速度は速くなりそうだ。
セキュリティー機能を搭載
Deco M5には、セキュリティー機能「TP-Link HomeCare」が備わっている点も評価できる。これは、ウイルス対策ソフトなどを手掛けるトレンドマイクロのコアテクノロジー「Trend Micro Smart Protection Network」技術を採用したセキュリティー機能だ。アンチウイルス機能や悪意のあるWebサイトへのブロック機能、保護者によるネット利用の制限機能などが利用でき、ネットワークに接続するだけでこれらのセキュリティー機能が利用できる。設定もスマホアプリからできるので、とても分かりやすい。
アンチウイルスやWebサイトのブロック機能などは、標準で3年間の利用権が付属する。機能はまったく同一ではないが、同等の技術を利用するトレンドマイクロのハードウエア型セキュリティーユニット「ウイルスバスター for Home Network」を3年間利用すると3万2184円かかる(本体1万9224円+追加の利用料6480円×2年分)ので、オマケとはいえないほどの内容だ。
TP-Link HomeCareで便利だったのが、端末ごとに通信のプライオリティーが設定できることだ。仕事用PCの優先度を高め、子どもが使うスマホやタブレットの優先度を落とす、といったことができた。保護者による利用制限の設定は、保護者のスマホにアプリを入れておくことで、いつでも変更が可能。もちろん、設定変更ができる端末は事前に登録する仕組みなので、子どもが勝手にアプリをインストールして設定を変更することはできない。
価格は高めだが、導入するメリットは多い
短期間の試用ではあったが、Deco M5を導入すると3階の部屋でも安定した通信ができるようになったのは好印象だった。30Mbps以上の通信速度が安定的に出るので、ストリーミング動画の視聴も問題なしだ。子どもが3階の部屋にこもってスマホやタブレットを使っても、フィルターや時間制限機能などで子どものネット接続を制限できるのは意義が大きい。Wi-Fiに接続するとスマホに通知が来るのも、親目線では安心だ。
使いやすさの工夫も評価したい。SSIDや無線の周波数を気にせずに使えるだけでなく、何より設定が簡単なのも評価できる。「Wi-Fiが遅いけれど、交換するのは難しそうだから」と、業者に設置してもらった古いWi-Fiルーターをそのまま使い続けている人でも、安心して導入できるだろう。
筆者宅では、3つのユニットが含まれた基本パッケージを導入することで、3階でも安定して通信ができるようになった。しかし、1階や2階と比べると速度は遅いため、欲を言えば3階にもう1台設置して通信速度を底上げしたいと感じた。そういったニーズに応えるため、ユニットは単品でも販売されている。
Deco M5は、一般的なWi-Fiルーターと比べれば高価だが、Wi-Fi環境の大幅な改善が見込めるうえ、高度なセキュリティー機能が付属することを考慮すると、決して高すぎる価格ではないといえる。家の中のWi-Fi環境に不満を抱えている人、特に一戸建てに住んでいる人には、導入をお薦めしたい。
(ライター コヤマタカヒロ)
[日経トレンディネット 2017年10月30日付の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。