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田中角栄や本田宗一郎も 銀座で背広を仕立てる男たち

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NIKKEI STYLE

スーツを仕立てるなら銀座で――。東京・銀座には「一流」と呼ばれるテーラーが集まる。オーダーメードで自分だけの1着を仕立てるために、足を運ぶ政界や経済界の著名人も少なくない。なにが男たちを魅了するのか。フロントマネジャーなどとして約30年間、高級スーツ店「銀座英国屋」の店頭に立ち続けた元社長室長、市川博司さん(72)に、銀座のテーラーの魅力と顧客の横顔を聞いた。




――市川さんは1967年(昭和42年)、英国屋に入社しました。まず、どんな仕事を担当しましたか。

「銀座の本店で『いらっしゃませ』『ありがとうございました』と1年間お客さまに頭を下げるのが新入社員の日課です。この時期にテーラーの営業マン、アドバイザーとしての所作を身につけます。2年目から百貨店の外商部や特定のお客に付いての営業活動を始めます。身体の寸法から自宅の住所まで、いわば個人情報を知りうる立場なので、信頼関係が何より重要になります。1人の顧客に最後まで1人の営業担当が付くのが原則で『番記者』ならぬ『番テーラー』というわけです」

――若いころに特に印象深かったことは何ですか。

「1着のスーツに満足していただくためには、1人ひとり違う工夫が必要だということでしょうか。お客様には『普通に作りましょうか?』『いつも通りお作りしますか?』とよくお聞きしました。英国屋の『普通』とは、それまでの経験を総合的に生かした最高の仕立て方という意味です」

豪雪対策で裾を短くしていた田中角栄氏

「ただし例外もあります。72年(昭和47年)に当時の田中角栄首相が日中国交正常化のため訪中しました。英国屋のスーツを着て向かわれたのですが、北京空港に降り立った映像を見ると、明らかに裾が少し短かった。プロなら分かります(笑)。採寸ミスかと思い驚きました。しかし『田中番』の先輩に尋ねると田中さんの意向でわざと短くしているとのことでした」

「田中さんの選挙区は日本有数の豪雪地帯です。屋外で演説している時に雪に降られると裾がすぐにぬれてしまいます。その用心というわけです。コートも高級カシミヤをお勧めしたいが、田中さんはまずは雪をはじく素材がよいとのことだったそうです」

――担当で印象深かった顧客は誰ですか。

「71年から担当になった本田技研工業(ホンダ)創業者の本田宗一郎さんに色々教わりました。ゼネストの当日にスポーツカーで来店された時から圧倒されました。こちらが事前に用意しておいた生地には目もくれず、『黒が見たい』との注文でした。理由は『オレはスパナを持って車の下に潜り込んで車の修理をしなきゃならない。油まみれになっても目立たない黒がいい』とのことでした」

「寸法を測ると左腕より右腕の方が1.5センチメートルも長く、年齢が60歳代半ばとは思えないほど肩幅に厚みがありました。現場で鍛え上げた体という感じでしたね。黒の生地をさっと決めるとすぐ帰っていかれて、店での滞在時間が全部で30分足らずだったのも驚きでした。ほかのお客様は大体ゆっくり1時間近く時間を過ごしていきます」

――仕立て方にも色々と注文はありましたか。

「まず背広のポケットチーフの山の部分の高さを、いつも同じにしろということでした。これは手作業だけでは意外に難しい(笑)。思い切ってポケットチーフをボール紙に縫い付けて胸ポケットからのぞいている高さ、形を一定にできるように工夫しました」

「冬のワイシャツはボタンの隙間から寒風が吹き込んで寒い場合があります。そこで本田さんの提案でファスナーで締めるワイシャツを作ったことがあります。形だけボタンも付けたので見かけはそれまでのワイシャツと変わりません」

細部にこだわった本田宗一郎氏

「ズボンも『日本人は右利きが多いから右のポケットの入り口を大きく浅く使いやすくしてくれ』との意見をお持ちでした。ズボンのチャックは本田さんから『短くて下ろしにくい』との注文を受けて、それまでの26センチから29センチに長くしました。このアイデアはそのまま英国屋の定型となりました。」

――本田氏から厳しいクレームが付いたことはありませんか。

「ある時に銀座の事務所に呼び出されて『同じ寸法、同じ型なのに着心地がそれぞれ違うのはどういうことだ!』と叱られました。本田さんは1度に数着注文します。生地や個々の縫製職人の縫い方で微妙な違いが出てきます。しかし本田さんは『自分はクルマはみな同じになるように製造している。1台だけネジやピンの場所が違ったりしていたら、乗っているお客の命にかかわる場合があるんだ!』と厳しく怒られました」

「ただ叱るのは営業の私にだけで、同行した工房の職人には一切声を荒らげることはしませんでしたね。技術者を大事にしているんだなと感じました。スーツ以外のことにも色々話をうかがえたのは幸せでした」

「本田さんは『危険』に対して敏感でした。炭鉱の事故で死者が出たときは『ロボットを開発して作業にあたらせるべきだ』『一番危険が少ないのは交差点がない空中だからジェット機をいずれ造る』といったようなことを息子のような年齢の私に話してくれました。『ホンダジェット』などホンダのニュースを読んでいると、本田さんのDNAが受け継がれているのかなと思ったりもします」

――市川さんは本田氏の右腕、副社長を務めた藤沢武夫氏も担当しました。

「入社2年目の68年から『藤沢番』を務めました。実は『本田番』より早いのです。藤沢さんも1度に数着オーダーしましたが、それぞれの縫製職人による着心地の違い、技の違いを楽しむ方でした。六本木の現在の東京ミッドタウン近くの大きな邸宅へ上司や同僚、工房の職人らとともに4人で伺うと、ひとりひとりに『どの生地がいいか』と質問し、その答え通りに4着仕立てるといった注文の仕方でした」

「ただ藤沢さんは和服がお好きでしたね。銀座にも事務所があり、着流し姿で散歩されました。和服の上から羽織る角袖コートも5~6着注文していただきました」

――金融界のトップも市川さんが担当しました。

「富士銀行(現みずほ銀)の松沢卓二、荒木義朗両頭取、第一勧業銀行(同)の村本周三頭取、三井銀行(現三井住友銀)の小山五郎社長にご利用いただきました。皆さん、わざわざ予約の電話を入れられるので恐縮したものです」

「皆さんいつも選ぶのは紺の無地か黒、ダークグレー。年に数着は仕立てていただきました。松沢頭取は襟(ラペル)の種類や幅にこだわるなど、おしゃれを楽しんでいました。荒木頭取は趣味の広い方で、クルマも自分で修理してしまうといったことをビスポーク(オーダーメード)の時の雑談で聞いたことがあります」

生地選びでリフレッシュする頭取たち

「村本さんには『電話は3回鳴るまで出るな』ということを教えられました。銀座の洋服店に電話してくる人は年配の方が多いだろうし、パッと出られることなど想定していないというわけです。これは勉強になりました。皆さんゆっくり生地を選んで少し銀座の街を散歩しながら帰られました。多忙ななかのリフレッシュという感じでした」

「小山社長は極めて活動的で少しもじっとしておられない(笑)。店内の様子を観察して飾ってある絵画を鑑賞していることなどがしょっちゅうでした。銀座の街の話題などがお好きでしたね。現在進行形で今どうなっているかを知りたかったのでしょう」

「71年に日本でマクドナルドの1号店が銀座三越にオープンして大きな話題になりました。半面、地元にとっては困ったことも起こりました。若者たちが食べ終わったハンバーガーの包装紙などを道端に捨てるので、銀座の街が汚れた感じになることが多かったのです」

「こんな話を小山さんのお耳に入れたところ、『ウーン』と困った表情を浮かべたことを覚えています。82年に三越の岡田茂社長解任劇が起きます。解任に向けてリーダーシップを取ったのが小山さんと聞いて、三越の悪い印象を与えてしまったかな、と思いましたね」

――ビスポークはどのような手順なのですか。

「最初のお客さまとの会話では3分の2が雑談です。お客さまとの信頼関係を築くのが大前提です。次にスーツの生地を壁一面にそろえた2階に案内します。お客さまが最初に手に取ったものを中心に2、3通りの生地をお勧めすると大抵、好みに一致しました。なぜか左側に展示してある生地の方がよく売れたという記憶があります。車で来店されるお客さまは無地の紺かダークグレーが多いという経験則もあります(笑)。担当したお客さまは300人ほどだったでしょうか」

「現役を退いてから10年たち、お客さまの告別式に参列することが増えてきました。ただ、遺影を拝見するとまず『ああ、英国屋のスーツを着ていただいている』と目がいってしまうのです。銀座のテーラーの『業(ごう)』でしょうか」

(聞き手は松本治人)

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