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映画「ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ」 (c) 2014 EG Film Productions / Saga Film (c) Julian Lennon 2014. All rights reserved.

映画「ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ」 (c) 2014 EG Film Productions / Saga Film (c) Julian Lennon 2014. All rights reserved.

格下だと思っていた相手に負けると悔しいのは、建築家の世界も変わらない。巨匠ル・コルビュジエも若き日にはある女性デザイナーへの嫉妬心に駆られたという。典型的な男社会だった建築界で女性が出世するのはかつて難しいことだったが、「今はむしろ女性のほうが脚光を浴びる時代ですから」と、建築界のノーベル賞といわれるプリツカー賞の受賞者である建築家の伊東豊雄氏は言う。ル・コルビュジエから嫉妬されたという女性を主人公にした映画を題材にしながら、著名な女性建築家を弟子に持つ伊東氏に、嫉妬心とのつきあい方とそれを前向きな力に変えていく方法について聞いた。

アイルランド出身の家具デザイナー、アイリーン・グレイの生涯を描いた映画「ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ」が10月14日、公開された。映画上映に合わせて開かれたトークショーに先立ち、大のル・コルビュジエファンという伊東氏に映画を読み解いてもらった。

今回の映画はアイルランドと日本の外交関係樹立60周年を記念した作品であると同時に、ル・コルビュジエ生誕130周年記念作品でもある。グレイが再び注目された背景には、彼女の建築家としてのキャリアが長らく曖昧なまま覆い隠され、建築史から消されかけた事実がある。そこにはル・コルビュジエの嫉妬が絡んでいたというのだ。

そのあたりの事情は、先の映画と並行して製作されたドキュメンタリー映画「アイリーン・グレイ 孤高のデザイナー」にも詳しい。日本では長らく絶版だった評伝も「新版 アイリーン・グレイ」(みすず書房)として11月に復刊された。ル・コルビュジエと接点があったグレイとは、どのようなデザイナーだったのか。そして巨匠はなぜ彼女に嫉妬したのだろうか?

近代建築の巨匠も嫉妬したアイリーン・グレイとは?

――映画「ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ」の原題は「The Price of Desire(=欲望の値段)」であり、欲望がテーマです。監督のメアリー・マクガキアン氏はグレイと同じアイルランド出身の女性で、グレイに寄り添った視点からこの映画を描いています。伊東さんは映画をどうご覧になりましたか?

「アイリーン・グレイのデザインはミニマルで美しく、透明感がある。そこは今の若い人たちにも受け入れられると思いますし、彼女を知らない人が映画を見たら、こんなすごい女性がいたのか、と思うかもしれません」

「1970年代というと僕らが30代のころですけれども、彼女の評価が非常に高まった時期があります。僕はそのころ、独立したてで、なけなしのお金をはたいてグレイの代表作であるガラスとスチールパイプでできたテーブルを買い、事務所に置いていました。その後はあまり名前を聞かなくなり、彼女のことはすっかり忘れていましたが、今回の映画を見て、ああ、こういう人だったなあという記憶がよみがえってきました」

「一方、映画の中のル・コルビュジエに関しては、僕が持っている印象とはだいぶ違います。本人がレクチャーしている姿をDVDで何度も見ていますが、もうちょっとかっこいい。若いころはたしかにとんがっていて、自信家で傲慢なところもある人でしたが、映画では少し矮小(わいしょう)化されています」

南仏の岬に建つ「E.1027」を巡る確執

建築史における事件は、南仏のカップ・マルタン岬に建つ邸宅「E.1027」を巡って起きた。1926年から建設を始め、29年に完成したこの住宅は、家具デザイナーとしてすでに一定の成功を収めていたグレイが、恋人のジャン・バドビッチのために設計したものだ。建築費も彼女が出した。

グレイはバドビッチを通じてコルビュジエと出会い、彼が提唱する「近代建築の5原則」(ピロティや屋上庭園、水平連続窓など近代建築に求められる様式を定義したもの)を吸収しながら、「E.1027」を完成させた。それはコルビュジエ自身が近代建築の5原則を形にした「サボア邸」を完成させるよりも早かった。

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