「口の周りにご飯粒」 それでも気にならない人の末路
何気ない生活習慣を放置しておくと、老後に想定外の破滅をもたらすことがある。中高年が陥りがちなケースを基に、そのまま老後を迎えれば、どんな「末路」が待っているのかを追いつつ、その道の専門家が「末路を回避」するための解決策を提示する。今回の回答者は、東京都健康長寿医療センター歯科口腔外科医療部長の平野浩彦さんだ。
取り越し苦労かもしれませんが、このところ父(65歳)の口の周りのささいな変化が気になります。テーブルの上の食べこぼしが目立ち始め、口の周りにご飯粒が付いても気が付かないことが多くなりました。お茶を飲んでいてゴホゴホとむせることもしばしばです。口臭も強くなった気がします。体はピンピンしていて、人間ドックの検査でも問題はありませんでした。年のせいだとは思うのですが、ひょっとして認知症の始まりだったらと思うと不安です。
口の中のささいな変化を放置するな
これは取り越し苦労などではないですよ。食べこぼしも、口の周りにご飯粒が付くことも、一つ一つはささいなこと。しかし、こうした口の変化は、危険な老化のサイン「フレイル」の兆候です。
フレイルというのは一見、健康を維持できているように映るけれども、肉体的には虚弱状態にあり、いずれ介護を受ける可能性が高い状態を指します。ご相談のように、娘さんや奥様、ご家族がお父様のフレイルの兆候を、早期発見できる体の部位が「口」なのです。
他にも、歯周病で硬いものが食べにくくなった、滑舌が悪くなった、口が渇きやすくなったなども、フレイルのサインです(オーラルフレイルともいう)。
口のトラブルを放置しておくとそのうち、肉や魚など歯応えのあるたんぱく質食品を避け、軟らかいものを選んで食べるようになります。すると咀嚼(そしゃく)力が低下してもっと噛(か)めなくなる。結果として、食物の摂取量も減っていきます。たんぱく質を摂取しなければ、筋肉も衰えていく。そうしてどんどん虚弱が進み、「健康寿命」が短くなっていきます。また、咀嚼と認知症とは因果関係があるともいわれています。
そこで、フレイルから脱するために提案したいのが、「8020運動」。これは、80歳になっても健康な歯を20本以上維持しようという目標です。そのために、気を付けなければならないのは歯周病です。歯を失う原因になるばかりか、心疾患や糖尿病の悪化との因果関係もいわれています。
まずは、家庭内でしっかりとした歯磨きを行い、そして定期的な歯科の診察を受けてください。
口の中の複数の機能が軽度に低下した状態のこと。健康と身体機能障害との中間に位置し、早めに適切な処置をすれば健康に近づくことができるが、放っておけば疾病へと進行していく。滑舌が悪くなる、食べこぼす、むせやすくなるなどは、口腔(こうくう)の筋力の低下などが原因。
東京都健康長寿医療センター歯科口腔外科医療部長。日本大学松戸歯学部卒業、医学博士。東京都老人医療センター、国立第二病院などを経て、現職。老年歯科学が専門で、高齢者の歯と口腔機能のケアによる生活改善をテーマに臨床と研究に従事。オーラルフレイルについての講演など、啓発活動も行う。東京歯科大学他の非常勤講師を務める。
(ライター 中城邦子)
[日経おとなのOFF 2017年11月号記事を再構成]
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