人の言葉を裏読みしてしまいます
著述家、湯山玲子さん
人の言葉や態度からその人の心を読もうとして、疲れてしまいます。視線をそらされると何か隠し事があるのでは? 気分のムラを当てられると、何かがカンに障ったのか……。ネガティブに考えてしまい、恋人にも窮屈な思いをさせています。うまく気持ちを切り替える方法はないのでしょうか。(埼玉県・30代・女性)
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人の言葉や態度をネガティブに裏読みしてしまう。政治やビジネスの現場ならば、それは危機管理能力のひとつですが、普段の生活でそれが当たり前だとするとちょっと問題ですね。
なぜそういう思考のクセがついてしまったのか? 私はこれ、「いじめ恐怖」から来ているのではないか、と。いじめは昨今起こった現象ではなくて、全世代において学校や職場で存在します。「自分が標的にされる兆しを見逃すまい」と、相手の心を「深読み」する態度は、悲しいかな日本人では常態化しているのかもしれませんね。
しかし考えてみれば相談者氏はもう大人ですから、いじめっ子が手ぐすね引いているような環境にはいないはずですし、大人は自分のことに忙しく、そんなに他人に気を使って生きてはいないのです。「自分が自分のことを考えるほど、人は自分に関心がない」と、これはいろんな心理実験でも証明されている真実。なので「カンに障るようなことを言ったに違いない」といちいち悩むのはナンセンス、ということになるのです。
逆の発想もあります。こうなったら自分の「裏読み」は全部真実だと認めてしまう。人は全て自分に隠し事をし、相談者氏の言葉は人のカンに障ってばかりだ、と。しかし、現実は恋人や周囲の人が相談者氏を攻撃するわけでもなく、嫌な思いをすることもない。立派な大人というものは「お互いさま」ということで許し合い、「人は人、自分は自分」と適度な距離を置くことで人間関係を成り立たせているのです。
とはいえ「思わず人の心を読んでしまう」という性質は、実はビジネスの世界では大いに役に立ちます。アーティストの気持ちを察して素早くフォローを入れるマネジャー、サービス業などはその能力が問われる職種です。忘れてはいけないのは、彼らプロたちはその「読み」をもとに、相手のためになる行動に結びつけていること。
相談者氏が気持ちを切り替えるとしたら、この方向ですね。周囲の人間がなんとなく気落ちしているとしたら、素早く察していい感じの助け舟を出す。
こういう行いは人徳といって、必ず人を幸福にします。
[NIKKEIプラス1 2017年11月11日付]
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