『超入門! 落語 THE MOVIE』 口パク演技に一苦労
1人で何役も演じ分け、プロの話芸で観客を魅了する落語家。その落語家の噺(はなし)を再現ドラマ化したNHK総合の『超入門! 落語 THE MOVIE』の第2シーズンが10月から始まった。難しく長いと思われがちな落語を、1話約10分の臨場感ある映像作品として楽しめる新鮮さが視聴者をとらえている。俳優陣は「口パク」の演技に毎回苦労しているが、その呼吸の合わせ方も大きな見所だ。
もともとは、NHKのBSプレミアムでの1つの実験企画が発端、と制作統括の大田純寛氏、瀬崎一世氏は話す。「落語のすごさを、テレビで伝えるために、俳優の当て振り芝居を落語にかぶせることをやってみたんです。そのときにゲストだった笑福亭鶴瓶師匠にも、『面白い』と言っていただくなど好評でしたので、独立させる形となりました」(大田氏)
番組は25分で、2作品放送されるのが基本。まず企画に賛同してくれる落語家の師匠と打ち合わせをし、演目を決める。「第一に入門編として、誰が見ても面白いと思えるものかを念頭に置きます。そして、大変不遜なことではあるのですが、40分ぐらいの長い噺でも、初心者向けに10分程度に再構成していただきます」(瀬崎氏)。そのあと高座を借り、実際に客も入れて落語のパートを収録する。
次に、映像パートのキャスティングとなる。あらかじめイメージはしておくが、師匠の演出によってだいぶ登場人物の印象が変わるという。「想定していたよりも『小憎たらしい性格だな』とか、『ご隠居だけど意外と若いな』とか、よくあるんです。できるだけその演出に合う方をキャスティングしたいとは思っています」(大田氏)
そしてロケに入るわけだが、この撮影は俳優にとってハードルの高いものとなる。落語家の音声と、口の動きがぴったりと合う「リップシンク」にこだわっているからだ。落語を収録したら、すぐにビデオと音声と書き起こしの台本を俳優に送り、収録日までに練習してもらう。
「撮影のときも、師匠の音声を流しながら『口パク』で演じていただくのですが、台本2行分ぐらいの1カットずつしか撮れなくて。もう何回も何回も繰り返し撮影するので、苦労してますね」(瀬崎氏)
ピエール瀧や前田敦子は呼吸の合わせ方が見事だったとのこと。出だしのタイミングなど、音楽と似た部分があり、ミュージックビデオ撮影等でリップシンクの作業に慣れていることもあるだろう。戸を叩く「ドンドン」という効果音も、落語家が出す音をそのまま使い、動きを合わせる形で撮影する。
「1つ大変だったのはソバ。高座では腕の見せどころですし、技として『ずーーっ』と長く音を立てますが、それを実際のソバでやったときは『こんなに長くすすれない!』と俳優さんから言われてしまいました(笑)」(瀬崎氏)
落語の導入部である「マクラ」に当たる部分には、毎回案内人として濱田岳が登場。ミニシアターを舞台に、ユーモアのある1シーンが繰り広げられる。
噺の世界に見入っていると、「そういえば1人で語っているものなんだ」と落語家のすごさに気付かされ、その音声を基に自らの芝居の間ではなく、落語家に合わせて演じ切る俳優の力量に驚く。
「この番組は30代40代や、お子さんと親子で見ていらっしゃる方もいて、新たな視聴者層を取りこめている実感があります」(大田氏)
(「日経エンタテインメント!」11月号の記事を再構成。文/内藤悦子)
[日経MJ2017年11月10日付]
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