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マンション投資、手取り額が減っていく その原因は? 不動産コンサルタント 田中歩

2017/11/15

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 前回のコラム「マンション投資 『年金の代わりになる』は本当か?」では、ローンを完済した35年後には黒字になると言われても、賃料の下落や入退去のサイクルの違いによって収入が減ったり賃貸運営の経費が増えたりする可能性があることを伝えました。また不動産投資においては、賃料収入から賃貸運営経費を差し引いたネット・オペレーショナル・インカム(NOI)で借入金が返済できるかどうか、が重要だということもお話ししました。NOIはその不動産の実力を知ることができる重要な指標ですが、実際の手取り額とは大きく異なります。実際はNOIから元利返済額と税金(所得税、住民税など)を差し引いた残額が手取り額となります。2回シリーズ後半の今回はこの手取り額に関するポイントを説明します。

■元利均等返済は手取り額を徐々に減らす

 このシリーズで取り上げるマンションは、築15年で売買代金は1500万円、ローンの金利は変動金利で1.5%、貸した場合の年間収入は84万円、税や経費などを考慮しない表面利回りは5.6%です。賃料も賃貸運営経費も上昇しない前提の税引き前キャッシュフロー(CF)までを示したのが下記の収支表です。

 まず、不動産投資をするならば元利均等返済という仕組みが毎年の手取り額を減らすことを知っておくべきです。不動産投資の税額は、以下の算式で概算値を求めることができます。

 税額概算値=不動産所得×税率
 不動産所得=NOI-支払金利-減価償却費

 税率は個人の課税所得金額(給与所得や不動産所得などを合算した総所得金額から各種控除を差し引いた額)に応じたものとなります。その税率を限界税率(所得の課税対象がある水準から増大したとき、その増大分に適用される税率)として適用しています。

 この算式は手取り額を考えるうえで非常に重要になります。

 元利均等返済は金利変動がない限り、毎月の返済額は返済期間中はずっと同じです。しかし下のグラフのように、金利と元本の内訳は当初は金利の支払いが多く、元本の返済は少なめですが、時間の経過とともに金利の支払いが減り元本の返済が増えていきます。

 このように元利均等返済でローンを組んだ場合、NOIから差し引ける金利は毎年減っていきますので、NOIが変わらないならば不動産所得は毎年上昇して税額も上昇し、結果的に手取り額は下がります。

■減価償却が引き起こす手取り額の減少

 次に減価償却です。減価償却とは建物の本体や設備を買った金額を耐用年数に応じて毎年、費用化するという会計処理です。今回のケースで売買代金1500万円のうち、建物の本体が約950万円、設備が約240万円で減価償却が認められた場合、それぞれの耐用年数で割り算した額を毎年、費用としてNOIから引くことができます。

 対象となるのは築15年の鉄筋コンクリートのマンションです。計算式は省略しますが、建物本体の耐用年数は35年となり、概算で毎年約27万円(約950万円÷35年)を35年間にわたりNOIから引き算できます。建物の設備の法定耐用年数は一般に15年です。ここでも計算式は省略しますが、築15年の建物の設備の耐用年数は3年となります。これにより概算で毎年約80万円(約240万円÷3年)を3年間、NOIから引くことができます。

 ここで問題となるのは、建物や設備の減価償却は3年で終わってしまうためNOIから引ける金額が4年目から激減し、税額がアップすることです。では「家賃の下落がなく、4年に1回の入退去で空室期間は1カ月だけ、賃貸運営経費は当初から上昇することなく不変」という、ある意味バラ色のシナリオだった場合、実際の手取り額はどのように変化するのでしょうか。

限界税率は給与所得にかかる課税所得が500万円程度(年収850万円程度)を想定。本来は、物件取得にかかる諸経費(登記費用、不動産取得税など)は第1期に経費として計上するが省略している

 少々細かいですが、上の表の(9)の税引き前損益を見てみましょう。第1期(1年目、以下同じ)から第3期は設備部分の減価償却で約80万円をNOIから差し引くことができているため、(11)の不動産所得がマイナスになり、(13)の税金が戻ってくる形になっています。プラスの給与所得とマイナスの不動産所得を合算して課税所得を求めることから、結果的に税金が減るのです。このことが「不動産投資が節税になる」といわれるゆえんです。

 しかし、4期目には設備部分の減価償却はなくなっているため税金の戻りがなくなり、(14)の税引き後CFは9296円まで大幅減少します。さらに金利が徐々に減少するため、第10期以降は税額が徐々にアップし、第14期以降の税引き後CFは赤字に転落します。(15)の税引き後CF累計額は35年間で約24万円ですから、年平均では手取り額は約7000円です。この程度の手取り額ならば、長期にわたってわざわざ不動産投資をする必要もなさそうです。

■売ったときの手取り額も併せて考える

 節税できる当初の3年間だけ保有して売却すればいいという考えもあると思いますが、筆者の試算によると、仮に3年後に買った金額と同額で売れたとしても、仲介手数料や契約書貼り付け印紙税といった譲渡費用、そして短期譲渡で税率が高くなる譲渡税を支払ってしまうと、残債を完済しきれなくなってしまいます。

 なお、長期譲渡で譲渡税率が下がる第6期以降にならないと黒字にはならないということも試算で分かりましたので、もし相談のケースのマンションを購入するなら、事業収支表(14)の税引き後CFが赤字になる手前の第13期までに売却するのがよさそうです。しかし、実際には経年劣化による売却価格の低下や賃料の下落を想定しておく必要がありますので、これを踏まえた場合、売却時期についての結論は大きく変わってきます。

■自己資金の回収期間にも着目

 今回の例ですと、売買金額はローンでカバーできますが、購入時の不動産仲介手数料や登記費用、不動産取得税、融資費用など約90万円強を自己資金で賄う必要があります。これらの自己資金について、マンションを保有している期間中の毎年の手取りでいつ回収できるかということもチェックポイントのひとつです。短期間で回収できれば、再びその資金を元手に別の不動産に投資することができるからです。

 事業収支表(15)の税引き後CF累計額を見ると、その最大値は第13期の約76万円です。つまり、このマンションを保有し続けても自己資金を全額回収することはできないということになり、今回の資金調達プランでこのマンションに投資することは、資産を増やすことが目的の投資には不向きということになります。

■マンション投資がしやすい環境ではない

 リーマン・ショック後の2010年から11年ころは、今回の例で挙げたようなマンションであっても表面利回りが7~8%で売り出されていたこともあり、NOIや毎年の手取り額も良好でした。自己資金の回収期間が3~5年程度という物件もよく見受けられました。その後、投資用マンション価格が上昇(利回りは低下)したこともあり、現在は当時のように投資しやすい環境では必ずしもありません。

 しかし、今回お話ししたいくつかのチェックポイントを押さえ、自身の投資目的と市場環境に照らし、収入や支出、資金調達をどのようにコントロールしていけばよいかを事前に吟味して投資判断をすれば、きっとよい結果につながると思います。

田中歩
 1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、ライフシミュレーション付き住宅購入サポート、ホームインスペクション(住宅診断)付き住宅売買コンサルティング仲介などを提供。2014年11月から個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクションなどのサービスを提供する「さくら事務所」に参画。

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