覚悟の赤字、「資金難」報道にへこむ ワークス牧野氏
ワークスアプリケーションズの牧野CEO
ワークスアプリケーションズの牧野正幸CEO
経営者には、批判にさらされ、逆風に耐えねばならない時期もある。ワークスアプリケーションズは2017年6月期、開発投資の影響により29億円の最終赤字を計上した。しかし、投資を重ねた新商品「HUE(ヒュー)」が今後、収益に貢献する局面を迎えることから、牧野正幸最高経営責任者(CEO)は「次は再上場だ」とアクセルを踏む。MBO(経営陣が参加する買収)に挑み、資金調達や人材確保に奔走してきた牧野氏は、経営の岐路にどう向き合い、どう乗り越えたのか。その心構えを聞いた。
アクセルだけでは失敗する
経営者は、会社を動かすのにアクセルを踏んだり、ブレーキをかけたりします。17年6月期、当社は29億円の赤字を出しました。人工知能(AI)を利用した統合基幹業務システム(ERP)「HUE」の開発の投資へ注力してきた結果です。
11年にMBOで上場をやめた後、開発費の負担が大きくなるのは分かっていて、赤字になるのも、ある程度覚悟していました。我慢して攻勢の時期を見極めるときだと思っていました。「将来、AIなどの新しい技術を搭載したERPが主流になる」という予測が強まっていて、「HUE」を開発すれば、受け入れられるという成算があったのです。
当社の主力商品であるERPには、初期投資として多額の開発費が必要です。ただ、それがある程度落ち着けば、加速度的に利益に貢献してくるようになります。私は、当初からHUEにかけた投資を回収し、利益が積み上がってくる「分岐点」を見据えて、計画を立てていました。
我慢の時期には、つらいこともあります。個人的に最も苦しかったのは、1996年に創業してからジャスダックに上場するまでの5年間でした。1年目は5000万円、2年目は1億5000万円というように、毎年資金を調達しなければ事業が続かない、綱渡りのような状況でした。
成長につれて…責任の重さ実感
今は別のつらさがあります。規模が大きくなり、顧客も増えて社会への責任が大きくなりました。ネガティブなニュースが出れば、社員や顧客を不安にさせます。
最近、一部で当社の「資金調達がうまくいっていないのではないか」という趣旨の報道がありました。社員と顧客には、すぐに説明しましたが、銀行やファンドとの守秘義務があり、すべては明らかにできなかった。非常に申し訳ない思いでした。私に限らず、経営者は、じっと我慢し、時機を待つなかで、自分だけで抱えなければならない事柄も多いはずです。