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鈴木優人、宗教音楽と近代オペラの2大先駆者に挑む

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NIKKEI STYLE

鍵盤楽器奏者で指揮者の鈴木優人(まさと)氏がルター宗教改革500周年とモンテヴェルディ生誕450周年という2つの記念年公演に挑んでいる。父の鈴木雅明氏が音楽監督の古楽合奏・合唱団バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)による「ルター500」シリーズ公演が10月31日に完結。11月にはモンテヴェルディのバロックオペラ「ポッペアの戴冠」を演奏会形式で上演する。優人氏は2公演でそれぞれオルガンと指揮を担当。西洋古楽にとって2つの記念年はなぜ重要か。リハーサルの場で聞いた。

ルター宗教改革500年とモンテヴェルディ生誕450年

「今年は聖と俗の音楽の記念年だ」。10月26日、優人氏は彩の国さいたま芸術劇場(さいたま市)でのリハーサルを前に語り始めた。「聖」とはルター宗教改革500周年、「俗」とはモンテヴェルディ生誕450周年のこと。この日、優人氏はBCJによる「ルター500」シリーズの最終公演に向けたリハーサルに参加した。父・雅明氏の指揮でJ・S・バッハの「カンタータ」3曲を練習し、優人氏はオルガンを弾いた。まずは「聖」のほうから話を聞いた。

500年前の1517年10月31日、神聖ローマ帝国(現・ドイツ)のヴィッテンベルク大学神学教授だったマルティン・ルター(1483~1546年)が、ヴィッテンベルクの城教会の門に「九十五カ条の論題」を掲出した。ローマカトリック教会はサン・ピエトロ大聖堂の再建費を賄うため、人々の罪に対する罰を金銭で免じる「贖宥(しょくゆう)状」を売っていた。これを公然と批判したのだ。欧州キリスト教社会を動乱の渦に巻き込むことになる宗教改革の始まりである。

10月31日といえばハロウィーン。この日、東京オペラシティコンサートホール(東京・新宿)でBCJの「J.S.バッハ:教会カンタータ全曲シリーズvol.73 ルター500プロジェクト5(シリーズ最終回) 1517~2017――宗教改革500周年を記念して――」という長い題名のコンサートが開かれた。公演前に音楽監督で指揮者の雅明氏がステージに一人で登場し、「ハロウィーンとは聖者の祝日前夜という意味。コンサートの帰りに、ハロウィーンで盛り上がっている渋谷の街で、我々が演奏する曲を歌うのもいいかもしれない」と冗談めかして語った。ルター宗教改革の発端になった日と宗教改革にちなんだ音楽をハロウィーンと結び付けて聴衆の笑いを誘った。

BCJは雅明氏が1990年に創設した古楽器によるオーケストラと合唱団。バッハらが作曲していた18世紀前半当時の仕様の古楽器を使って演奏する。それらはオリジナル楽器ともピリオド楽器(時代楽器)とも呼ばれ、バロック時代の作品がBCJのレパートリーの中心だ。とりわけCDで全55巻にもなるバッハの「教会カンタータ」全曲演奏・録音で世界的に高い評価を受けている。今年はバッハの「世俗カンタータ」全曲演奏・録音も完結させ、モーツァルトの「ミサ曲ハ短調」の録音で英国の権威ある音楽賞「グラモフォン賞」も受賞した。

優人氏はオランダを音楽活動の拠点にしつつ、BCJにも参加し、チェンバロとオルガンの奏者を務める。父・雅明氏にかわって指揮を務めることもある。「ルター500」公演の最終回ではオルガンを弾いた。今回の映像に収めたリハーサルでもオルガンを弾いている。雅明氏の正面に位置してオルガンを弾くので、父子が常に向き合って音楽を作っている雰囲気がある。

もっとも、BCJは世界一流の古楽器奏者がそろい踏みという集団だ。バロックバイオリン奏者でコンサートマスターの若松夏美さんは、ベルギー古楽界の大御所ジギスヴァルト・クイケン氏に師事し、彼が率いた古楽器オーケストラ「ラ・プティット・バンド」にも参加した実績がある。今年はバッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」全曲を録音した初のソロCD2枚組を出した。こうした第一線の演奏家たちに囲まれて育ったのが優人氏だ。「僕が9歳の時に父がBCJを創設した。僕の人生の大半を占める重要なオーケストラと合唱団」と優人氏は言う。

父が創設したバッハ・コレギウム・ジャパンで演奏

今回の映像に収めた10月26日のリハーサル、そして同31日の本公演で演奏したバッハの「カンタータ第80番『我らの神こそ、堅き砦(とりで)』」は優人氏にとって特別の作品だ。「僕がBCJに演奏家として初めて加わってオルガンを弾いたのが『カンタータ第80番』。宗教改革500周年の記念日にまた弾けてうれしい」と話す。リハーサルでは雅明氏が「このカンタータはイエス・キリストの闘いなんだよ」と楽団員を鼓舞し、楽曲の持つ激しい情熱を引き出そうとしていた。

ルターは宗教家ながら作詞作曲も手掛けるなど、音楽家の側面も持っていた。現代ドイツ語につながるドイツ語訳聖書を残したルターだが、自作の曲の歌詞もドイツ語だった。一部の聖職者しか精通していないラテン語ではなく、多くの民衆が歌えるドイツ語の音楽によってプロテスタント教会は満たされていく。「カンタータ第80番」は、ルターが1529年に作詞作曲したコラール「我らの神こそ、堅き砦」を下敷きにし、約200年後にバッハが作曲した。歌詞は聖書の「詩編第46編」を土台にしている。ルターという先人がいたからこそ、バロック期にバッハらの宗教音楽が花開いた。そうした歴史の流れを再認識させるのもBCJの「ルター500」シリーズの特徴だ。

10月31日の公演を聴いた。まずはルターのコラール「我らの神こそ、堅き砦」の斉唱から始まった。続いてマルティン・アグリコラやミハエル・プレトリウスといったルターからバッハに至る約200年間の各時期を生きた作曲家の同じ「我らの神こそ、堅き砦」という曲名の作品を次々と歌い、演奏していく。コンサートではめったに演奏されない作曲家の作品のようだ。BCJの古楽器奏者たちはまだ登場せず、雅明氏の指揮で合唱隊が優人氏のオルガン伴奏によって歌った。合間に優人氏のオルガン独奏を入れているのが特徴だ。彼が独奏したディートリヒ・ブクステフーデ(1637~1707年)やバッハのオルガン曲を含め、すべて同名の作品。優人氏のオルガン演奏は、なじみのない宗教曲でも自然に耳に入ってくるような、親しみやすく、バランスが取れた響きだ。こうして「我らの神こそ、堅き砦」はなんと10作品に達した。同じ曲名の作品をこれほどまでに連続演奏したコンサートは珍しい。

その後、BCJのメンバーが加わり、この日の中心演目となるバッハの「カンタータ」を3曲演奏した。第79番「主なる神は、太陽にして盾なり」と第192番「いざ、すべての者よ、神に感謝せよ」、そして大トリが第80番「我らの神こそ、堅き砦」だった。雅明氏の情熱的な指揮が、各曲の持つ旋律とリズムの大きな生命力を引き出す秀演だ。ソプラノのハナ・ブラシコヴァさん、バスのドミニク・ヴェルナー氏の歌唱が、宗教音楽であることを忘れるほどの奔放な伸びやかさを表出していた。

BCJの弦楽はいつも通りにしなやかでみずみずしい。管楽器や打楽器を含め、合唱隊とのスリリングなリズムと響きの組み合わせ、駆け引きが見事だ。雅明氏の指揮とともに、こうした音楽全体を優人氏のオルガンが即興性を秘めながらうまくまとめている印象だった。あえて難点を指摘すれば、前半のなじみのない同名の宗教曲10連発には、聴衆の個人的な感情移入がしにくく、ロマン派音楽のような聴き方では感動や感激を受けにくいということ。信仰心やキリスト教への理解、神学やドイツ語の知識や教養が必要になりそうだ。そうであるだけに一般の聴き手に向けては、音楽自体を生き生きとさせなければ、単なる繰り返しのループにはまり、退屈という危険が迫ってくる。しかしこの公演ではバッハのカンタータでさすがに密度が濃くて飽きない、躍動感のある音楽を生み出していた。

モンテヴェルディのオペラ「ポッペアの戴冠」

「聖」の次は「俗」。ルネサンス期からバロック期にかけて活躍したイタリア・ヴェネチアの作曲家クラウディオ・モンテヴェルディ(1567~1643年)の生誕450周年。近代オペラの創始者と目される作曲家だ。教会で演奏される宗教音楽ではなく、大衆の楽しみのために上演されるオペラや世俗音楽を作曲したから「俗」なのだ。彼の主なオペラ作品は「オルフェオ」「ウリッセの帰郷」、そして11月23日に東京オペラシティコンサートホール、同25日に神奈川県立音楽堂(横浜市)で鈴木優人氏の指揮によるBCJが演奏会形式で上演する「ポッペアの戴冠」だ。

優人氏は「ポッペアの戴冠」を勧善懲悪ならぬ「勧悪懲善のエンターテインメント」と呼ぶ。「モンテヴェルディが74歳の晩年に書き上げたバロックオペラの傑作。400年近くも昔のイタリアで、現代人にも大いに受けそうなドラマが演じられていたことに驚くとともに、親近感を持つ」と話す。ローマの武将オットーネの妻ポッペアが色気で皇帝ネローネを夢中にさせ、皇后オッターヴィアを追い落とそうとする。ネローネに注意を促す哲学者セネカは死を命じられ、ポッペア暗殺計画も失敗し、オッターヴィアは追放。晴れてポッペアが皇后として戴冠するという物語。悪事をめぐらした者が勝つという腹立たしい話に思える。

「現代でいえば不倫を扱った物語ということになるだろうが、単なる不謹慎な話ではない。ローマの史実であり、一人の女性の大胆な成功物語だ。成功欲だけでなく、意志が強い女性を描いている。当時のイタリアの市民はポッペアから大いに勇気をもらったはずだ」と優人氏は説明する。「登場人物は多いが、ストーリーはシンプル。現代の日本でも十分に楽しめる」と娯楽性の高さを強調する。役が多いため一人二役、あるいは三役を掛け持ちする歌手もいる。人間臭い感情が渦巻くドラマなので「歌手一人ひとりの強烈な個性と歌い方が生きる。歌手が自分らしさを存分に出し、地でいったらうまくいく。稽古が楽しみ」と語る。

ポッペア役はソプラノの森麻季さん、ネローネ役もソプラノのレイチェル・ニコルズさん。オットーネ役のクリント・ファン・デア・リンデ氏と乳母役の藤木大地氏の2人は、男声で高いアルト音域を歌うカウンターテナー。ワーグナーやヴェルディらロマン派以降のオペラにはない独特の配役と声質を味わえるのも魅力だ。「モンテヴェルディなくしてその後のヘンデルやモーツァルトのオペラはあり得ない。モンテヴェルディは新しい作曲技法を生み出し、強力に推進していった。最も重要なのが言葉と音楽の主従関係の逆転。イタリア語による言葉を主にした音楽を生んだ」。近代オペラの幕開けである。

指揮しつつチェンバロの即興演奏で歌手を支える

言葉が主役になっただけに「歌手には非常に大きな自由が与えられている」と言う。上演ごと、場面ごとに歌い方や感情表現を変えていく。即興の自由がそこにはある。通奏低音を担う楽器が即興で歌手を伴奏するのだ。通奏低音とは、低音部の旋律だけが楽譜に書かれていて、あとはその旋律に合う和音やリズムを即興で付けていく演奏法。バロック音楽で盛んに用いられる。「通奏低音がモンテヴェルディのオペラ全体のカギを握る。私も『ポッペア』を指揮しながら自らチェンバロを弾き、即興で歌手を支えていく」と「弾き振り」に挑む。

モンテヴェルディよりも後の世代のバロック期の作曲家、例えばヘンデルのオペラにも通奏低音はある。しかしヘンデルや、さらに後のモーツァルトの時代のオペラでは、歌らしいアリア(詠唱)と語りっぽいレチタティーヴォ(朗唱)がはっきり分かれている。「モンテヴェルディのオペラではまだアリアとレチタティーヴォが混然一体となっているため、演奏や歌い方は緩急自在を求められる」と言う。それだけに演奏や歌唱の方法を誤ると冗長で退屈な音楽になってしまう。

「セネカが登場する場面ではアカデミックな響きを出すとか即興的な工夫が必要。古い時代のオペラだからといって古臭く博物館ふうに演じるべきではない」と優人氏は主張する。まだオペラの黎明(れいめい)期の作品だから単純な音楽だと思うのは間違いのようだ。「歌手一人ひとりを輝かせるために様々な趣向を凝らしている。歌手の輝き、即興性など、ロマン派以降のオペラとは異なる魅力を出したい」と意気込む。

モンテヴェルディは当時のヴェネチア共和国のサン・マルコ寺院で楽長を務めた。「聖母マリアの夕べの祈り」という「聖」の側の名曲も書いている。だが宗教曲だけを書いていては得られない作曲技法もある。「色っぽい内容のマドリガル(世俗声楽曲)もたくさん書いた。それが市民のための娯楽性の高いオペラにつながり、後世のオペラの隆盛に至った」と説明する。

優人氏は今年、ヴェネチアを訪れ、モンテヴェルディの墓参りをした。「生誕450周年なので訪問客でにぎわっていた。ヴェネチアは都会。路地が小さくて、緑も少なく、人々は忙しく生きている。自分を見失いやすい環境だ。『ポッペア』初演の当時は身分や階級をめぐるしがらみも多かっただろう。そんな都市環境だからこそ、オペラは客が開放感に浸れる場所と時間を提供していたはずだ」。欧州では大作曲家として常識になっているモンテヴェルディ。日本ではバッハやモーツァルトに比べ認知度はまだ低い。東京をはじめ都市生活者が多い日本。「こんなに人を楽しませてくれるオペラを書いたモンテヴェルディはもっと親しまれるべきだ」。今年2つめの記念年公演の幕が開く。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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