睡眠科学でも超重要! 時計遺伝子の発見にノーベル賞

日経ナショナル ジオグラフィック社

2017/11/21
ナショナルジオグラフィック日本版
PIXTA

報道などでご存じの方も多いと思うが、2017年度のノーベル生理学・医学賞が体内時計の分子メカニズムを解明した3人の米国人科学者、マイケル・ロスバッシュ、ジェフリー・ホール、マイケル・ヤングに与えられた。

体内時計は私たちの睡眠や覚醒(寝つきや目覚め)のタイミングを決定する非常に大事なシステムで、このコラムでも何度もテーマとして取り上げてきた。今回は体内時計の研究の歴史と3名の業績の位置づけについて簡単に解説しよう。

ご存じの通り、体内時計は生体リズムを作り出すペースメーカー(リズムの発振源)として働いている。体内時計の指令のもと、睡眠に限らず、体温、血圧、代謝、ホルモン分泌などほぼ全ての生体機能はおおよそ24時間周期で変動する。約(Circa)一日(Dian)のリズムということで、サーカディアンリズム(Circadian rhythm:概日リズム)と命名されている。

ちなみに、体内時計には生物時計、概日リズムには生体リズムや生物リズムなどそれぞれ別称があり、研究者の好みによって使い分けられている。生体リズムや生物リズムには年周期、月周期、半日周期など24時間とは異なる周期のリズムも含まれるなど、微妙にニュアンスが異なるのだが、本コラムではあまりこだわらずに体内時計、概日リズム、生体リズムを使うことにしている。

さて、今では常識となった体内時計だが、その存在が懐疑的に見られていた時代もあった。というのも体内時計研究の黎明(れいめい)期であった1960年代には、すでに「恒常性(ホメオスタシス; homeostasis)」という生体活動の制御に関する別の概念が確立されており、生体リズム現象はその枠組みの中で理解されていたからである。

左からマイケル・ロスバッシュ、ジェフリー・ホール、マイケル・ヤングの3氏(イラスト:三島由美子)

発見しても軽視された体内時計

恒常性とは、簡単に言えば体温や血糖値のように「生体内部の環境を一定に保とうとするシステム」のことである。運動や入浴で体温が上がれば発汗や皮膚の血管拡張が生じて放熱を促し体温を下げようとする体の反応が起こる。食事で血糖が上がればインシュリンが分泌されて血糖を下げようとするなど、ありとあらゆる生体現象でこの恒常性システムが働いている。

ただし恒常性現象はごく短時間で生じるものが多く、必ずしも24時間周期ではないのだが、その当時は生体機能の変化を理解するための唯一の基本原理として確固たる地位を確保していた。そのため、活動している昼間に体温が上がり、その後の睡眠中に下がる体温リズムも、恒常性が働いた結果だと考えられていた。血圧やホルモンもまた然り。そもそも睡眠そのものが日中に蓄積した疲労回復のために生じる恒常性の最たる現象だと考えられていた。

一方、概日リズム現象はかなり古くから植物などで認められていたものの、ヒトで本格的に調べ始められたのは恒常性システムの提唱から遅れること約100年、1960年代に入ってからである。当時、ドイツのマックス・プランク研究所にいた生体リズム研究の泰斗ユルゲン・アショフが自ら被験者となって防空壕に閉じこもり、自発的に生じる約24時間周期の生体リズムが存在することを証明したのである。

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