矢野 そうです。そういうことを自分自身がコントロールできるようにすると、よりフローに居続けることができ、充実した時間を増やせるのです。
この話を10年以上前に知った時、ほかにも非常に印象的だったことがありました。私たちは、幸せや良い状態というのは「今がんばったら、その後にやって来る」と捉えがちですよね。
しかし、チクセントミハイ先生は、何十年もにわたる研究で、「幸せとは、その瞬間にやって来るものだ」という結果を出したのです。
白河 まさに、「今」を生きろということですね。
矢野 そうです。今を幸せに生きるには、少し背伸びをしたり、ジャンプしたりしないと届かないようなチャレンジをやってこそだということです。
では、そういう状況が起こりやすい行動とは何でしょうか。研究結果では、その一つにロッククライミングが挙げられています。超フローになりやすいんです。
白河 ロッククライミングですか。一歩一歩が判断と挑戦の連続ですものね。
矢野 あと、最もフローになりやすい仕事は、外科医です。
白河 なるほど、確かに外科医は、一瞬が命取り。チャレンジの連続ですね。外科医は後に引きずらない性格の人が多いと聞いたことがあります。
矢野 以前、ある外科医に、「しばらく手術をしていないと、切りたくてしょうがなくなるという話は本当ですか」と聞いてみたら、「本当です」と言われました。

ムードメーカーが生産性を上げる
白河 データを解析すると、これだけは共通するというポイントはありますか。
矢野 一つ共通して言えるのは、休み時間の雑談が弾んでいる日は、それ以外の日よりも生産性が高いということです。これは日本だけでなく、世界中ではっきり出ている特徴です。
白河 雑談ですか。面白いですね。働き方改革は無駄をなくし、雑談もしないで生産性をあげると思われがちですが、逆なんですね。
矢野 雑談なので、中身のある話ではないと思うんです。ただ、非言語的な部分、人との共感関係のようなものが、無意識のうちに人の様々な能力を上げているんだと思います。
白河 すごくハッピーだけど、生産性は低いということはあるのですか。
矢野 それはあります。かつて、こんな実験結果が出たことがありました。コールセンターの中で、ごく平均的な成績のAさんがいました。個人業績だけを見ると特別優秀なわけではありませんが、Aさんがいる日といない日では、コールセンター全体の受注率が全然違うのです。
おそらくAさんは、先ほども触れたように、雑談が楽しいとか、ムードメーカー的存在なのかもしれません。周りの雰囲気を良くして、非常に間接的な形で全体の業績に貢献しているということです。
ところが、縦割りに一人一人の業績だけを見てしまうと、その人の全体に対する貢献が分からないんです。データがあるからこそ、見えてきたことですね。