矢野 以前、野球日本代表の監督をされた小久保裕紀さんとお話をする機会がありました。小久保さんによると、野球はメンタルによる影響が非常に大きいので、監督はベンチの雰囲気をものすごく気にするそうです。バッターボックスに立っているのは一人でも、チームのほかのメンバーたちがものすごく影響を与えているんですよね。

白河 個人だけでなく、チームの生産性という観点や評価も大事。ベンチにいる時の雑談とか声援が、選手たちに大きな影響を与えているということですね。

数字ではなく、幸福度からフィードバック

白河 もう一つ、矢野さんにお聞きしたいことがあります。多くの企業は、知的生産性を測るのが非常に難しく、みなさん困っているのです。どのように測ればよいでしょうか。

矢野 知的生産性は、結局のところ、国内総生産(GDP)や利益でしか測りようがないんですよね。

白河 そうですよね。以前、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングスの島田由香取締役を取材した時、彼女は「生産性=幸性(しあわせい)」と言っていました。「生産性と幸福度は連動しているから、まずはあなたの幸性を高めましょう」と。

矢野 生産性と幸福度は非常に連動していますが、生産性を示す数字、例えば利益やGDPなどは、様々なアクションをしてから数字に反映されるまでタイムラグがあります。

前回、日立の営業600人に実験をした話をしましたけれど、幸福度の上がり具合が業績に反映されてくるのは、次の四半期なんです。

しかし、それは当然のことです。日立のシステム営業のお客様はほとんどが法人です。新しい提案をしても、お客様の会社で報告や会議をしたり、しかるべき役職者の承認を得たりしなければ、予算は計上されません。今日営業をして、その日に受注をもらえることは、ほとんどないわけです。

このように、数字とアクションから結果が出るまでは、タイムラグがある。ということは、逆に言えば、結果の数字からフィードバックするのではすでに遅いということです。

そこで、日々の幸福度を計測して営業の人たちにフィードバックすれば、問題があれば素早く対応できます。組織の幸福度が、業績の先行指標になるということです。今回の実験で、それが明確になったと思います。

白河 今は働き方改革ブームです。IT、AIの分野は、多くのビジネスチャンスがあると思うのですが、この研究を、働き方改革に生かしていくことは考えていらっしゃいますか。

矢野 もちろん考えています。もっとコストを抑えて、より導入しやすい形にできるよう、色々準備しています。これからご期待いただければ幸いです。

取材を終えて。研究成果のパネルの前で。

あとがき:働き方改革の取材をしていくと、改革の途上で「職場の関係性がよくなる」という現象が起きています。例えば労働時間を以前よりも短くしようとチーム全体で取り組むと、密にコミュニケーションをすることが不可欠で、協力の過程でチームの「関係の質」が上がるのです。ギスギスチームがワクワクチームに変わっていく。すでにMIT(マサチューセッツ工科大学)のダニエル・キム教授が提唱した「組織の成功循環モデル」で明らかにされていますが、「関係の質」の向上が最終的に「成果の質」につながるというモデルです。

日立のこのプロジェクトは、まさに「関係の質」から「成果の質」につながる循環をAIを使って検証、さらに「成果」への示唆までアドバイスする興味深い試みです。

集団のハピネスと知的労働の生産性について、ユニリーバの島田さんがおっしゃっていた「生産性=幸性」が証明されたわけです。

とにかく「ハピネスは人が困難に挑戦するための原資」という言葉に、とても納得しました。

白河桃子
 少子化ジャーナリスト・作家。相模女子大客員教授。内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員。東京生まれ、慶応義塾大学卒。著書に「婚活時代」(共著)、「妊活バイブル」(共著)、「『産む』と『働く』の教科書」(共著)など。「仕事、結婚、出産、学生のためのライフプラン講座」を大学等で行っている。最新刊は「御社の働き方改革、ここが間違ってます!残業削減で伸びるすごい会社」(PHP新書)。

(ライター 森脇早絵)

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