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寒い4畳半アパート 熱い東天先生、温かい鍋の思い出

立川笑二

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NIKKEI STYLE

師匠と兄弟子の吉笑と共にリレー形式で連載させていただいているまくら投げ企画。30周目。今回の師匠からのお題は「寒いったらありゃしない」。

私が20歳で落語家になるために上京してきたとき、とにかく安い物件ということだけを条件に借りた4畳半・トイレ共同風呂なしのアパートの大家さんが、ベテラン漫才師である高峰東天先生だった(演芸界では落語家は真打ちになると師匠と呼ばれるが、それ以外は先生と呼ばれるようになる)。

大家さんも同じ建物内に住んでいるという造りで、引っ越した日にあいさつに行き「落語家になるために上京してきました」と私が言うと大変に喜ばれ、「芸人は大変だから家賃は無理して払わなくても良いからな」とまで言っていただいた。

それからというもの多いときには週3回のペースでお宅に呼んでいただいたり、ご飯をごちそうになったりと、とてもお世話になっていた。

東天先生は70歳近くで、ご自身はあまり食べることはなく、お酒を飲んでばかりいた。

お酒も強くはないらしく、すぐに酔っ払うと「俺は漫才のコンテストでツービートに勝ったことがある」という話がはじまり、「今じゃ随分差をつけられてしまった」と落ち込み出して、最終的には「俺はここからもうひと花咲かせるぞ」という展開になり、ぐずぐずになったところで先生のおかみさんが間に入って、お開きになるというのが常だった。

熱いおじいちゃんという、それまでの人生で出会ったことのなかった東天先生がたまらなく好きだった。

今回はそんな先生のお宅で寒い日に鍋をした時のお話。30投目、えいっ!

入門して1年を過ぎたころから前座仕事が忙しくなり、なかなか先生からのご飯に呼ばれても行けなくなっていたある日、夕方の時刻に東天先生のおかみさんが私の部屋に、「鍋でもしませんか」と訪ねてきた。

偶然にも都合がよかったため久しぶりにお宅へうかがうと、いつも座っている場所に東天先生がいらっしゃらない。おかみさんに「先生はどちらですか?」とたずねると、入院することになったと。

以前から大病を患っていて入退院を繰り返していたが、今回はかなり危ない状態であるということを教えられた。

 同じ建物に住んでいたが、そんな状態だったということは全く知らなかった。

「今まで色々と付き合わせちゃって悪かったわね。申し訳ないけど、あの人が亡くなったらこのアパートも取り壊す予定だから準備だけはしておいてくださいね」

と言われてはっとした。そのアパートの住人は私だけで、他はすべて空き部屋になっていた。

おかみさんは口には出さなかったが、もしかすると、私が住んでいるのが理由で取り壊し予定が延びていたのかもしれない。

ひょっとすると、お酒も私と付き合うため、無理に飲んでいたのかもしれない。

そう考えると、なんともいえない気持ちになった。

が、ここで私は奥の部屋につながるすりガラスのドアの向こうに人影があるのに、気がついてしまった。背丈からして、明らかに東天先生だ。これはドッキリなのだ。

ここで私の意地悪な心が動いてしまった。泣いたふりをしながら「今日はこれで失礼します」と言って帰ってしまったのだ。

うしろから聞こえてくる「ちょっとまって、違うのよ、早く出てきて」というおかみさんの声を無視して部屋に戻ると、数分後、私の部屋をノックしながら「ビックリだから、ビックリだから」という東天先生の声が聞こえてきた。

多分、「ドッキリだから」と言いたかったのだろう。

しばらくしてドアを開けると、律儀に白い三角を頭に付けた東天先生が申し訳なさそうに立っていた。

愛すべきおじいちゃんだ。

ただ、あのビックリはすべてが嘘だったわけではなく、半年後にアパートは取り壊しとなった。

少ししんみりとしてしまうが、先生の命日になると、あの日の姿を思い出して少しだけニヤけてしまう。

良い思い出。

ちなみに「無理して払わなくていい」と言われていた家賃は、入居してから7カ月連続で滞納したら、さすがに怒られた。

良い思い出。

(次回11月19日は立川吉笑さんの予定です)

立川笑二
 
1990年11月26日生まれ。沖縄県読谷村出身。2011年6月に立川談笑に入門。前座時代から観客を爆笑させ評判に。14年6月、二つ目に昇進。出囃子(でばやし)は「てぃんさぐぬ花」。立川談笑一門会のほかにも、立川吉笑、立川笑坊ら一門、立川流の若手といっしょに頻繁に落語会を開いて研さんを積んでいる。

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