ライフコラム

立川談笑、らくご「虎の穴」

寒い4畳半アパート 熱い東天先生、温かい鍋の思い出 立川笑二

2017/11/12

PIXTA

 師匠と兄弟子の吉笑と共にリレー形式で連載させていただいているまくら投げ企画。30周目。今回の師匠からのお題は「寒いったらありゃしない」。

 私が20歳で落語家になるために上京してきたとき、とにかく安い物件ということだけを条件に借りた4畳半・トイレ共同風呂なしのアパートの大家さんが、ベテラン漫才師である高峰東天先生だった(演芸界では落語家は真打ちになると師匠と呼ばれるが、それ以外は先生と呼ばれるようになる)。

高座に上がる立川笑二さん(東京都武蔵野市) 

 大家さんも同じ建物内に住んでいるという造りで、引っ越した日にあいさつに行き「落語家になるために上京してきました」と私が言うと大変に喜ばれ、「芸人は大変だから家賃は無理して払わなくても良いからな」とまで言っていただいた。

 それからというもの多いときには週3回のペースでお宅に呼んでいただいたり、ご飯をごちそうになったりと、とてもお世話になっていた。

 東天先生は70歳近くで、ご自身はあまり食べることはなく、お酒を飲んでばかりいた。

 お酒も強くはないらしく、すぐに酔っ払うと「俺は漫才のコンテストでツービートに勝ったことがある」という話がはじまり、「今じゃ随分差をつけられてしまった」と落ち込み出して、最終的には「俺はここからもうひと花咲かせるぞ」という展開になり、ぐずぐずになったところで先生のおかみさんが間に入って、お開きになるというのが常だった。

 熱いおじいちゃんという、それまでの人生で出会ったことのなかった東天先生がたまらなく好きだった。

 今回はそんな先生のお宅で寒い日に鍋をした時のお話。30投目、えいっ!

 入門して1年を過ぎたころから前座仕事が忙しくなり、なかなか先生からのご飯に呼ばれても行けなくなっていたある日、夕方の時刻に東天先生のおかみさんが私の部屋に、「鍋でもしませんか」と訪ねてきた。

 偶然にも都合がよかったため久しぶりにお宅へうかがうと、いつも座っている場所に東天先生がいらっしゃらない。おかみさんに「先生はどちらですか?」とたずねると、入院することになったと。

 以前から大病を患っていて入退院を繰り返していたが、今回はかなり危ない状態であるということを教えられた。

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