介護した分、財産もらえるの? 相続の不公平どう調整弁護士 志賀剛一

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Case:21 10月12日のコラム「『嫁に出たから相続放棄を』 兄の主張に対抗できるか」で相談した者です。2カ月前に母がなくなり、父はすでに他界、きょうだいは兄がいます。コラムにもあったように亡くなった母の相続権が私にもあるとわかったので、私は「相続は放棄しない」と兄に主張しました。すると今度は「俺は介護でずっと大変だったから財産を多くもらう権利がある。それにお前は大々的に結婚式をやってもらったからその分、引かれるはずだ」などと反論してきました。ただ、私は地元の公立大学に進学する一方、兄は学費の高い東京の私立大の理系に進学して仕送りも受けていました。それに母の介護をしていたのは兄嫁で、兄ではありません。

「特別受益」と「寄与分」とは

前回の内容を踏まえ、具体的な遺産分割の話し合いに入っているようですね。共同相続では、相続人のうち特定の人だけが相続開始前に被相続人から特別な贈与を受けていたり、逆に特定の人だけが被相続人(亡くなった人)の財産の形成や維持に貢献していたという場合、遺産を形式的に分配したのでは不公平になる場合があります。これらを調整するための制度が「特別受益」と「寄与分」です。民法は相続人の間の公平のため、こうした制度を設けています。

相続人が実際に取得する財産である「具体的相続分」は、次の要領で計算します。

(1)相続開始時の財産+特別受益(この加算を「持ち戻し」といいます)-寄与分=「みなし相続財産」
(2)みなし相続財産に基づいて、各自の法定相続分を算定します。ここで産出された相続分を「一応の相続分」といいます。
(3)特別受益を受けた相続人については「一応の相続分」から特別受益の額を控除したものが「具体的相続分」となります。
(4)寄与分のある相続人については一応の相続分に寄与分の額を加えたものが、具体的相続分となります。
(5)特別受益を受けておらず、寄与分もない相続人は、一応の相続分がそのまま具体的相続分となります。

たとえば被相続人Xの遺産が1000万円あり、相続人は子A、子Bの2人であるとします。AはXの生前に300万円の贈与を受け、Bは100万円分の寄与分があった場合、

みなし相続財産は
1000万円+300万円-100万円=1200万円
一応の相続分は
ABとも1200万円×1/2=600万円
具体的相続分は
A:600万円-300万円=300万円
B:600万円+100万円=700万円

となります。あれ? 200万円少なくなった? いえいえ、実際の遺産は1000万円ですからこれで合っています。

なお、ここでいう「みなし相続財産」は民法上の概念です。相続税の関係でみなし相続財産という場合には、被相続人から相続開始前3年以内の贈与により取得した財産や被相続人の死亡によって相続人に支払われる生命保険金、損害保険金のことを指すので注意が必要です(これらも課税対象になります)。

進学と結婚の費用に特別受益はある?

さて、相談のケースでは兄に支払われた私大理系の学費と仕送りが特別受益に当たるかどうか。一方、妹のあなたの「大々的な結婚式」が特別受益に当たるかどうかが問題になりそうです。親が子に対して扶養義務を果たすのは当然のことなので、特別受益になるかどうかの区別は親族間の扶養的金銭援助を超えるものかどうかで判断されます。

相談のケースのように通った学校がきょうだいで異なる場合はどうでしょうか。教育費については親の収入、職業、学歴などを基準とし、子に対してその程度の教育をするのが普通だと認められる場合には、特別受益にはならないとの解釈が一般的です。また、1人は高卒だが1人は大学に進学したというように、相続人の間で最終学歴に差がある場合、大学の学費が特別受益になることもあるでしょう。ただ相談のケースのように二人とも大学へ進学したが、それが公立か私立かという程度の違いであれば、学費に多少の差はあると考えられるものの、それが特別受益に当たるとまではいえないことのほうが多いと思われます。

過去の判例を見ると、長男のみが医学部へ進学し、これが特別受益といえるかが争われたケースがありますが、被相続人が開業医で長男が医院を承継してくれることを望んでいたことや、そのほかのきょうだいも大学教育を受けていることなどを考慮し、特別受益には該当しないと判断した例があります。さらに、浪人して大学受験予備校に3年、大学歯学部に11年、歯科医師国家試験の予備校に2年かけて歯科医になった相続人についても、やはり親が開業歯科医であることなどを理由に、大学受験予備校と大学歯学部の正規の6年間の学費は特別受益ではないとした判例もあります。裏を返すと、留年した大学の残り5年間分と歯科医師国家試験予備校の学費は特別受益と認定されたようです。

また、一般に仕送りはよほど高額でない限り、扶養義務の範囲内と解されることがほとんどです。そうなると、相談のケースではいかに東京の私立理系の大学と地元公立大学の差があるとはいえ、一般論としては兄の教育費は特別受益には該当しない可能性が高いといえるでしょう。

では、あなたの「大々的な結婚式」の費用はどうでしょうか。もちろん、芸能人もびっくりするような巨額の披露宴が被相続人の費用で催されたのであれば特別受益になりうるでしょうが、兄も結婚式や披露宴をしているとしたら、多少の招待客数の差があっても特別受益に当たるとは考えにくいと思います。したがって、相談のケースでは双方に特別受益は発生していないと判断される可能性が高いでしょう。

介護に寄与分は認められるか

寄与分とは、相続財産の維持や増加に貢献した相続人に認められる特別の取り分のことです。遺産分割協議などでしばしば問題になり、皆さんよく寄与分を主張されるのですが、親族間には一般に扶養義務がありますので、通常の扶養の範囲内で行った行為は寄与分とはなりません。

寄与分には
(1)家事(家業)従事型
(2)金銭等出資型
(3)療養看護型
(4)扶養型
の4類型があります。

相談のケースは長年、兄の妻が介護をしていたとのことなので(3)もしくは(4)が問題になると思われます。なお法律上、寄与分は相続人にしか認められませんが、判例ではその補助者(妻や子など)の寄与もある程度、斟酌(しんしゃく)されることが多いと思います。このため、相談のケースでも兄の妻による介護も兄の寄与分と評価される可能性はあります(ただし、兄の妻自体に寄与分が認められるわけではありません)。

相談のケースでは介護の態様がわかりませんので何ともいえませんが、療養看護型や扶養型の寄与分の認定は案外、ハードルが高いのです。前述のとおり、親子間には扶養義務があるので「同居して食事を作ってあげた」「掃除洗濯をしていた」という程度であれば、寄与分としては認められません。

判例の言葉を借りるなら「相続人の妻の被相続人に対する療養看護は、親族間の通常の扶助の範囲を超えるものであり、そのため、被相続人は、療養費の負担を免れ、遺産を維持することができたと考えられるから、遺産の維持に特別の寄与貢献があったものと評価するのが相当」な場合でなければならないのです。

療養看護型の場合、これによって「被相続人の財産の減少を免れた」のでなければなりません。つまり、老人ホームに入所させるといった必要性があったのに自宅で介護していたような場合であり、具体的には被相続人が要介護2以上の状態にあったことが必要と解されています。なお、「では有料老人ホームに入れていたのなら、その費用は寄与分になるだろう」という疑問を持つ人がいるかもしれませんが、多くの場合、それは被相続人の費用で支払われているので寄与分とは無関係です。仮にその費用を相続人が負担しているとすれば、それは被相続人に遺産がない場合であり、紛争にはなりにくいのです。

寄与分が認められる場合は

単価(介護報酬基準額)×療養監護の日数×裁量割合(0.5~0.8)

で計算されることになりますが、よほど長期にわたる介護でないかぎり、他の相続人の相続分がゼロになるほどの寄与度が認定されることはないように思われます。

志賀剛一
志賀・飯田・岡田法律事務所所長。1961年生まれ、名古屋市出身。89年、東京弁護士会に登録。2001年港区虎ノ門に現事務所を設立。民・商事事件を中心に企業から個人まで幅広い事件を取り扱う。難しい言葉を使わず、わかりやすく説明することを心掛けている。08~11年は司法研修所の民事弁護教官として後進の指導も担当。趣味は「馬券派ではないロマン派の競馬」とラーメン食べ歩き。
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