石田衣良 池袋ウエストゲートパーク20周年への思い
作家・石田衣良のデビュー作であり、代表作であり、唯一のシリーズ作である『池袋ウエストゲートパーク』。第2作『少年計数機』が発売された2000年に脚本・宮藤官九郎、主演・長瀬智也で放送されたテレビドラマが社会現象を巻き起こす爆発的なヒットとなり、あまり本を読まない層や活字が苦手な層にまで原作人気を拡大させた。
10年に第10作『PRIDE‐プライド』でファーストシーズンを終え、石田は少し休みを取ることに。4年後の14年にセカンドシーズンの第1作(シリーズ11作)『憎悪のパレード』とスピンオフ『キング誕生 池袋ウエストゲートパーク青春篇』の発売をもって、シリーズが再開された。
第1作から20年目を迎え、9月に第13作『裏切りのホワイトカード』が発売されたいま改めて、デビューから20年続くシリーズへの思い、ファーストシーズンとセカンドシーズンの違い、空白の4年間について聞いた。
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ドラマのヒットが原作人気に与えた影響はもちろん大きかったですが、ドラマ自体すごく面白かったですもんね。僕自身も原作者であることを意識せずに、楽しみながら見ていました。オンエア後の池袋でハンパない白いタンクトップ率を目にして、ドラマ人気を再認識しましたね。
小説のほうは、ドラマの少しあとに発表した第3作『骨音』を出したあたりから、「これはシリーズとして長く続くのかな?」という実感を抱くようになりました。その時々で気になっている題材をほどよく放り込むことができる、時代を映す器として非常に優れているんですよね。もともと第1作『池袋ウエストゲートパーク』を書いたきっかけは、当時はハードボイルドの型を踏襲したミステリー小説ばかりだったので、「若者の文化を書けば、競合する作家もいないし面白いだろう」ぐらいの気持ちだったんです。僕自身、自分の持ち場はしっとり系の小説にあると思っているので、デビューを目指していろいろな書き方を試す中でたまたま当たったという感じですね。
他の作家が追いついていなかった若者の変化を描こうという意識はありましたが、実際の「池袋ウエストゲートパーク」シリーズは一番新しい話題と、家族や友情といった古典的なテーマとを半々ぐらいの割合で取り入れています。新しいものだけでも、王道だけでも、読者の気持ちをつかみ続けることはできないんですよね。
あとは、物語のピークを作らないことも意識しています。これは、長く愛されるシリーズ作についてデビュー前から思っていたことで、池波正太郎さんの『鬼平犯科帳』や『剣客商売』などを見ても、大きな山場は設けていません。つるつるたぐる蕎麦のような持ち味が、長く続くシリーズには備わっていると思うんです。「池袋ウエストゲートパーク」シリーズにはアクションシーンなども登場するんですが、ベタベタ続けることなく、あえて物足りないぐらいでスパッと描ききるようにしています。
シリーズは狙うものじゃない
10年目でシーズンを区切ったのは、単純に疲れてきたからです。そろそろちょっと休んでもいいかな、って。でもそのままシリーズを打ち切るつもりもなかったので、数年後にセカンドシーズンを始めるときには気負いもなくすっと物語に入り込めました。何年か空いた分だけマコトたちも年を取ったかなと、ファーストシーズンよりは少しだけ大人な設定にはしていますけど。
「ファーストシーズン」「セカンドシーズン」という呼び方は、海外ドラマからもらいました。シリーズものって、海外ドラマみたいなやり方がいいんじゃないかなと思うんです。最初からシリーズ化を狙うのではなく、第1作に製作費も工夫も労力もすべてつぎ込んで、結果がよかったら続きを作る。僕自身も、「池袋ウエストゲートパーク」シリーズを書き進めていくうちに、自分がうまくなっていくのを実感しましたし、物語の舞台やキャラクターが器として優れていることにも気づきました。そうやって自然発生的に続くようになるのが、いいシリーズなのではないでしょうか。
今では、他の作品を執筆する合間にこのシリーズに戻ってくると、自分でもアットホーム感を感じます。ホームタウンに戻ってきた感じで、くつろいで、のんびり息をしながら書くことができています。
以前、沢木耕太郎さんに「名刺代わりにできる、読者にとって入口になるシリーズがあるのは幸せなことだ」と言われたことがあります。長く読み継がれている名シリーズ『深夜特急』を持つ沢木さんに言われたことで、しみじみと「池袋ウエストゲートパーク」シリーズのありがたみを感じました。どこまで続けるかはまだ決めていませんが、これからも楽しみながら書いていきたいです。(談)
(ライター 土田みき)
[日経エンタテインメント! 2017年11月号の記事を再構成]
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