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亡き夫と「死後離婚」 遺産や遺族年金は受け取れる? 届を出せば姻族関係は終了

2017/11/11

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「死後離婚」という造語が最近、話題になっています。夫と死別した後、その両親や兄弟姉妹などとの法的な関係を断ち切ろうとする女性が増えているからです。そのための手続きを「姻族関係終了届」といいます。自らの意思で夫側と縁を切るとはいえ、遺産相続などの面で不利になるのではと気にする人もいるようです。終了届を出すと相続権や、公的年金の受給権などに影響するのでしょうか。

2016年度に提出された姻族関係終了届は4032件です(図)。前年度と比べて4割強、10年前と比べると約2倍に増えています。提出者の大半は女性だとされます。夫から生前に暴力を振るわれたり、義母からいじめられたりして、恨みを抱いていた例が少なくないようです。

結婚すると法律上、相手側の両親や兄弟姉妹らとは「姻族」という関係になります。この関係は、配偶者が亡くなった後も基本的に続きます。これを終わらせるための手続きが、姻族関係終了届です。

終了届を提出するのとしないのとでは、法的にはどんな違いがあるのでしょうか。

まず気になるのが義母や義父への扶養義務の問題です。法律上の解釈によると、3親等内の姻族は、家庭裁判所が「特別な事情」があると判断した場合には、義母らの生活を助ける義務が生じるとされています。終了届を出せば、こうした扶養義務を課される余地はなくなります。

もっとも、特別の事情と認められる例は現実にはまれです。弁護士の志賀剛一さんは「経済的に多大な援助を長年してくれた義父が寝たきりになった場合などに限られるのでは」と話します。

姻族でなくなれば遺産相続で不利益を被るのではと思う人もいるようですが、それは勘違いです。相続開始時(死亡時)の配偶者は法定相続人と定められており、姻族でなくなった後も相続権は維持されます。すでに遺産を受け取っていても返す必要はありません。

公的年金はどうでしょう。国民年金や厚生年金の被保険者が亡くなったとき支給されるのが遺族年金です。特定社会保険労務士の篠原宏治さんは「死亡時の配偶者は要件さえ満たしていれば受給できる」といいます。終了届を提出しても影響はありません。業務上の事故で配偶者を亡くした場合に支給される遺族補償年金などの制度も同様です。

終了届を提出する際に、相手側から同意を得たりする必要はありません。手続きも簡単です。本籍地または住所のある市区町村の役所で、自身と亡くなった配偶者の戸籍謄本と併せて提出します。婚姻届や離婚届とは違い、証人も不要です。

ただし、終了届を提出しただけでは、姓や戸籍は変わりません。もし結婚前の姓に戻して戸籍も別にしたいのであれば、市区町村役場に「復氏届」という書類を提出する必要があります。

近年、夫やその先祖の墓には入りたくないと考える女性が増えているようです。そうした思いから「死後離婚」を考える人もいます。実際には、お墓の問題と姻族関係終了届に直接の関係はありませんが、しがらみをなんとか断ち切りたいという思いが、終了届の増加につながっていると言えそうです。

[日本経済新聞朝刊2017年11月4日付]

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