ペットとのキス、実は危険? ひとなめで細菌が数百万

日経ナショナル ジオグラフィック社

2017/11/13
PHOTOGRAPH BY JOEL SARTORE, NATIONAL GEOGRAPHIC PHOTO ARK

ペット、そして私たち人間の口に関してはいろいろな迷信がある。舌でなめるたび、広がっていくものは何なのか、専門家に尋ねた。

口内細菌、人とペットでこんなに違う

ペットの口の中について知りたいなら、フロイド・デューハースト氏に聞くのが一番だ。米フォーサイス研究所の細菌遺伝学者で、ハーバード大学で口腔医学を専門とする教授でもある。人間、イヌ、ネコの口腔内細菌叢、つまり口の中にすむあらゆる細菌の研究を切り開いてきた人物だ。

「人間の口の中には、一般に約400~500種の細菌が豊富にいます」とデューハースト氏は話す。デューハースト氏らの研究チームは、動物の口腔内にいる細菌を今のところイヌで約400種、ネコで200種近く特定している。今後の研究で、その数はさらに増えると同氏は見込んでいる。

デューハースト氏によれば、私たちがペット由来の感染症にかかる主な理由の一つは、人が持つ細菌の生態系がペットのそれと大きく違っていることだという。

「人とイヌを見てみると、同じ種の菌は約15%しかいません」とデューハースト氏。したがって、イヌの口内にいる細菌の多くは、人体にもともといる細菌や免疫システムによって阻まれる可能性が低い。一方、イヌとネコの口腔細菌叢は、約50%が重なっている。

「共通部分の一部は、食べ物に合わせて進化してきた細菌かもしれません」とデューハースト氏。人の口の中を支配するのは連鎖球菌であり、糖分を食べるのにたけている。「ネコもイヌもドーナツをたくさん食べすぎたりしませんから、連鎖球菌はほとんどいないのです」(参考記事:「致死率30%『人食いバクテリア』の正体 対処法は?」)

デューハースト氏によれば、動物に1度なめられると、人体にはなじみのない細菌が数百万も付着しうる。そして、その菌は数時間経っても人の皮膚から検出されるという。人の皮膚細菌叢を研究する科学者たちは、皮膚の一部がイヌの細菌で覆われている人が何人かいたのに驚かされた。

「ですから、イヌになめられたとして、5時間後にその部位を綿棒でこすると、イヌの口内にいる細菌を50種以上も採取できることになります」

イヌの唾液で殺菌?

不思議なことだが、歴史を振り返ると、イヌの唾液は害よりもむしろ良い効能があるという伝承がいくつもみられる。例えば古代ギリシャの治癒の神アスクレピオスの神殿ではイヌがけが人の傷をなめたという。また、長く語られているが裏付けはない話として、カエサルの軍が傷をなめさせるためのイヌを連れていたという話もある。

仮にそういうことが行われていたとしても、賢い方法だったとは言えない。

イヌやネコの口内にはいくつかの抗菌性化合物があり、人の口内も同様だ。だがペットの舌が、殺菌剤を魔法のように出してくれるわけではない。「ある部位を殺菌するのに、これらの化合物に頼るべきではありません」とデューハースト氏は話す。こうした物質があっても、口の中ではたくさんの細菌が増殖しているのだ。

唾液の抗菌効果を示した論文もあると指摘するのは、獣医のキャスリン・プリム氏。氏はイヌ、ネコについて頻繁に執筆し、ペットについてのラジオ番組ももっている。プリム氏によると、1990年のある研究では、母イヌが自分自身や子イヌをなめるとき、唾液に若干の抗菌効果があると判明した。また、医学雑誌「ランセット」に掲載された1997年の研究では、唾液に含まれる亜硝酸塩が、皮膚上で抗菌作用のある酸化窒素に変換されることが示された。

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