この11月は国が年金の広報キャンペーンに取り組む「年金月間」です。それにちなんでマネーハックのテーマも「年金」です。あなたにとっての年金制度の価値や使い勝手をライフスタイル別に解説したいと思います。
私たちのライフスタイルにおける最近の大きな変化は「結婚するのが当たり前」という常識が崩れたということでしょう。ライフスタイルの多様化は基本的に好ましいことです。
国勢調査によると、日本人の生涯未婚率は上昇の一途をたどっています。2016年に公表された最新結果では男性の23%、女性の14%が生涯未婚とされました。1980年代までこの数値は5%程度であったことを考えると、これは大きな社会変化のひとつです。
しかし、社会保障制度は夫婦世帯を前提とした枠組みであり、お一人さまの増加は想定されていませんでした。特に年金制度についてはお一人さまは意識して備えをしておく必要があります。増加する「お一人さまの老後」に対して年金制度はどうなっているでしょうか。
お一人さまの年金は1人分
お一人さまの年金とはつまり、「1人分の年金」しか受け取れないということです。公的年金について、よくモデルとして取り上げられる会社員と専業主婦の世帯の場合は2人分の年金の合計です。夫が厚生年金(老齢厚生年金)と国民年金(老齢基礎年金)、妻が国民年金を受け取り、合計で22万円程度の水準になります。
ところが、お一人さまは1人分の年金だけです。一般的な会社員(正社員で厚生年金に入っていた)場合であっても、月額15万~16万円です。1人当たりの年金額としてはお一人さまの方が多いとしても、生活を維持する費用としては十分ではない人もいるでしょう。
ひとり暮らしよりふたり暮らしのほうが家計としては効率が良いものです。ふたり暮らしの生活費はお一人さまの2倍でなくてもやりくりできます。むしろ「ひとり風呂」のように光熱費がかかることで、家計のコストパフォーマンスは悪くなってしまうのです。お一人さまの老後は、実は公的年金だけではなかなかやりくりが苦しそうです。
それでも正社員のお一人さまは、勤めている会社が大企業で退職金が手厚ければなんとかしのげるかもしれません。年金を日常の生活費として使い、退職金を取り崩していけば、そこそこやりくりできるからです。
豊かさやゆとりは自分で備える
しかし、それでは現役時代と同様の食費や被服費、交際費は捻出できなくなるでしょう。つまり、「豊かさやゆとりは自分で備える」しかないということです。
お一人さまは早めに老後の資産形成に着手してください。今ぜいたくをしているほど、家計を見直せば老後資金の原資に変えることができます。60歳までは絶対におろせないiDeCo(個人型確定拠出年金)は老後資金づくりとしては最適です。毎月の積み立て上限は数万円程度なのですが、「ここまでは節約をがんばろう」という目標としてはちょうどいい金額だと思います。ぜひ利用してみてください。
ところで、お一人さまで見逃せないのは「離婚してお一人さまになった」というケースです。この場合、共働きだった女性は自分の厚生年金がもらえるからと、とにかく離婚成立を優先しがちですが、注意点が2つあります。
一つは「退職金の権利も考慮した財産分与」です。もし夫が大企業に勤めていて給与も高かったとすれば、婚姻期間中に獲得した退職金の権利も夫の方が多くなります。離婚に際して夫が「それぞれ退職金についてはもらえるのだし、財産分与の対象外にしよう」と主張してきたら要注意です。女性のほうが不利になる可能性があります。負けずに主張して財産分与の範囲に加えましょう。
働く女性は離婚後に年金分割を
もう一つは「公的年金の離婚時分割」です。専業主婦であった場合、妻は夫の厚生年金の権利について自動的に半分もらえます。ところが、共働きでどちらも厚生年金に加入していた場合、合意をもって年金事務所で手続きをしなければ年金分割はできません。
夫婦の合意があれば、婚姻期間中の給与について夫婦が同額であったとみなして、将来の年金額に反映させることができます。つまり、年収の低かった方は厚生年金が増えることになります。交渉が面倒なので避ける人が多いのですが、詳しくは弁護士や社会保険労務士などに相談してください。
お一人さまは結婚しないという選択を自らする人だけでなく、結婚相手に恵まれなかった人もいるでしょう。離婚してお一人さまになることだって、珍しいことではありません。そのときになって慌てないように、年金に関する知識だけは学んでおきましょう。
