矢野 これは、無意識的な動きです。意識的にコントロールすることはできません。500人ほどの様々な職種、年齢、性別の人たちに「幸せだった日」「孤独だった日」などを聞いたアンケート結果と、機械による加速度の測定データを照らし合わせると、相関係数0.94という非常に高い相関が見られました。

詳しく解析していくと、チームとして幸福度を高めるためには、一人一人にどのような条件があればいいのか。あるいは、どのような手段が有効なのか。そういうことも、AI(人工知能)によって分かるようになってきました。

有効なアドバイスは、一人一人異なる

白河 矢野さんの研究で印象的だったのは、コールセンターで実験をした時に、「幸せだ」と答えた人が多い日に34%受注率が上がったという話です。幸せと生産性は連動しているのですね。

矢野 それは非常に一貫しています。

例えば、コールセンターのような職場で、勤務している人は女性が多く、みんなマニュアル通りに電話をかけて商材を売り込み、1時間当たり何件注文が取れるかで評価される。このような状況は、結果が分かりやすいですよね。

受注率は毎日変動していますが、よく売れる日は、オペレーターの方たちの幸福度が高い日だったということが、さまざまな実験から分かってきました。

幸福度が高いから、よく売れるのであって、よく売れたから、幸福度が上がるのではない、ということも検証しています。これには、非常に小さなコミュニケーションが関わっているのです。

職場で最も大きな要因はコミュニケーション。ただし、効果的な頻度や時間は組織によって千差万別だという

例えば、休み時間の雑談が弾んだとか、上司がどのようにサポートしたとか。もちろん、会社の中での働き方とか、人間関係、仕事の状況などからも大きな影響を受けますが、中でも大きな要因はコミュニケーションなのです。

よく、「コミュニケーションは大切だから、増やした方がよい」と言われますよね。しかし、この2年間、我々がさまざまな職場で測定したところ、そういうことは一概に言えないことが分かりました。

コミュニケーションの頻度や時間が、業績に好影響を与えるかどうかは、会社や組織によって千差万別です。コミュニケーションを増やしたほうがいいときもあれば、減らしたほうがいいときもある。会議をやったほうがいい場合もあれば、やらずに立ち話で済ませたほうがいい場合もある。

ですから、何か1つの法則をみんなが守ればうまくいくという、そんな単純なものではないのです。

アプリの助言で生産性が向上

白河 そこで、職場ごと、職種ごとにデータを測定して、一人一人にアドバイスをすることで、生産性を上げることができるということですね。

矢野 既に多くの企業において、そういったサービスを提供しています。16年に日立の営業600人に名札型のウエアラブル端末を着用してもらい、データから解析したアドバイスを一人一人に対しスマホのアプリで配信する実験をやりました。「こうすれば、あなたと周りの人たちがハッピーになるよ」というアドバイスを、毎朝配信するシステムを作ったんです。

すると、このアプリをより頻繁に使っているチームは、月間の幸福度が上がるという結果が出ました。さらには、幸福度が上がった職場は、幸福度が下がった職場に比べて、翌四半期の受注予算達成率が平均27%高まるという明確な結果も出てきたのです。

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会話の頻度や方向性も分かる