競泳選手を「丸裸」に カメラ37台でフォーム解析パナソニック、スポーツとIT組み合わせて新ビジネス

あらゆる角度から選手の泳ぐ姿を撮影する(写真は水中カメラ)
あらゆる角度から選手の泳ぐ姿を撮影する(写真は水中カメラ)

2020年の東京五輪・パラリンピックを見据え、パナソニックがスポーツ競技にカメラやIT(情報技術)を持ち込み、新しいビジネスを育てようとしている。その一つが競泳だ。プールを取り囲むように複数のカメラが取り付けられ、競泳選手のフォームをあらゆる角度から撮影し分析する。

入江陵介選手らを輩出してきたイトマンスイミングスクールが16年、東京都多摩市に競泳選手を育成するための大型プール施設「AQIT(アキット)」を開業した。全長50メートル、幅20メートル、8レーンの五輪大会仕様のプールの壁面や床、天井には様々な種類のカメラが37台取り付けられている。

プールサイドには広角で撮影できるカメラ(右)も設置
録画した画像はタブレット端末ですぐに見られる

選手が泳ぐフォームをあらゆる角度から撮影し、上部の大型ディスプレーにすぐに表示。選手とコーチがフォームをチェックする。

イトマンスイミングスクールで選手の育成強化を担当する星野納執行役員は「シンプルで使いやすくという要望に応えて作ってもらった。気に入っている」と、パナソニックが導入した映像泳法解析カメラシステムを評価する。コーチが映像で課題を指さしながらアドバイスするので「選手は自分の泳ぐ姿を客観視できる。スランプ脱却の足がかりにできた選手もいる」(星野氏)。

システムは37台のカメラと大型モニター、コーチらが操作するタブレット端末、録画装置、サーバーで構成し、パナソニックが培ってきた技術が生かされている。例えば壁面に配置したカメラ。もともと会議場や冠婚葬祭の式場など広い会場を撮影するために開発された製品だ。録画装置は、医療機関で手術をする際に高画質映像を記録するために開発された。

アキットではイトマンスイミングスクールと設計段階から関わり、ニーズをくみ上げてきた。イトマン側がこだわったのが使い勝手の良さだ。実は別のプール施設でもカメラ撮影システムがあるが、モニター画面がプールの近くにないため、選手がプールからいちいち上がって確認しなければならなかった。

選手に無駄な時間や動作をさせず、効率的にトレーニングができるようにモニターはプール内から見える位置に設置。耐水性のあるカバーを取り付けた。カメラを操作するタブレット端末には、泳ぎ終わると自動で再生を始める機能を付けた。

顧客の要望に応えながらシステムを構築するには時間も手間もかかるが、案件の規模が大きければ利益も見込める。一度受注すればその後も長く取引を続けられる。

イトマンスイミングスクールとは映像データを解析し、選手の状態を把握したり、指導に効率的に生かしたりする研究も始めた。スポーツ向けの映像解析技術はまだ確立した技術がなく、競泳分野での知見は今後の技術開発にも役立ちそうだ。

五輪を機にスポーツ産業は活性化が見込まれている。国は12年の時点で5.5兆円とされたスポーツ産業の国内市場規模を20年までにほぼ倍増の10兆円にする目標を掲げている。

パナソニックの井戸正弘東京オリンピック・パラリンピック推進本部長は「米国ではスポーツ市場は国内総生産(GDP)の3%を占める。日本は1%程度で、まだ伸びる余地がある」と期待している。

[日経産業新聞2017年11月1日付]

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