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国境の食、世界の味を映す 東京で北伊・南チロル料理

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NIKKEI STYLE

マンジャーレ、カンターレ、アモーレ。「食べて、歌って、愛して」という意味のイタリア語で、これはイタリア人のいわば「人生訓」。だが、イタリアのどこに行っても、これが当たり前だと思うなかれ。北イタリアには、なんと人口の70パーセントの第1言語がドイツ語の地域がある。アルプス山脈の南側、南チロル地方(アルト・アディジェ地域)だ。

南チロルは500年以上もの間、ハプスブルク家の支配下のオーストリア領であった地域。イタリア領となったのは、第1次世界大戦後のことだ。

「お店に行ったらメニューが読めない。イタリアなのにレストランのメニューの一番上に書かれているのはドイツ語なんです。イタリア語表記は2番目」。初めて南チロルのレストランを訪れた際のそんな驚きを教えてくれたのは、北イタリアと南チロルの料理を専門とする東京・豪徳寺のレストラン「クチーナ・チロレーゼ 三輪亭」の三輪学シェフだ。

ベネチアに近いイタリアの都市パドバのレストランで働いていたが、「ハイセンス過ぎて面白くないので、肉料理とマンマ(イタリア語でお母さんの意味)の味を体感できるようなお店で働きたいと思った」とシェフ。知人に相談したところ、先の南チロルの店を教えてくれたのだという。

「知人いわく『すごくいい店』なのに、ドイツ語圏だから、当時はイタリアに修業に来たほかの日本の料理人にとって興味のある場所ではなかったんです。でも、行ってみたら驚いた。イタリアへ渡る前に日本でさんざん料理の本を見て勉強したけど、『なんだこれは』と見たことのない料理がでてきたんです」と三輪シェフは笑う。肉料理もパスタも、それまで学んできたものとはまるで違って素朴。「面白い」とそこで働くことを即断したという。

東京の都心に生まれ育った三輪シェフ。移り住んだときは、「すごい山奥に来ちゃったな」と思ったという。働き始めたのは冬だったが、「薪を自分で割って、暖炉にくべないと死ぬよ」と言われたとか。冬場に外に出ると髪が凍るぐらいの寒さらしい。「でも、空気がすごく澄んでいて、信じられないほど星がきれいで。それで、村中、薪の香りがするんです」

南チロルでは肉料理がおいしいと聞きつけ、標高800メートルにある山に囲まれたホテルでも働いた。「肉が嫌いな人から『ここのレバー料理は食べられたよ』と聞いたのがきっかけです。料理が面白くて調理場を見せてもらったら、おばあちゃんが作っていた。それで、ここで修業するぞと」

南チロルの食にはドイツ、オーストリア、ハンガリー、イタリアの文化が混じり合う。食事の最初にテーブルに出される最もポピュラーなメニューは「マレンデ」というハムやサラミ、チーズの盛り合わせだ。中でも薫製をかけた「スペック」と呼ばれる生ハムをよく食べるという。

「薫製にかけるというのが、この地方独特の生ハム作りの方です。薫製したハム類はドイツやオーストリアでもよく見られますが、僕はこの技術はもともとは北欧から入ってきているんじゃないかと思うんですよね。それで、塩漬けにし乾燥させて長期熟成させる南イタリアの生ハムを作る文化とここで融合して、スペックが生まれたんじゃないかと」。三輪シェフはそんな地域のダイナミックな食の成り立ちにも強く引かれたようだ。

「三輪亭」ではスペック以外にも常時10種類以上のハムやサラミを用意。「日本では手に入らないから」とすべて手づくりだ。ハムの作り方は、ホテルでの修業や独学で習得していったのだという。「南チロルは山奥なので、イノシシやシカ、トナカイなどを食べるんです。それらを使った料理も勉強しました」と三輪シェフ。

イノシシのロースを使った薫製ハム、シカの薫製サラミ、豚の皮にその肉、耳、皮を煮たものを詰め、ゼラチン質で固めたイタリアの「ザンポーネ」、鶏肉と豚肉とキャベツを合わせたものを型に入れて焼き上げたドイツの「フライシュケーゼ」を盛り合わせたりと、三輪亭のマレンデには、一つの皿の中に色々な文化が混じり合う。

マレンデと同様に、南チロルのレストランのメニューに必ずあるのが「カネーデルリ」。パン、卵、牛乳、小麦粉を合わせたものを団子状にして塩水でゆでたもので、この地方ではパスタの感覚で食べる。ドイツやオーストリアにもある料理だ。生地には、色々な食材を混ぜ込んで作るが、定番中の定番はスペックを混ぜたカネーデルリ。千切りキャベツのサラダの上に載せ、上からパルミジャーノや青かびチーズのソース、アーモンドバターなどをかける。

「南チロルでは、大きな団子を2つぐらいお皿に盛って1種類だけでも出しますが、コース料理を出すようなレストランだと、ホウレンソウを混ぜ込んだスープ仕立てのもの、スペックやビーツを混ぜたカネーデルリと3種類をセットにして出すのが一番ポピュラーです」(三輪シェフ)。「三輪亭」のカネーデルリは、2、3口で食べられるぐらいの大きさだったが、三輪シェフが勤めていた南チロルのホテルでは、その倍ぐらい大きなカネーデルリを出していたという。

「最初に勤めたレストランでは小さな団子サイズで出していたので、『なんでこんなに大きいの?』と聞くと、そこのおばあちゃんに『私の手が大きいからだよ』と教えられて。日本のおにぎりと一緒ですよね。作る人の個性がでるんです」(三輪シェフ)。おばあちゃんの手のサイズのカネーデルリには、その料理への愛情までもが詰まっているのだろう。

この南チロルを含む、北イタリアのアルプスに接する地域は、登山やハイキングを楽しむ観光客でにぎわう。アルプス山脈の一部で、世界遺産として指定された地域を有するドロミーティと呼ばれる山群があり、近年は日本人にも人気が出てきたエリアだ。山小屋でも、マレンデやカネーデルリは定番料理だそうで、「時間をかけて食を楽しむのが目的ではないので、こうした料理でカロリーをさっと摂取して、またハイキングに出発するという感じなんです」(三輪シェフ)

一方、南チロルの肉料理の定番は「グーラッシュ」。ハンガリーにルーツを持つ料理で、パプリカを使ったスープやシチュー、煮込み料理のことだ。「ハンガリーでは辛みのある味付けのものがありますが、南チロルにはありません。南チロルの人は辛いものは嫌いなんです。また、ハンガリーではブイヨンで肉を煮込むのが主流のようですが、南チロルでは赤ワインで煮込みます。パプリカ、キャラウェイシード、マジョラムと色々な香辛料を使いますが、これは歴史的に隣接するベネト州の州都で東西貿易の拠点だったベネチアから入ってきた香辛料を北へ運ぶ中継点だったからでしょう」(三輪シェフ)。南チロル料理は、その歴史的背景を知ると、どんどん面白くなると、三輪シェフは言う。

パンにも地域の歴史が息づいている。「シュッテルブロットという、乾パンみたいに硬いパンがあるんですが、これはもともと、トルコ人の戦時中の携帯食で、オスマン帝国軍がウィーンを包囲したときの『置き土産』と言われているんです」と三輪シェフ。

続けて、「隣り合った谷でも、同じ料理の名前が違ったりと、すごく奥深い。そんな料理を追求していきたいんです」。熊本県ほどの大きさの小さな地域なのに、抱え持つ世界は限りなく大きい南チロルの食には、一つひとつに世界の歴史が凝縮されているかのようだった。

(フリーライター メレンダ千春)

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