定番の黒、洗練のブラウン 足元と手元に大人のお洒落
靴とバッグで「見栄」を張る(上)
「お洒落は足元から」という金言を生んだ靴。そして「相棒」と表現されるほど持ち主のパーソナリティーが表れる鞄(かばん)。この2つの「装いの要」では、大人の男として大いに見栄を張ってみたい。粋を感じさせる逸品の組み合わせを、2回に分けて紹介する。前編は黒、茶色、グレー、ネイビーの4色を軸に選んでみた。後編「スエード素材で足元にお洒落 相性の良いかばんを選ぶ」と合わせて参考にしていただきたい。
「四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねずみ)」という言葉をご存知だろうか。これは江戸時代、幕府に贅沢な素材や派手な色使いの服装を禁止され、茶、鼠、藍の3色しか許されなかった江戸庶民が編み出した、数百にも及ぶカラーバリエーションの総称だ。
江戸っ子気質で紳士の粋を体現する
ベースは同じ色でも絶妙に色調やトーンを変え、柄を凝らす。そして半襟や襦袢(じゅばん)で差し色を効かせたり、帯と草履の鼻緒の色柄を合わせるといった着合わせの妙を駆使し、江戸っ子は盛んに洒落心を競い合っていたのだ。日本の"粋"を考察した名著『「いき」の構造』において、哲学者の九鬼周造(くきしゅうぞう)も、着物の「いきな色彩とは、まず灰色、褐色、青色の三系統のいずれかに属する」と、指摘している。つまり、そうした制約のなかで見栄を張り続け、創意工夫により自己と洒落心を主張した江戸っ子の心意気こそ、粋という日本の誇る類稀(たぐいまれ)な精神を育んだのである。
そんな江戸の粋は、現代の紳士のスタイルにも通じる。グレー、ネイビー、ブラウンは、近代メンズスタイルの基本色とされてきた。そして、禁止されてはいなくとも、成熟した男の装いに華美な色柄は合わせにくいからだ。そうした現代的な制約のなかで、見栄を張り、洒脱(しゃだつ)に差をつけるのに有効なのが靴と鞄である。「お洒落は足元から」という金言を生んだ靴。そして「相棒」と表現されるほど持ち主のパーソナリティーが表れる鞄。いわば装いの要であるそんな靴と鞄は、吟味した逸品で見栄を効かせるのに最適だが、目に付く存在ゆえ印象がバラバラだと野暮に見えてしまう。そこで江戸の着合わせに倣(なら)って、色や素材感を合わせてみる。すると装い全体に馴染みつつ、色や素材感がもつ主張性が際立ち、洒脱にまとまるのだ。そんな江戸っ子気質の創意工夫で、紳士の粋を体現してほしい。
RALPH LAUREN PURPLE LABEL
長年履き込んだようなヴィンテージ調のレザーが、味わい深いこなれた雰囲気とラグジュアリーさを醸し出すイタリア製チャッカブーツ。ジーンズからジャケットスタイルまで幅広く合わせられる。クッション性に優れたクレープソールを採用し、長時間歩行も疲れにくい。
クラシックなレザー製ダッフルバッグは、合わせる装いを選ばない。ヴィンテージ調の柔軟なスムースレザーを用い、しっとりした肌ざわりからも高級感が伝わる。手縫いで取り付けたハンドルなどクラフトマンシップ溢(あふ)れる仕上がりだ。
■ BLACK
凛々しくエレガントに仕立てる定番「ブラック」
ブラックは男の靴&鞄における定番中の定番色。フォーマルカラーゆえのエレガンスに加え、手元と足元を引き締めることで装い全体をストイックで凛々(りり)しく見せる効果もある。ビジネスに最適とされるのはそのためだ。色自体控えめに見えるので、新鮮なデザインにトライしやすい点も魅力だ。
LOUIS VUITTON
伝統的なエピ・レザーを用いた「ダンディ・ブリーフケース MM」は、薄マチ設計ながら15インチモバイルPCも収納可能。「カンブロンヌ・ライン ダービー」は美しいスマートなフォルムが足元に映える1足だ。
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■ BROWN
風格と落ち着きをプラスする洗練「ブラウン」
大地や大木の色であるブラウンは、不動の落ち着きと泰然とした威風を見る者に抱かせる。地に接する靴と持ち主の分身たる鞄に効かせれば、その効能もひとしおだ。ドレスだけではなくカジュアルな装いにおいても、上質なブラウンの靴と鞄なら大人らしい品格をキープできる。
SALVATORE FERRAGAMO
アンティーク調レザーが味わい深い佇まいのバックパック。創業者のアーカイブに着想を得た1足は2種の革を用いたデザインが独創的。
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■ GRAY & NAVY
モダンで端正顔の上品「グレー」&「ネイビー」
クラシックなブラック&ブラウンに対し、グレー&ネイビーの靴と鞄にはモダンで若々しい印象がある。ビジネスウェアの2大カラーでもあり、手持ちのアイテムと同色でコーディネイトすればミニマルで上品なスタイルも演出できる。数は少ないが、備えておけば重宝するはずだ。
ERMENEGILDO ZEGNA
ネイビーレザーの手元&足元が端正な印象を演出。
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※記事中の価格は税抜きです。
Direction=島田 明 Text=竹石安宏(シティライツ) Photograph=谷田政史(CaNN)[人物]、隈田一郎[静物] Styling=久保コウヘイ、佐藤ユウイチ Hair & Make-up=MASAYUKI(The VOICE)
後編「スエード素材で足元にお洒落 相性の良いかばんを選ぶ」も合わせてお読みください。
[GOETHE 2017年11月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。