小型化進む最新ハサミ 切れ味も高める、あの手この手
納富廉邦のステーショナリー進化形
職場や家庭で使っているのはどんなハサミだろう? 昔ながらのイメージを持って文具売り場をみると、多種多様な製品が並んでいることに驚く。最近のハサミの進化は「小型化」「切れ味」「多様化」といった分野で進んでいるという。長年文具を取材し続ける納富廉邦氏が、ハサミの最新トレンドを解説する。
汎用性や耐久性を重視した文具のハサミ
ハサミは現在も使われている道具の中でも、かなり古いものの一つだろう。古代エジプトの壁画にも描かれていたり、紀元前1000年ごろの遺跡から古代ギリシャ時代のハサミが出土していたりと、その歴史は3000年以上にもなるという。
もちろん最初から文房具として使われていたわけではない。髪を切るためだったり、羊毛を刈るためであったり、医療用途だったりと、生活に密着した専門器具だった。だからこそ、早くから必要とされ、発達していったわけだ。
文房具としてのハサミが登場したのは1880年ごろ。フィンランドのフィスカース社によって作られたといわれている。今のようなハサミが当たり前になったのは、そこからさらに80年ほどたった1967年。すべて金属製のハサミが当たり前だった時代に、フィスカース社が樹脂のハンドルを付け、軽快で使いやすいハサミを発表した。オレンジ色のハンドルは、現在もフィスカース社のハサミのトレードマークになっている。
1960年代当時、洋裁用や植木用、医療用など専門分野で用いられていたハサミは、すでに十分発達していて、高度な切れ味を持っていた。一方、文具としてのハサミは、汎用性や耐久性を重視するため、切れ味に特化したタイプは作られず、大きな進化も起こらなかった。ハサミはそれくらい道具としての完成度が高かったということもできるだろう。
小型なのに使いやすいモデルが続々
しかし、2000年代に入ると、ハサミは大きな変化を見せる。最初に訪れたのが「小型化」のブームだ。
ハサミは、その形状からどうしてもペンケースに入れにくく、机の上でも邪魔になりがちだった。しかし、単純にサイズを小さくすると扱いにくくなるし、切りにくくもなる。
そこに登場したのが「ペンカット」(レイメイ藤井)だった。ハンドル部分を柔らかい素材で作ることで軸に内蔵できるようにした。ハンドルを畳んだ状態ではまるでペンのように見える。スリムにすることでペンケースにも入れやすいハサミを作ったのだ。
ペンカットは、本体はコンパクトなのに刃の長さもそれなりにあり、ハサミとして普通に使える文具としてヒット商品になった。これまでも、形をそのままにして小型化したハサミはあったのだが、ハサミの使い勝手をそのままにコンパクト化した製品はほとんどなかったのだ。
ペンカットが生み出した小型化の流れに他社も続く。
まるでコスメのようなデザインで化粧ポーチに入れても違和感のない「スティッキールはさみ」(サンスター文具)や、ハンドルの親指が入るリングを斜めにして、さらに人さし指を入れるリングと縦並びに配置することで、細さと刃の長さと携帯性を鼎立(ていりつ)させたコクヨの「ホソミ」が登場。「ペンカット」をさらにコンパクトにした「ペンカットミニ」も続き、今も売り場の一角を占めるトレンドとなっている。
刃の形や動きで切れ味を鋭く
小型化と並ぶもう一つのトレンドが「切れ味」だ。ハサミの切れ味というと刃の鋭さをイメージするかもしれないが、最新のハサミは刃先の形、開く角度、刃の動きなどを工夫することで切れ味を高めている。
契機となったのが、2012年に発売された「フィットカットカーブ」(プラス)。ハサミの刃を開いた時に、二枚の刃が作る角度が30度だと最も良く切れることから、刃を湾曲させた。刃先から刃の根元まで、常に30度で開くため、これまでは刃の根元でしか切れなかった厚いものや硬いものを刃先でも楽に切れる。
刃先まで力が行き渡るので、楽に切ることができて、切れ味が良くなったように感じる「フィットカットカーブ」の登場は、ハサミ業界に大きな衝撃を与えた。刃自体を研ぎ澄ます方向ではなくても切れ味を表現できると気がついた他社からも、こぞって「切りやすいハサミ」が登場する。
刃物の町、関の刃物職人が監修している「ヒキギリ」(ナカバヤシ)は、2枚の刃の長さと形状を変えて、その2枚の刃の動きのズレで「引いて切る」を実現、最大4分の1の力で軽々と切ることができる。
刃の支点を中心からずらして、2枚の刃の動きに差をつけることで「引いて切る」を実現した「スウィングカット」(レイメイ藤井)、カーブした刃にのりが付きにくいグルー加工、ハンドルの奥まで刃が入っていて力が伝わりやすい構造など、良く切れる要素を満載した「エアロフィットサクサ」、その新モデル「サクサ」(コクヨ)なども切れ味にこだわった製品。どれを取っても、切りやすく、持ちやすい、高性能のハサミに仕上がっている。
「刃の切れ味」を追求したモデルも
そして現在、ハサミは「小型化」「切れ味」から「多様化の時代」に入ってきたようだ。
たとえば「フィットカットカーブ ツイッギー」(プラス)は、ペンケースに入るスリムな形状ながら、刃はフィットカットカーブ同様の湾曲刃を使用するといった、複数の機能を持つ。キッチンバサミのような何でも切れる万能ハサミ的なコンセプトを小型ハサミに持ち込んだ「携帯マルチハサミ」(デザインフィル)はタフな携帯型。「ハコアケ」(コクヨ)は段ボールの開梱機能を内蔵する。どれも実用性の高い面白い製品だ。
そして筆者が最新のハサミの一つの頂点と考えているのが、「XSCISSORS(エクスシザース)」(カール事務器)。本当の意味での「刃の切れ味」を汎用ハサミに導入した製品だ。刃を従来の2倍の3mmと厚くすることで、切れ味が良いけれど耐久性も高いハサミを実現。さらに、職人が一本一本水研ぎで刃付けをし、ハンドル部まで鋼板を伸ばして力が伝わりやすくしている。
文具用途のハサミとしてはオーバースペックといえるほど、「裁断力」にこだわったXSCISSORS。「切る道具」として分かりやすいその説得力は、ハサミの新しい流れをつくるのかもしれない。
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(文具ライター 納富廉邦)
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