クオーツで席巻した日本勢 いま生き残りへ独自色探る
よくわかる 腕時計ビジネス(3)
日本ではセイコーホールディングス(HD)、シチズン時計、カシオ計算機が3大メーカーだ。機能面での先行を長年の売り物としてきたが、ここに来てブランド力を向上する戦略やデジタル技術の活用など新たな動きも増えている。
日の丸時計メーカーはかつて、正確に時を刻むクオーツ時計で世界を席巻した。時刻を自動的に修正する電波時計、全地球測位システム(GPS)、電池交換が不要の光発電方式など実用的な機能を相次ぎ開発。セイコーはクオーツ式と機械式を融合した「スプリングドライブ」という時計技術も生み出した。
日本勢に対しては、高精度ながら価格のパフォーマンスが良いという評価が世界でも定着している。ただ中国勢などが生産量で台頭してきた今、各社は生き残りをかけ独自色を示す必要も増す。
セイコー、海外店舗を拡大
「ブランド価値でスイス勢と戦えるようにしたい」。セイコーHDの子会社、セイコーウオッチの服部真二社長は意気込む。国産初の腕時計を作った会社として時計市場をけん引してきたが、世界における高級品のイメージはスイス勢に劣る。中価格帯の印象を脱し、海外店舗を増やす計画を掲げるのはそのためだ。
中軸となるのが高級ブランド「グランドセイコー(GS)」だ。シンプルなデザインだが、高品質で正確に時を刻む良さを伝える。中でも、働く女性の増加を背景に女性用GSの販売が伸びており、2016年度には10モデルを追加した。現在の海外店舗数は67店で、19年3月末までに100店まで増やす。
シチズン時計は中価格帯(3万~10万円)のシェア拡大を目指す。電池交換が要らない光発電時計が特徴の一つで、女性向け腕時計「クロスシー」を中心に品ぞろえを充実させる。併せて、スイスの高級腕時計メーカーなどの買収を通じた「マルチブランド戦略」も進める。4月には東京・銀座に世界初のグループ旗艦店を開設する。
カシオ計算機は得意とするデジタル技術を活用する。スマートフォン(スマホ)と連携し、世界中どこにいてもスマホを通じ、正確な時刻を自動的に修正する。主力6ブランド全てで発売していく計画だ。若い世代に人気を持つ「Gショック」や「ベイビーG」の新商品も増やし、幅広い世代の取り込みを図る。
問われる戦略の巧拙
各社の時計事業は15年度までは円安や訪日外国人(インバウンド)の恩恵を受けたが、追い風がやみ、16年度は一転して減収減益を見込む。外部環境に左右されない事業構造や成長戦略が一段と重要になっているのは確かだ。
セイコーエプソンは完全子会社で機械式腕時計を手掛けるオリエント時計(東京・新宿)を統合。オリエントの技術をウエアラブル端末事業の開発に生かす。各社の戦略の巧拙が今後の浮沈を左右する。
[日経産業新聞 2017年1月27日付を再構成]
第1回 腕時計の世界輸出、中国が席巻 日本もスイスも後塵
第2回 機械式高級腕時計に注力 スイス勢、ブランド戦略競う
第4回 「東洋のスイス」諏訪 腕時計から自動車部品まで育む
第5回 到来!スマートウオッチ時代 有力ブランドも新作続々
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