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大人気ミールキット 「考える手間」に最大の時短効果

特集 人気「時短」商品 ヒットへのアプローチ 後編

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NIKKEI STYLE

日経トレンディネット

仕事だけでなく、家事でも大きなキーワードになってきた「時短」。しかし、時短をコンセプトとした商品の中からヒットしたものを分析すると、単なる「時間の短縮」だけではないことが見えてくる。今回取り上げるのは、日経トレンディ「2017年ヒット商品ベスト30」でも4位に入った「ミールキット」。利用会員数が5万5000人にものぼる宅配サービス、オイシックスが支持される理由は、「手を動かす」より時間のかかる「考える」手間を省く時短だった。

累計販売数は700万セットを突破

家族がいる人にとって手抜きしたくない家事といえば、毎日の料理だろう。平日は忙しいのでできるだけ時短したいが、おいしくて栄養もあるものをしっかり食べさせたいと、週末につくり置きする人や宅配食材業者が提供するミールキットを利用している人も少なくないだろう。

ミールキットとは、調理前の肉や魚、野菜がひとつにまとめられたセットのこと。指定した日に業者から宅配され、あらかじめ決められたメニューを手順に沿って作る。肉や魚、野菜もそのメニューに必要な分だけがセットになっていて、カット済みの食材をいためたり電子レンジ調理したりするだけのメニューもある。調理時間が20分程度と短時間でできることもあり、夕食の支度に手間をかけたくない人を中心に人気を集めている。

数あるミールキットの中でも、売り上げを伸ばし続けているのが、オイシックスドット大地(以下、オイシックス)が手がける「Kit Oisix(キット オイシックス)」だ。

13年7月の発売以来、コース利用会員数は5万5000人、累計販売数も700万セットを超えた。ここまでヒットした要因はどこにあったのだろうか。

メニューのマンネリ化を防ぐ工夫とは?

キット オイシックスのメインユーザーは未就学児の子どもを持つ親。特に仕事をしている人は、保育園の帰りにスーパーに寄るのが難しいこともある。オイシックスの基準で選定した野菜を1キットで5種類以上摂取できるようにし、主菜と副菜の2品が20分でできるというコンセプトには大きな反響があった。

しかし、ユーザーの声をヒアリングするうちに、「献立を考えなくて済むのでラクになった」という意見が多いことも分かった。

そこで、「メニューのマンネリ化を避けるのが大事」(キット オイシックスを開発した同社サービス進化室の菅美沙季室長)だと考え、13年7月のスタート時の4メニューから13年10月には6メニューに拡大。毎年約2倍ずつメニュー数を増やしながら、現在はサラダやスープなども含めて毎週20メニュー以上、月に約100メニューを展開している。

14年9月には、冷凍保存した食材をセットにしたフローズンメニューの取り扱いも開始した。

キット オイシックスは野菜の鮮度の問題で賞味期限が1~3日という商品が多く、「毎日使いたいが賞味期限の問題で1週間に3セットしか購入できない、というユーザーの声があった」(菅室長)という。かといって、配送回数を増やすと受け取りの手間や送料もかかる。

そこで、賞味期限が23日のフローズンメニューを追加。フローズンメニューを週2メニューは必ず提供するようにしたことで、平日の夕飯はすべてキット オイシックスで作ることも可能になった。

献立を考えながら料理するのは、ただ手を動かすよりもより多くの時間がかかる。週替わりの豊富なメニューを提供することで、ユーザーがマンネリに頭を悩ませることが少なくなったというわけだ。

アイコンと画像で時間かけずに選びやすく

キット オイシックスの購入ページでは、メニューの名前や画像とともに「キッズ」「シェフ」「クイック10」などの表示が分かりやすく色分けされている。

「ミールキットのユーザーにとって重要なのは『子どもが食べるがどうか』」(菅室長)

そのため、幼児食の専門家と組んで子どもが食べやすい野菜のサイズや味付け、盛り付け方を工夫したメニューをキッズメニューとして展開している。シェフメニューは「時短でも料理教室気分」をテーマに、プロの料理人が監修したメニューを提供している。クイック10は、16年7月に導入した、主菜と副菜の2品を10分で作れるシリーズだ。

こうした表示だけでなく、メニュー写真には「洗い物少」「揚げる」「包丁不要」などのアイコンも付いている。

「20分でできるメニューといっても、揚げたりこねたりする工程が含まれるものもある。主菜に時間がかかるぶん、副菜が手軽にできたりするのだが、キットを開けてから『今日は揚げ物を作る気力はない』ということがないようにしたかった」(菅室長)

購入ページからレシピの詳細も見ることができるので、どのような調理工程なのかは事前に確認できるのだが、「そこまで見る人は少ない」と菅室長は話す。揚げる工程があるメニューは余裕があるときに、疲れている金曜日には洗い物が少ないメニューに。じっくり選ぶ時間が取れなくても、アイコンと画像だけで選びやすくしているのも大きな特徴だろう。

手間がかかる味噌造りも実は時短

平日の夕食向けのキットが定着したことで、新たに展開を始めたのが「非日常メニューの時短」メニューだ。

17年2月には味噌や梅ジュースなどが手軽に作れる「手仕事シリーズ」を発売。発売から間もなく予定数量を完売したという。また、17年3月からは人気インスタグラマーとコラボした「パーティkit Oisix」シリーズも開始した。

日常の料理を時短したいと考えている人にとって、手作りの味噌や手の込んだパーティーメニューを作るのはハードルが高いのではないだろうか。

「味噌造りは40分と、通常のキット オイシックスの2倍の時間がかかる。だが、『味噌を手作りしてみたいけれどやり方は知らない』という人にとっては十分に時短商品になっていると思う」と菅室長は分析する。こうしたイベント仕様のメニューを提供することで、今までキット オイシックスを使ったことがなかった人が興味を持つきっかけになったそうだ。

ミールキットが登場するまでは作り置きする以外は、総菜を買うか外食をするという選択肢しかなかった。しかし、献立やバランス、メニューのマンネリを考えることなく20分で作れるのであれば、家庭で夕食を作りたいという人も多いかもしれない。キット オイシックスは「考えない」という時短の提案をしたことで、料理の手抜きに対する罪悪感を払拭した商品と言えるだろう。

特集 人気「時短」商品 ヒットへのアプローチ
前編 貼るだけで洗顔から化粧下地まで 時短マスク誕生秘話
中編 1億個売れた新型洗剤 「精神的な時短」がヒットの鍵
後編 大人気ミールキット 「考える手間」に最大の時短効果

(文 樋口可奈子)

[日経トレンディネット 2017年10月17日付の記事を再構成]

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