欧州企業、独自性と土着性に強み 成長株も続々世界のどこに投資する?(10)欧州・後編

2017/11/2
ユーロのシンボルと欧州中央銀行(ECB) 写真=PIXTA
ユーロのシンボルと欧州中央銀行(ECB) 写真=PIXTA

世界のどのエリアへの投資が魅力的かを考える本連載。今回は、欧州の株式や債券の動向に精通する2氏のインタビューを紹介しながら有望な個別企業を見ていく。

 1人目はニッセイアセットマネジメントの三国公靖・上席運用部長だ。同氏は28年にわたり株式の運用を担当。日本株を8年担当した後、ロンドン、ニューヨークでの駐在を経て、現在は日本を含むグローバル株式を担当している。同社の「ニッセイ欧州株式厳選ファンド」の運用も担っており、欧州企業の知識が豊富だ。

3Dソフト、ファッション流通…革新性ある企業も

――個人投資家が欧州の株式に投資するポイントは。

ニッセイアセットマネジメントの三国公靖上席運用部長

 「欧州の企業には独自のビジネスモデルがあるので、そこに注目したい。私は3カ月に1度ほど欧州を訪問し、複数の企業と面会しているが、中心都市から離れたところにも驚くほどの技術を持つ企業がある。ただし投資家は短期的ではなく、3~5年などの中長期で成長を見ていく必要がある」

――具体的な企業名としては。

 「例えばフランスのパリ郊外にあるダッソー・システムズ。3D(3次元)設計のソフトウエアを提供する企業で、エアバスやボーイングなどの航空機製造に使われている。最近では自動車産業にも同社の技術が入り込んでいる。あるいはスペインの衣料品最大手インディテックス。有名な『ZARA(ザラ)』をはじめ8つのブランドを展開するファッション小売りグループだ。スペイン北西部のガリシア地方にある企業で、日本から行くのには時間がかかるが、IT(情報技術)を活用した独自の高頻度流通システムを構築している」

――アマゾン・ドット・コムやフェイスブックなど、米国IT企業の方が革新性があるのでは。

 「確かに米国には革新的なビジネスモデルを持つ企業がある。ただ、欧州にはローカル、グローバルの双方に強みを持つ企業があるのが特徴だ。例えば洗剤・トイレタリー・ヘアケア大手のユニリーバは英国とオランダに本拠を置き、インドなどの各国で深く根を下ろしている。スイスの食品大手ネスレも同様だ。欧州は多様な文化を持つだけに、先進国と新興国の両方で戦略を実行していく力がある」

――三国さんが運用されているファンドはアクティブ投信であり、信託報酬は年1.836%(税込み)。投資家としては投資するのに見合った価値が欲しいところだ。ファンドマネジャーとしてはどのように情報を集めているのか。

 「経営関係者との関係構築を重視している。一度の出張で可能な限り多くの企業に足を運び、『今回、なぜ訪問しているか』『最近、株式を買い増しているか、売却しているか(およびその理由)』などをハッキリ話すよう心がけている。株を売ったときでも理由をはっきり言えば、相手とより深い関係を築ける」

 「逆に、相手が東京に来たときも自然に会えるような関係を目指している。経営陣に会ったとき、『何か心配事(concern)がありますか』という質問はあまりに直接的すぎてNGだ。そうではなく、『何か頭痛(headache)の種はありますか』と質問する。関係を構築できていれば、その問いで企業の様子をおおむね把握できる回答を得られるはずだ」

――欧州のマクロ情勢をどう見ているのか。

 「政治情勢の把握が重要だ。ドイツは総選挙後に政治がどう動くか、イタリアは2018年5月までに予定される総選挙がどうなるのか。欧州は宗教の違いも政治に色濃く反映しており、情勢によっては企業業績に響くためだ。従って現地の報道には新聞の号外を含め、なるべく多く接するようにしている。それが欧州政治への理解を深める」

 「マクロ情勢は同じ欧州でも国によって大きく異なるが、米国と比較してどうかという視点で見ている。例えば、米国が利上げして欧州と米国の金利差が拡大すれば、ドル高ユーロ安となり、欧州輸出企業にとってはメリットとなることが予想される。マクロ情勢の変化が個々の企業にどう影響を与えるか、という視点で見ている」

――日本の個人投資家は長く、定期分配型の投信を通じて欧州の債券を買ってきた。株式を買う意義はあるのか。

 「欧州はローマ帝国の時代から多様性を受け入れてきた素地があり、その姿勢が企業経営にも生かされている。リスク資産の分散に当たっては、その多様性を生かすため、欧州の株式を組み入れるのも一つの考え方ではないか」

インフレ率上昇なら金融株に投資妙味

 2人目はHSBCグローバル・アセット・マネジメントのグローバル債券CIO(最高投資責任者)、ザビエル・バラトン氏。世界の債券動向を調査し、運用を担う責任者だ。パリを拠点に調査業務を続け、08年からは欧州の債券運用責任者を務め、10年から現職に就いている。日本には年に1度ほど訪れており、「ものづくりの革新性など、興味深い点は多い」と話す。経済や投資家動向などを調査するため海外出張も多く、9月下旬のインタビュー時もインド・ムンバイから東京に到着したばかりだった。欧州を中心に、世界の経済動向と投資妙味を聞いた。

――世界の経済動向をどう見るか。

HSBCグローバル・アセット・マネジメントのグローバル債券CIO、ザビエル・バラトン氏

 「世界経済は着実に成長している。製造業のPMI(景気指数)を見ると、米国、欧州、新興国とも改善している様子が見て取れる。ブラジルでも景気判断の分かれ目となる50を超えて成長している。各地域の中央銀行(日本銀行、米連邦準備理事会=FRB、欧州中央銀行=ECB)の金融緩和政策の結果、債務の流動性が高く、株式相場は上昇しており、各通貨はドルに対し上昇傾向だ。まさに緩やかな経済成長と金融緩和が併存する『ゴルディロックス(適温)』相場といえる」

 「経済環境の改善を受け、各国中央銀行の金融政策に変化がある。FRBはバランスシート(資産)縮小に動く。ECBも国債を大量に買う量的緩和の規模の縮小を進めている」

――通貨ユーロは今夏、ドルに対し急上昇する場面もあった。さらに上がるのか。

 「ユーロは短期的に急上昇したため、FRBの一段の金融引き締めでドルが強含む場面があるかもしれない。ただし、ユーロは中長期的には上昇するだろう。その理由は欧州の経済回復だ。欧州の金融資産の価値も上がるだろう。政治リスクは英国の欧州連合(EU)離脱問題(ブレグジット)が発生して以来、高かったが、16年12月のオーストリア大統領選、17年3月のオランダ総選挙、そしてフランス大統領選の結果はいずれも右派を退ける内容で、ユーロにとって追い風となった。年末には1ユーロ=1.2ドル、中期的に向こう3年で1.3ドルまで上がるだろう」

――世界経済のリスクは何か。

 「北朝鮮問題を含む地政学リスクについては大きな問題ととらえていない。現状、金融資産にとっての最も大きいリスクは、FRBの政策ミスだ。金融引き締めを速くやり過ぎれば、金利の急上昇などで市場は不安定になるだろう。一方、ECBはFRBほど強いプレッシャーを受けていない。ECBは用心深く、慎重にことを進めるだろう」

――トランプ政権のリスクについては。

 「米国の議会システムの問題だ。トランプ大統領は改革プランの支援を常に必要とする状況だが、共和党内に政権への反発もあり、議会の運営が困難。ただしこうした状況は過去の米政治にもあったことで、目新しくはない。大きな問題はないと考える」

――ギリシャの債務問題はどうなっているのか。

 「少しずつ良くなってきている。民間部門の債務は減っているし、EUと国際通貨基金(IMF)がさらに基金を積み増した。国債も発行できており、15年の危機時に比べれば明らかに改善している。ギリシャの債務の国内総生産(GDP)比率は160%程度で、日本(約240%)より低い水準だ」

――欧州の株式相場はどうなるのか。

 「堅調に推移するだろう。マクロ経済の成長により企業の売り上げは増加する。インフレ(金利上昇)が進み、企業の支払い能力が高まれば銀行システムにとってもプラスだ。金融株はその恩恵に浴するセクターであり、良い投資機会となりうる」

――日本の個人投資家へのメッセージは。

 「欧州含め世界経済は成長を続けよう。一方、日本の預金金利は当面上昇が見込みにくく、個人投資家にとっては難しい局面だ。つまり海外資産への投資を検討するのに、良い立ち位置にいる。円高リスクが気がかりなのは理解できる。確かに通貨リスクは重要だ。だが長い目で見れば、米国の金利上昇で日米金利差は拡大し、円安・ドル高が進むのではないか。こういった長期投資の視点が重要だ。円高リスクはあるかもしれないが、世界の金融資産に投資すれば、その成長に伴う収益で相殺されるだろう」

◇  ◇  ◇

 「なぜ今さら、欧州投資なのか」。こんな疑問を持つ個人投資家も多いだろう。ユーロ建て外貨預金の金利は日本と同様、限りなくゼロに近く、大手証券のユーロ建てMMFは運用難で募集停止になったままだ。本連載で直近に紹介してきたインドや東南アジアに比べ、短期的な成長は期待できそうにない。ただし個別企業に関しては、革新的なものがいくつかある。伝統的に製造業が強いドイツでは「インダストリー4.0」(第4次産業革命)の動きも進み、中国や日本の企業と連携する動きも出ている。

 ただし欧州の動きは概して緩慢だ。文化に多様性があり、コンセンサスを得るのは容易ではない。債務問題は常にくすぶり続ける。日本の個人投資家にも短期的な視点での売買は勧められない、という見方が多い。欧州に投資するなら、まず政治動向、債務問題など市場を揺るがすマクロ情勢には一定の目配りが必要。その上で、その銘柄が成長するかどうかを中長期的な視点で見定める姿勢が必要だろう。

(マネー報道部 南毅)

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