世界で一番幸せな国はどこ? 日本人は7割が現状肯定
世界で一番幸福な人は誰かと問われたら、それは中米コスタリカのアレハンドロ・スニガかもしれない。毎日6時間は友人たちと楽しく過ごし、睡眠時間は最低でも7時間。食事はたっぷりの果物と野菜を欠かさない。徒歩圏内の職場では、労働時間はせいぜい週に40時間。毎週、数時間のボランティア活動も続けている。要するに、日々の生活すべてが幸福につながっているのだ。それができるのは、コスタリカ中部の「セントラルバレー」と呼ばれる温暖で緑豊かな地域で、気の合う人たちに囲まれて暮らしているからだろう。
デンマーク北部の都市オールボーに住むシセ・クレメンセンも、世界一幸福な人といえそうだ。愛するパートナーと3人の子どもに恵まれ、親密なコミュニティーのなかで、ほかの家族と協力しながら暮らしている。職業は社会学者で、充実した仕事に日々取り組んでいる。一家の通勤と通学、買い物はすべて自転車で、それが良い運動だ。収入の割に税金は高いが、医療費や学費の面で多大な恩恵が受けられる。国民が政府に寄せる信頼は絶大で、将来は安泰だとみんな信じて疑わない。
もう一人の候補は、シンガポールのダグラス・フー。起業家として成功を収めた彼は、8000万円以上もするBMWに乗り、10億円を超える豪邸に住む。妻との間にもうけた4人の子どもたちは学業優秀だ。苦学で大学を卒業したフーは自分で会社を興し、年商およそ65億円の多国籍企業に成長させた。会社の仕事だけでなく、慈善活動にも力を入れる。従業員や同業者から尊敬され、世間でも一目置かれる存在だ。もちろん努力もしたけれど、シンガポールでなければここまで成功できなかったとフーは考えている。
スニガをはじめとするコスタリカ人は、日常生活の喜びをとことん満喫する。そこから得られるのが「ポジティブ感情」と呼ばれるものだ。科学的には、1日の間に笑顔になったり、声を上げて笑ったり、喜びを感じたりした回数で計測する。それによると、コスタリカは日常のポジティブ感情が世界一高いことがわかった。
一方、クレメンセンが象徴しているのは「エウダイモニア的幸福」だ。エウダイモニアとは古代ギリシャ語で幸福を意味する言葉。目的をもち、有意義なことを達成したときに得られる幸福である。米国の調査会社ギャラップによる世論調査では、「昨日あなたは興味深いことを学んだり、実行したりしましたか?」という設問でエウダイモニア的幸福度を測る。デンマークはそんな人生を社会全体で後押ししてきた国だ。そのおかげで、この40年間、幸福度ランキングではヨーロッパ諸国のなかで1位になることが最も多かった。
そしてシンガポール。人々の上昇志向が強いこの国では、大きな野心を抱き、夢を実現させたフーは「人生の満足度」がずばぬけて高いはずだ。社会科学では、回答者に自分の人生を10点満点で評価させて満足度を調べるが、むろんシンガポールはアジアで最も高い。
コスタリカ、デンマーク、シンガポール。この3カ国に共通するのは、人々が安心感と目的意識をもち、ストレスの少ない生活を満喫していることだ。国連はギャラップのデータを利用して毎年「世界幸福度報告書」を作成し、発表している。報告書によると、幸福のおよそ75%は次の6つの要因で決まるという。堅調な経済成長、健康寿命、良好な人間関係、寛容さ、信頼感、そして自分に適した生き方をする自由だ。どれもその国の文化や政策と密接に関連している。つまり人々の幸福は住む場所に深く関わっているということだ。
日本人の幸福度は?
それでは、日本人の幸福度はどうだろうか。内閣府が2017年に実施した「国民生活に関する世論調査」では、日本人の73.9%が現在の生活に「満足」か「まあ満足」と回答している。同様の質問が調査項目に加わった1963(昭和38)年以来で、最も高い数字だという。なかでも、所得・収入の面で「満足」「まあ満足」と答えた人(51.3%)が「不満」「やや不満」と答えた人(46.9%)を21年ぶりに上回った。また、8割以上の人が食生活や住生活に満足感を抱いていると回答した。
内閣府の調査では地域別の結果を公表していないが、民間の研究機関や大学の研究者などが都道府県別の幸福度ランキングを発表している。こうしたランキングの幸福度は調査方法によって2種類に分けられる。一つは、アンケート調査により住民に幸福度の度合いを答えてもらい集計する「主観的幸福度」。もう一つは、健康寿命や持ち家率、失業率などの社会経済的な統計データの中から、住民の幸福度に関連すると思われる指標を選び出して、都道府県別の平均値を得点化した「客観的幸福度」だ。
「主観的」と「客観的」のランキングは必ずしも一致しない。統計データ上は「幸福なはず」の住民が、実際にはそれほど幸福だと感じていなかったり、その逆だったりすることがある。結局、幸福とはそう簡単に測れないものなのかもしれない。
(文=ダン・ビュートナー、大塚茂夫、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2017年11月号の記事を再構成]
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