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一瞬逃さず鋭い投げ 五輪へ、柔道界の新星「一二三」 開幕まで1000日「研究されても勝ち続け、学んでいきたい」

2017/10/28 日本経済新聞 朝刊

女子レスリング・須崎優衣さん(18)
須崎優衣さん(右)は高校3年生の時、初出場の世界選手権で優勝した(写真は練習風景)

大会前の大切な準備は好物の「柿の種」を1カ月、我慢すること。愛読書は松下幸之助と吉田松陰。日本が誇るお家芸、女子レスリングに登場した新しい世界チャンピオン、48キロ級の須崎優衣さん(東京・安部学院高)には、高校3年生らしからぬ横顔が多い。

毎晩1時間半、机に向かう。ノートに書き付けるのは授業の復習ではない。「練習の内容と教わったこと、良かったこと、反省点を書く」。試合が近づくと執筆は4時間にも及び、「手が疲れちゃいます」と笑う。マットの内外での思考の量が、若い格闘家の進化を加速させている。

■天性のスピードで相手を翻弄

天性のスピードが最大の武器だ。組み合うまでは相手より速いテンポで足を動かし、かく乱。隙を見つければ鋭い踏み込みでタックルを決める。

早大レスリング部出身の父の影響で、小学1年で千葉・松戸のレスリングクラブに入った。中学2年からは、日本オリンピック委員会(JOC)による中高一貫の寄宿制「エリートアカデミー」へ。同学年にあたる卓球の平野美宇さんらの活躍にも刺激を受けてきた。

愛読書は松下幸之助と吉田松陰という

中学時代は無敗。高校に入ってからも逃したタイトルは1つだけ。立ち技だけでも十分に強かった新鋭はこの一年、寝技でも進境著しい。「変わらなければ世界を取れないと思った。練習の時から(相手の胴を抱えて1回転する)ローリングなどを必ず意識しながらやった」。元世界王者の吉村祥子コーチの指導の下、練習量を増やさず、頭の中を変えたことで弱点を克服した。

初出場となった8月の世界選手権の決勝。ルーマニア選手に4点をリードされながら、ローリングからの連続得点で逆転。五輪4連覇を果たした伊調馨さん以来15年ぶりとなる、高校生の世界女王となった。

東京五輪では階級が50キロ級に変わる。減量の負担が減るため「私には有利」というが、別の壁もある。リオデジャネイロ五輪金メダリストの登坂絵莉さん(東新住建)。公式戦はまだ対戦がないが、強敵の存在すら18歳は力に変えていけそうだ。

普段の穏やかな笑みからは想像できないほどの負けず嫌い。「ゲームでも駆けっことかでも、自分が勝つまでやります」。15年、全日本選手権決勝で7歳上の入江ゆきさん(自衛隊)に敗れた。中学入学以来、84試合目で初の黒星。準優勝の賞状を撮影すると、スマートフォン(スマホ)の待ち受け画面にした。「この悔しさは絶対に忘れてはいけない。スマホを常に見て『くそー』って思って頑張ろうって」

半年後の大会では入江さんに雪辱を果たした。今や立派な世界女王だが、それでも待ち受け画面は同じまま。いつまで続ける? 「(変える)予定はありません」。唯一の敗戦の記憶は成長の糧になる。ノートに向かって熟考した末、そう判断したのだろう。

(谷口誠)

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