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一瞬逃さず鋭い投げ 五輪へ、柔道界の新星「一二三」 開幕まで1000日「研究されても勝ち続け、学んでいきたい」

2017/10/28 日本経済新聞 朝刊

憧れの選手は五輪3連覇の野村忠宏さん。「いつか4連覇したい」と話す

 10月28日で2020年東京五輪の開幕まで1000日。3年後へのステップとなる17年の世界選手権では、多くのメダリストが生まれ、期待の新星も台頭した。世界で日本でしびれる戦いをくぐり抜けた先に、輝ける舞台が待っている。

男子柔道・阿部一二三さん(20)

■切れ味は古賀稔彦さんをほうふつ

 切れ味抜群の担ぎ技にキリッとした顔立ち。この夏、柔道界に待望の新エースが誕生した。男子66キロ級の世界チャンピオン、阿部一二三さん(日体大)。野村忠宏さんに憧れる20歳は「いつか野村さんを超えて五輪で4連覇したい」。そんな大言壮語もこの若者には似合う。

 日本代表の井上康生監督に「古賀稔彦さん以来のスーパースター」と言わしめる活躍を見せたのが、ブダペストでの世界選手権。初出場ながら6試合中5度の一本勝ちで頂点まで駆け上がった。背負い投げ、袖釣り込み腰、大腰。立ち技の鋭さは「平成の三四郎」と呼ばれたバルセロナ五輪金メダリスト、古賀さんをほうふつとさせた。

世界選手権の男子66キロ級決勝でロシア選手(上)を破り初優勝した(8月)=共同

 胸のすく快勝続きの中でも特筆すべき一戦が準々決勝だ。過去表彰台5度の古豪、ゲオルギー・ザンタラヤ選手(ウクライナ)を圧倒し、迎えた1分45秒すぎだった。

 背負い投げに入ると首尾よく担ぎ上げつつ、すぐには投げの動作に入らない。一瞬の「間」の刹那、左足を軸に相手の自由を奪い、「しっかり一本を取れるよう意識してコントロールした」。序盤から2度宙に浮かされながら体をよじって逃れてきた試合巧者が、ついに背中から落ちた。

 力任せや勢いだけではできない、世界をうならせた至極の一投。「落ち着いてなかったら、出ていなかった」という阿部さんに気負いからの投げ急ぎなど無縁だった。

 「常識では考えられない体勢から技を決めきれる」。恩師の山本洋祐日体大柔道部部長は東京五輪の星をこう評する。柔道センスもさることながら、阿部さん自身が礎として真っ先に挙げるのが「体の強さ」である。

 「ずっと体に染み込んでいる」という消防士の父、浩二さんとのメディシンボールなどを使った「我が家流」の体幹トレーニングがその原点。小学校時代は女子63キロ級の鍋倉那美さん(現三井住友海上)にも歯が立たなかった少年は「体ができてきた」という中学で2度の日本一。豪快な投げは高校ですごみを増した。

 強豪校の誘いを断って進んだのは地元・神戸の神港学園。信川厚監督は「とにかくスケールの大きな柔道を目指した」と振り返る。少々の粗さには目をつぶって思い切りの良い柔道を伸ばすことに心を砕いた。講道館杯での史上最年少優勝もあれば、リオデジャネイロ五輪を逃した悔しい負けもあった。両親にも見守られて伸び伸びと過ごした日々。「ここまで来られたのは地元に残ったからかな」とは阿部さん自身の述懐だ。

 「技の入りのうまさではまだまだ」と信川監督が語る通り、周囲は若者に無限の伸びしろを見る。寝技に本格的に取り組んだのも大学からで、底知れぬ柔道の完成形はまだ見えていない。

 勝者は狙われ、丸裸にされるのが勝負の常。頂点に君臨し続ける難しさは、歴代の柔道家の栄枯盛衰が物語る。それでも今年負け知らずの阿部さんは言う。「研究されても勝ち続けるのが一番強い選手。勝ち続けて学んでいきたい」。世界選手権を3連覇して東京の畳に上がる。そんな一点の曇りもない晴れ舞台を夢見て、きょうも稽古に明け暮れる。

(西堀卓司)

 こちらもご覧ください。(「柔道金メダリスト・ベイカー茉秋さんに聞く10のこと」

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