マンション投資 「年金の代わりになる」は本当か?不動産コンサルタント 田中歩

2017/11/1
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先日、筆者の友人が「区分所有のワンルームマンションへの投資を勧められているが、どう判断したらよいか」と相談に来ました。不動産会社の説明では、マンション購入のために1500万円のローンを組み、完済まではほとんど手取りがないものの、ローンを完済した35年後以降は年金代わりになるような収入が得られるというのです。しかし、実際はどうなのでしょうか。読者の皆さんも知りたいところだと思いますので、ワンルームマンションへの投資で押さえておきたいポイントを2回に分けて解説します。

賃料収入は徐々に下がる

友人によると、そのマンションは築15年で1500万円、ローンの金利は変動金利で1.5%、貸した場合の年間収入は84万円、税や経費などを考慮しない表面利回りは5.6%とのことです。

まず考えてほしいことは「賃料が35年以上もずっと変わらないままなのか」ということです。賃料は一般に建物の経年劣化に応じて下落します。筆者の調査によると、東京都の区部でも築年数が1年異なると0.5~1%程度、賃料に差が出ています。今後の人口減少も加味すると、立地によってはそれ以上に賃料が下落する可能性があります。

もう一つは空室率。入居者が永遠に退去しないということは考えられません。退去後すぐに次の入居者が決まるとしても、入居者募集や室内の原状回復工事などを考えると、少なくとも1カ月はかかります。需要が少ない立地だと2~3カ月かかることはざらで、その期間中の賃料収入はなくなります。

入退去のサイクルも重要です。ファミリータイプの部屋であれば入居期間は比較的長いものの、単身向けのワンルームタイプは1~2年程度と短いケースも考えられます。サイクルが短ければ短いほど、空室率は高くなりますので賃料収入は減少します。

「家賃保証が付いているから問題ない」というセールスを受けることもありますが、35年間「同額で保証」されることはないと考えてください。家賃保証契約は、その時点での建物の経過年数や需給バランス、賃料などの実勢に合わせて一定期間ごとに改定されるのが普通ですし、契約書をよく読めばそのように書いてあるのです。

思わぬ賃貸運営経費のアップ

賃貸区分マンションの運営に必要な経費は、一般に以下の通りです。

・管理委託費(家賃収納代行、苦情処理など。家賃の5%程度)
・一般修繕費(専有部設備などの修繕費用)
・原状回復費(退去後の清掃および壁紙張替などの費用)
・入居者募集費(賃料の1~2カ月分程度)
・管理費および修繕積立金
・固定資産税・都市計画税

一般的にいって賃貸の運営経費は、賃料収入に対して20~30%程度となります。この経費率ができる限り低くなるような運営が望まれますが、立地や建物の劣化の状況によって大きく左右されますので注意が必要です。特に注意したいのは原状回復費と入居の募集費です。先ほど説明した入退去のサイクルが短いと、これらの費用がかかる回数が増えます。入居サイクルについては、その物件の過去数年の実績や周辺の不動産市場の現状を不動産会社などに確認しておくべきでしょう。

一般修繕費は水回り設備やエアコン、給湯器などの修理や交換の費用です。エアコンの交換時期は10年程度、給湯器は10~15年程度といわれているので、交換時期が近い場合、そのコストを加味しておく必要があります。

修繕積立金は築年数の経過とともに値上がりするケースがあります。管理組合で大規模修繕に関してどのような議論が行われているか、過去数年分の総会議案書や総会議事録を読んでみると、その経緯が分かることがあります。また、長期の修繕計画案を入手できれば、共用部分の修繕計画とその費用について現在の修繕積立金で賄えるのかどうかや、賄えない場合に積立金がどの程度上昇するのかを予想することもできます。

借入金の返済は大丈夫?

賃料収入からこの賃貸運営経費を差し引いたものを「ネット・オペレーショナル・インカム(NOI)」と呼び、NOIを売買金額で割ったものを「NOI利回り」といいます。これらは表面利回りに比べ、その投資用不動産の実力をより正確に表す指標となります。投資用のワンルームマンションを購入する場合、ローンを利用する場合がほとんどだと思いますが、このNOIから借入金の元本と利息の返済、税金の支払いをすることになります。

まずは借入金の返済です。今回のケースでは1500万円を金利1.5%で、35年かけて元利均等返済するという条件で借りることになっています。この場合、毎年の返済額は約55.1万円です。返済額よりNOIが十分に大きくないと、何かあったときは返済できなくなってしまうわけです。

では、実際に賃料も賃貸運営経費も上昇しない前提の収支表を見てみましょう。

有効総収入(実際に想定される賃料収入)は第1期(1年目)については84万円で満額となっていますが、4年に1回入退去があり、入居募集と原状回復工事に1カ月の期間を要すると想定しているため、第2期以降は有効総収入が82.25万円となっています。

運営経費は初年度を除き、26.2万円です(有効総収入の5%と想定)。ここから元本と金利を返済すると、上の表の「税引き前キャッシュフロー(CF)」の通りとなります。初年度は家賃が満額となっていますので約2.6万円となっていますが、第2期以降は約9300円となっています。不動産会社が言うように、ローン完済までは手取りがほとんどない状態です。

これを見ると、ちょっとした賃料の下落や空室期間の長期化、金利上昇だけで持ち出しとなる可能性が高いことが分かると思います。仮に入退去サイクルが2年となった場合、空室期間は従来の2倍、入居募集費と原状回復費も2倍となり、税引き前CFは下の収支表のようにすべて赤字になってしまいます。

35年後は今と状況が違う

この収支表を見て、「35年後以降はローン返済がなくなるのだから、NOIも税引き前CFも大幅にアップするのでは?」と思う人もいるでしょう。これが「ローン完済後は年金の代わりになる」というロジックなのでしょうが、35年先の話です。今と状況がまったく変わらないということはあり得ません。

例えば30年前、筆者がまだ学生だったころに流行した3点ユニットバス(洗面とトイレが一体になったユニットバス)が設置されたワンルームマンションは、今では当時のような人気はなく、入居者が決まりにくい物件の象徴になっています。35年後の人口を考えれば、立地によっては需要が大幅にダウンしているかもしれません。

投資を判断する際は、私たちが何とか予想できる範囲の期間、つまり5年から10年先の賃貸収入、賃貸運営経費についてどのようなリスクがあり、そのリスクを許容できるかどうかという判断がまずは大切なのです。

◇  ◇  ◇

次回は税引き後の手取り額や自己資金の回収期間などについて解説します。

田中歩
 1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、ライフシミュレーション付き住宅購入サポート、ホームインスペクション(住宅診断)付き住宅売買コンサルティング仲介などを提供。2014年11月から個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクションなどのサービスを提供する「さくら事務所」に参画。