レトロ満喫の坂道散歩 いま、函館はベストシーズン
水津陽子のちょっとディープ旅
空気が澄みわたってくるのを感じたら、ロマンチックな風景の中を歩きたくなります。異国情緒あふれる建物と美しい坂道、レトロな港の倉庫群が人気の北海道・函館は、今がベストシーズン。日本三大夜景の一つ、函館山からの「100万ドルの夜景」も、秋は一層クリアに輝きます。歩く函館の楽しみをご紹介します。
函館の元町かいわいには、函館山の麓から町や港へ伸びるいくつもの坂道があります。ベイエリアや元町の入り口となる市電の停留場「十字街」から終点の「函館どつく前」の間には、名前のついた坂が18あり、坂巡りをしながら、明治から昭和にかけて建てられた歴史的建造物や外国人墓地などの町歩きを楽しむ人が多く見られます。
中でも一番人気の観光名所、まっすぐ下っていく道の先に函館湾が見える「八幡坂」は、道の両側の広葉樹並木が季節により姿を変え、日ごとに様々な景色を見せます。元町かいわいのまち歩きはこの八幡坂を基点に回ると分かりやすいでしょう。
八幡坂を背にして右手に進むと、函館の歴史的建造物群を代表する3つの教会建築が集まる「大三坂」があります。国土交通省「日本の道100選」にも認定された坂の魅力は、和洋折衷の建物と石畳が織りなす異国情緒。秋には燃えるようなナナカマドの紅葉が坂をあざやかに彩ります。
エキゾチックな教会へ続く坂道
大三坂を上がっていくと最初に見えてくるのが、国内でも初期に建てられたカトリック教会の一つ「カトリック元町教会」(1923年築)です。12世紀のゴシック様式建築で、大鐘楼の高さは33メートル。建物の中に入ると青みがかったグレーの高い天井に、壁には受難のレリーフ、ステンドグラスなどが見られます。入り口のドアの前には、西洋で幸福を呼ぶとされるフクロウの像が2体。その姿は思索をしているようでもあり、居眠りをしているようでもあり、実にユーモラス。旅の記念にラッキーチャーム(お守り)としてスマホの待ち受けにしてみては。
カトリック元町教会の先、「チャチャ登り」を上がっていくと、左手に茶色の十字形をした屋根が特徴的な「函館聖ヨハネ教会」、右手にはエキゾチックな雰囲気をたたえる国の重要文化財「函館ハリストス正教会」が見えます。
函館聖ヨハネ教会はその独特な造形美もさることながら、坂の上から眺める海をバックにした姿が実にフォトジェニックです。過去に度重なる大火で焼失し、移転も余儀なくされましたが、1979年に完成した現在の聖堂は中世ヨーロッパの教会の工法にならいながらもデザインは近代的。教会に隣接する牧師館は、その趣深い造りにより函館市都市景観賞を受賞しています。
日本正教会発祥の地、函館ハリストス正教会はしっくい塗仕上げの白い壁に緑の銅板の屋根が目印。屋根の上には十字架を冠した6つのドーム状の小塔「クーポル」があり、優雅な貴婦人を思わせます。
環境省「日本の音風景100選」に選ばれている八角形の鐘塔の鐘は、毎週土曜日午後5時の晩祷、日曜日午前の聖体礼儀などに鳴らされます。1回あたり3~5分間にわたって函館山の麓一帯に響きわたることから「ガンガン寺」の別名もありますが、その荘厳な音を一度は耳にしてみたいものです。
レトロな洋館でタイムトリップ
一方、八幡坂を背にして左手に進んだ「基坂」には「函館市旧イギリス領事館」、その先の元町公園に「旧北海道庁函館支庁庁舎」、その裏手に「旧函館区公会堂」の3つの洋館があります。
旧函館区公会堂は1910年(明治43年)建築。本館と付属棟からなり、木造2階建ての本館は左右対称形。外観もすてきですが、壁や天井にアールヌーボー様式の壁紙が貼られた御座所や中心飾りとシャンデリアが見事な大広間など内部も必見。2階ベランダからは函館の町が一望できます。時間がないときもここだけは見たいおすすめの洋館です。館内には、クラシックなドレスの貸し出しやヘアメークをしてくれる「ハイカラ衣裳館」があり、ドレスに身を包んで館内の見学もできます。すてきな建築をバックに、タイムトリップ気分で記念撮影してみては。
函館市旧イギリス領事館には、異国雑貨を集めたショップや、英国のアンティークに囲まれたティールーム「ヴィクトリアンローズ」があります。町歩きに疲れたときに、ティータイムを兼ねて立ち寄りたいスポットです。
旧函館区公会堂からは、海を右手に見ながら外国人墓地方面に向かってみます。約1.6キロメートルと少し距離があるので、疲れたときは無理をせず、基坂を下りて、市電で「末広町」電停から「函館どつく前」電停まで行き、魚見坂を上るといいでしょう。近くには、函館に現存する最古の寺院「高龍寺」もあります。その建造物のうち実に10件が国の登録有形文化財で、特に山門に施された江戸時代の彫刻は高い芸術性を有し、ため息ものの美しさです。
1854年、ペリー来航の際に亡くなった2人の水兵を葬ったことに始まる外国人墓地には、海に面してプロテスタント墓地やロシア人墓地、中国人墓地が並びます。海側には散策路が設けられており、景勝地にもなっています。このエリアは観光客も少なく静か。町歩きの途中でかわいいネコたちに出合うことも。
夜景を見るならドラマチックなマジックアワー
さて、函館に来たら、やはり夜景は見逃せません。ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン三つ星に選出された「函館山からの眺望」。元町かいわいを歩いた後は、八幡坂から約500メートルの函館山ロープウエーに乗って、函館山展望台へ上がります。
山頂展望台はこの時間大変混み合いますが、日没の20~30分前にはベストポジションを確保したいところ。完全に日が落ちてしまうと周囲は完全な闇、写真を撮るなら夕暮れのグラデーションを残すマジックアワーが最適です。日が落ちてバラ色や紫に染まるドラマチックな夕空の下、町に明かりがともりはじめ、次第にキラキラと輝き出す時間をぜひ堪能してください。
なお、函館山ロープウエーは混雑時には乗るまでに1時間以上かかることもあります。その場合は路線バスや「函館夜景号」などの観光バスを利用するとよいでしょう。夜景を見た後は元町に戻って、ライトアップされた建造物群を楽しむのもおすすめです。
八幡坂を下ればベイエリアです。函館ビヤホールなどが入る金森赤レンガ倉庫群が立ち並び、向かいにはハンバーガーで人気のラッキーピエロなど人気商業施設が集積。グルメやショッピングが楽しめます。
最後に、元町エリアで快適な滞在を約束してくれる宿をご紹介します。ミシュランガイド北海道2017特別版で3レッドパビリオンを獲得した「ヴィラ・コンコルディア リゾート&スパ」は、客室数わずか10室のホテル。元町の中心部にあり、客室からは函館山や教会群などの景色が眺められます。客室のデザインは洗練された北欧モダン。部屋にはBOSEのオーディオシステムや無料のお酒、コーヒーなども用意されて、自分の家にいるようにリラックスできます。
函館山を望むレストランでの朝食はコース仕立て。道南産の野菜のポタージュから始まり、野菜サラダやヨーグルト、ベークドポテトと自家製スモークミートのグリル、そしてバニラアイスや旬のフルーツがちりばめられたフレンチトースト。ゆっくり味わうぜいたくな朝食です。料金もリーズナブル。すてきな宿で快適な函館ステイを楽しんでください。
合同会社フォーティR&C代表。経営コンサルタント。地域資源を生かした観光や地域ブランドづくり、地域活性化・まちづくりに関する講演、コンサルティング、調査研究などを行う。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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