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新興国、高成長だが投資にリスクも 格付けチェックを 新興国投資の勘所(上)

2017/10/26

個人消費がフィリピンの成長をけん引している(マニラの商業施設)

 夜の7時。この秋から海外事業も手掛けるようになった良男は、タブレット端末で国際ニュースをチェックしています。幸子も気になる様子。そこへ恵が帰宅し、うれしそうにカバンから包み紙を出してきました。見ると、海洋生物の形をしたアクセサリーです。

筧幸子(かけい・さちこ、48=上) 筧良男(かけい・よしお、52=中)  筧恵(かけい・めぐみ、25) 

 良男 お帰りなさい。どうしたんだ、そのアクセサリーは。

  いいでしょう。フィリピンのセブ島に行ってきた会社の同僚にお土産でもらったの。日本より若い人の割合が多くて、活気に満ちていたそうよ。「投資したらもうかるかもしれない」とも話していたわ。

 幸子 フィリピンは新興国だからね。経済成長率は6%台と中国やインドに次ぐ水準の高さだし、平均年齢は約25歳。高齢化が進む日本と比べると、若いと感じるのも無理ないわ。

 良男 そうだな。フィリピンの人口は1億人を超え、なお年2%弱のペースで増えているそうだ。若年層の消費が拡大したり、道路や水道などのインフラ整備が加速したりして、経済成長を支えているんだよ。

  新興国というと、勢いがあるイメージよね。先進国とはどう違うのかしら。

 良男 ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントの松原貢さんによると、一般に新興国は「1人当たり国内総生産(GDP)が1万ドル未満で、インフラが未発達の国」といわれるんだ。例えばマレーシアは1万ドル超えを目指し政策的に産業を育てている。サウジアラビアなどの産油国では新興国でも1万ドルを超える国があるけどね。

 幸子 1人当たりGDPが1万ドル未満の国には、年5%超の高成長国が多いの。中でもベトナム、フィリピンはまだ2000ドル台。今後、成長する余地は大きいわね。

  でも、まだ米国や日本などの先進国の経済の規模のほうが大きいんでしょう?

 良男 そうとも言えなくなりそうだよ。研究機関の経済予測を見ると、長期的には新興国のGDPが先進国を上回るとの内容が多いんだ。米会計事務所のプライスウォーターハウスクーパースの予測によると、2050年には新興国の主要7カ国のGDPは世界の48%に達し、先進7カ国の22%を大きく上回るそうだ。運用業界には「経済の影響力は米国主導から中国やインドに移行する」との声が多い。私の会社でも国内市場が縮小する中、「新興国を開拓せよ」との号令が出ているよ。

 幸子 新興国は先進国より成長ペースが加速するといわれるわ。国際通貨基金(IMF)の予測では、先進国は16年から21年までの経済成長率は1.7%と変わらないのに対し、新興国は同じく4.3%から5.1%と成長率が高くなり、先進国との差が開くの。

  会社の同僚は新興国への投資に興味津々という感じだったけど、経済には不安定さも感じるわ。20年前のアジアの新興国は大混乱だったそうね。

 幸子 1997年の「アジア通貨危機」のことね。多額の米ドル建て債務を負ったタイやマレーシア、インドネシアなどの通貨が急落して世界全体の経済にも衝撃を与えたの。各国はこれを反省材料に経済再建や金融市場の改革に取り組み、外貨準備高を積み上げてきたわ。

 良男 そうだね。もっとも、盤石になったとは言い切れないよ。アジア開発銀行(ADB)は9月、「米ドル建て債務への依存度の高さと債務拡大が気がかり」と改めて指摘したんだ。もし米国の利上げペースが速まれば、新興国通貨に対しドルが上昇し、ドル建て債務が拡大する。すると、不安になった海外の投資家が新興国からの資金を引き揚げる懸念があるんだよ。

  政治の動きも気がかりね。フィリピンでも紛争があると聞いたわ。

 幸子 フィリピンはセブ島に近い南部ミンダナオ島で、宗教対立を背景にした紛争が起きたの。昨年就任したドゥテルテ大統領は高い支持率を維持しているけれど、麻薬犯罪者を数千人殺害するといった強権ぶりも知られているわ。

 良男 トルコではクルド人の民族紛争、ブラジルでは大統領の汚職疑惑の広がりが懸念材料だ。両国とも今年に入り株価は上がっているけど、UBS証券ウェルス・マネジメント日本地域最高投資責任者の青木大樹さんは「政治動向の把握が重要な局面だ」と話している。政治が不安定になれば外国企業がビジネスから撤退しやすいからね。

  日本の個人投資家が外国の経済情報を常に把握するのは難しそう。投資するにしても何か目安はないのかしら。

 良男 分かりやすいのは外国債券の格付けだな。S&Pグローバル・レーティングやムーディーズ・インベスターズ・サービスなどが開示している。外国債券への信頼度を示していて、どの国の債券の安全性が高いかを知る手立てになるんだ。

 幸子 S&Pの場合、BBB(トリプルB)以上が「投資適格」、BB(ダブルB)以下が「投機的」との判定なの。欧州の年金団体などは、投機的と判定された国からは投資資金を引き揚げるそうよ。当然、その国の経済や金融市場に与えるマイナスの影響も大きくなるわ。

 良男 新興国の経済成長率の高さは個人投資家にとっても確かに魅力だけど、政治の動向や世界の市場の動き次第で運用成績が揺らぐ可能性があるんだ。だからそうした情報をこまめにチェックすることが必要だね。

■産業育成の取り組みに目を向けて
 ニッセイ基礎研究所研究員 斉藤誠さん
 新興国は全般に力強い成長を続けています。中でもアジアの新興国は通貨危機を反省材料に改革に取り組み、経済基盤は強くなりました。ただ今後も一様に経済発展が進むとは限りません。1人当たりGDPで1万ドルの大台が見えてくると、賃金上昇で成長ペースが落ちやすくなります。「中所得国のわな」と呼ばれ、マレーシア、タイなどが相当します。
 先進国だけでなく新興国でも今後、高齢化が進み、経済減速の要因になります。1万ドルを超えても、韓国や台湾のように電子部品などの輸出依存度が高く、世界経済や市況の影響を強く受ける国や地域があります。新興国が一段の経済発展を果たすには、産業構造の高度化、多様化が求められます。投資対象を検討する際は、各国の産業育成の取り組みに目を向けるとよいでしょう。
(聞き手は南毅)

[日本経済新聞夕刊2017年10月25日付]

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