PIXTACase:20 「お試しキャンペーン!ワンコイン」の文句につられてエステティックサロンに行ったところ、勧誘を断り切れず、約50万円もするコースを長期のクレジットで契約してしまいました。3回ほど利用しましたが、あまり効果も感じないので解約したいと思っています。知人に相談したところ、利用してしまったらクーリングオフが使えないので解約できないのではないかと言われました。実際、どうなのでしょうか。
■クーリングオフ適用期間は8日間
特定商取引法では「人の皮膚を清潔にしもしくは美化し、体型を整え、または体重を減ずるための施術を行う」役務提供は「エステティックサロン」契約と規定しています。そのうち金額が5万円を超え、契約期間が1カ月を超えるものは「特定継続的役務提供取引」と定められて、様々な消費者保護が図られています。もちろん、すべてのエステティックサロン(以下、エステ)が悪いわけではありませんが、強引な勧誘が問題になる店が見受けられるのは事実です。
ちなみに特定商取引法が特定継続的役務提供取引と定めているのはエステ、語学教室、家庭教師、学習塾、結婚相手紹介サービス、パソコン教室の6つの役務です。これらには契約してから8日間であれば、無条件で解約ができるクーリングオフという制度があります。クーリングオフとは冷却期間、つまり消費者が頭を冷やして考え直した場合に無条件に契約を取り消すことができる制度です。勧誘を断り切れずに契約してしまったような場合には、日を置かずに、冷静に再考しましょう。その結果、止めておこうと思ったなら、なるべくこの制度の期間内に、あれこれ面倒くさくなる前に解約してしまうのが得策です。
■中途解約の違約金は?
ただし、クーリングオフ適用期間である8日間を過ぎていても、法に定められた違約金を支払えば中途解約することが可能です。
中途解約する場合の違約金の上限は下記のいずれかです。
(1)サービスを受ける前は2万円が上限(2)サービスを受けた後は「受けたサービスの対価」に「2万円またはまだ受けていない契約残額の10%のいずれか低い額」を加算した金額
これ以上高い違約金を要求されたとしても、支払う必要はありません。
相談のケースに当てはめると、コース利用料金が1回あたり2万円×25回で、既に3回分のサービスを受けています。この場合、
2万円×3=6万円=A 2万円×22回×10%=4万4000>2万円=B
A+B=8万円が違約金の上限となります。
たまに「キャンペーン期間中だったので1回あたり2万円ですが、正規料金は3万円なので、解約の場合は正規料金で計算します」などと主張する業者が見受けられますが、この場合でもキャンペーン料金での計算が正当です。なお、中途解約は必ず書面により申し入れをすることをお勧めします。
■クレジットで分割払いにしたら?
エステ料金を全額手持ち資金で一括前払いした人は、違約金を支払った残金(50万円--8万円=42万円)はエステ業者から返金を受けられるはずです。しかし、このような高額の役務提供を契約する消費者の大半が信販会社による分割払いを利用しています。エステ業者と信販会社は別法人ですから、エステ契約が解約できたとしても、クレジットの支払い義務は残るのかどうかが問題となります。
つまり、クレジットを利用してエステサロン利用を分割払いで契約した場合、契約者とエステ業者、そして信販会社の三者が当事者となり、三者間はそれぞれ別個の契約となります。エステ業者は、信販会社との加盟店契約に基づき信販会社から代金を一括で立て替えてもらい、代金を立て替えた信販会社が契約者から分割して代金を返してもらうシステムになっているのです。クレジット契約とエステ利用契約とは全く別個の契約ですから、エステ利用契約は解約できても、クレジット契約は残存するのが法の原則です。
■分割金の支払いも拒める
しかし、特定継続的役務の中途解約による支払いを停止した場合、信販会社にもこの支払い停止を主張してクレジット分割金の支払い請求を拒むことが割賦販売法で認められています。これを「支払停止の抗弁」と呼んでいます。よって、エステ利用契約解約後のクレジットは支払いを止めることが可能です。この支払停止の抗弁通知も必ず書面で行うようにしましょう。
この抗弁が出されると、エステ業者は信販会社との間で支払われた立て替え金の調整をします。契約者が支払うべき前述の違約金が信販会社に対する分割金支払総額を上回っている場合には、契約者が差額をエステ業者に支払う必要があるでしょう。
逆に違約金以上にクレジットの分割金を支払ってしまっている場合にはどうなるでしょうか。この場合、契約者が返還を求める先は信販会社ではなくエステ業者になります。信販会社が既払いの分割金を契約者に返還することは基本的にはありません。なのでエステ業者が倒産してしまったりすると、差額の返還を受けることは難しくなります。
■言葉巧みな勧誘、家族などに相談を
高額な契約は、その場で調印せず、必ず出直して再考されることを強くお勧めします。最近はエステに限らず内職商法、資格商法、競馬・外国為替証拠金取引(FX)などの情報商材販売、宝石や絵画、健康食品の販売などなど、問題化するものが増えています。業者は「今だけ特典がつく」「キャンペーン期間中」などと言葉巧みに勧誘してきます。その場で契約せずに、家族や友人知人に相談するなどして、本当に必要なものかもう一度よく考えましょう。
志賀剛一志賀・飯田・岡田法律事務所所長。1961年生まれ、名古屋市出身。89年、東京弁護士会に登録。2001年港区虎ノ門に現事務所を設立。民・商事事件を中心に企業から個人まで幅広い事件を取り扱う。難しい言葉を使わず、わかりやすく説明することを心掛けている。08~11年は司法研修所の民事弁護教官として後進の指導も担当。趣味は「馬券派ではないロマン派の競馬」とラーメン食べ歩き。 本コンテンツの無断転載、配信、共有利用を禁止します。