ボルボ新SUV ポップな遊び心と日本的実用性を両立
2018年春ごろに日本でも発売されるというボルボの新型コンパクトSUV「XC40」。イタリアはミラノでの発表に立ち会った小沢コージ氏が驚いたのはデザインに込められたおしゃれさと、日本車顔負けの実用的なディテールだった。
スウェーデンで作ってミラノで発表!
目からウロコ、ついにこういう時代が来たか! ですよ。それは北欧流の新おしゃれコンパクトSUV、ボルボ「XC40」。いわゆるアウディ「Q2」、メルセデス・ベンツ「GLA」、BMW「X1」などドイツ系プレミアムSUVへの対抗馬で、なにより大きいのはボルボが中国ジーリーホールディングスの強力バックアップを受け、原点に返ってイチから作り直していること。
トップのホーカン・サミュエルソンCEOが「このクルマで小型プレミアムSUV市場に参入するだけでなく、業界全体にとっての新しいセグメントを創り出したい」と言っているように、作りは非常に意欲的。
このクルマに合わせて新世代プラットフォームの「CMA(コンパクト・モジュラー・アーキテクチャー)」をイチから開発しており、しかもこれが2016年、2017年と出ているアニキ分の「XC90」「XC60」用とはまったく別物。
コンパクトカーのために新しく開発されたもので、最初からプラグインハイブリッド化やEV化を考えていることや、軽量高剛性を考えて高張力鋼板などを多用していることも実にイマ風。
最大のポイントはそのおしゃれ感
だがそれ以上に小沢が驚いたのは、そのプンプンに漂うおしゃれムード。今回はわざわざドイツ・フランクフルトショーの翌週に、ファッションウイーク中のイタリアはミラノに専用のショールームまで用意してお披露目。ビルには「スウェーデンで作り、ミラノで発表」との垂れ幕が下ろされ、隣には有名なオーガニックマンション「垂直の森」まで。
ファッショナブルなおしゃれSUVとして打ち出しているのは明白で、事実現物がまあ面白い。最近、コノ手のコンパクトSUVはアウディQ2、トヨタ「C-HR」とデザインに凝ってるものが多いけど、XC40も負けず劣らずです。
それも以前、担当デザイナーが「われわれは退屈でみんな似ているドイツ勢とは違います。アニキ分のXC90やXC60が革靴としたら、XC40はプレミアムスニーカー」と打ち出したように明らかにテイストを変えてきてるんです。
というわけで小沢コージがディテールチェックを!
ノーブルな北欧ランドローバー路線じゃない!
新型XC40を見てまず思うのは、基本的なプロフィルやボディーのバランスは、アニキ分と共通だということ。ノーズの厚み、塊(かたまり)感、前後タイヤの自然な位置関係はXC90やXC60譲りで、明らかにノーブル化した新世代ボルボ。
ところが若きエクステリアデザイナー、イアン・ケトル氏が語るようにディテールやカラーリングが明らかにポップ。
「ボルボは必ずひと筆書き。始まりから終わりまでがつながっており、破綻のあるディテールはありません」というように、違和感ある乱れはないものの、左右ドアパネル下のエグレや前後のボクシーな造形は大胆。特にエグレはスプーンで削ったような深さがあり、エレガント一辺倒のアニキ分とは明らかに違うゴツゴツ感。
同じく若い担当デザイナーが「川の下流の削られて丸まった石でなく、上流のゴツゴツした石のよう」といったアウディQ2と似た、あえて演出した荒っぽさです(記事「アウディQ2 『粗削り』で若者狙う デザイナーを直撃」参照)。あれほど六角形でキッチリ決めてはいませんが。
ボディーカラーも全てではありませんが、1960年代の名車「アマゾン」で使ったアマゾンブルーのツートンカラーも用意。これがなかなかネオクラシックで面白い。
アーティスト系はRデザインを選ぶ
?
今回の新型XC40で明らかになったのはインテリアの面白さです。XC90などもほかのドイツ勢と違ったオーガニック素材が目立ってましたが、このクラスはお金をかけられない分、アイデアの違いがより浮き彫りになっていて、XC40は明らかにポップで遊び心アリ。
随所にちりばめられたスウェーデン国旗もそうですが、XC90譲りの大型インフォテイメントモニターはもちろん、タテ型のエアアウトレットはアルミテイストで非常におしゃれ。さらにリアルアルミを使った助手席前パネルやドアトリムも秀逸で、素材感を生かした北欧テイストを感じます。
なかでもデザインに凝った「Rデザイン」はドッド柄のアルミパネルを使っていたり、赤系のリサイクルフェルトを使っていたりとユニーク。
上質ではありますが、外装に比べるとビジネスライクなドイツプレミアム系とは明らかな違い。美大出身のおしゃれさんなどはコチラを選んでしまうかもしれません。
コンビニフックにティッシュボックスまで!
なにより驚いたのは車内のアイデア収納、実用的ディテールです。この手の100円ショップ的機能は日本車が一番だろうと思っていたところ、XC40もビックリするほど頑張っていて、全長4.4m強×全幅1.8m強とそれなりのボディーサイズにより大人5人の居住スペースと460Lのラゲッジスペースをしっかり確保しているだけでなく使い勝手がいい!
ラゲッジの床下収納、仕切り板はもちろん、ドアポケットはスピーカーをわざわざダッシュボードに移してまで容量を優先しており、カップホルダーに加えて大型ボックスも用意。
前列シートの座面下にはiPadが入りそうな引き出しも付いてるし、極めつきはグローブボックスのフタに取り付けられた耐荷重最大2kgのコンビニフックで、なんとコイツは格納式で気になる人は隠すことまでできます。
そのほか、ステアリング下にはカードホルダーや、おそらくオプションでしょうが「Qi(チー)」対応のスマホのワイヤレスチャージシステムやUSB充電まで装備。
これほどおしゃれに気を使ったうえに、実用的アイデア装備まで付けた輸入車って見たことがありません。新世代ボルボの新境地といっていいんじゃないでしょうか。
ちなみに今回は残念ながら試乗できませんでしたが、パワートレインは既存の2L直列4気筒のガソリン&ディーゼル、245psのT5と190psのD4の8速AT仕様が選べる模様。新プラットフォームだけに走り味は未知数ですが、動力性能的には間違いないはずです。
おしゃれ&実用に弱い日本人向けかも?
小沢の勝手な見解ですが、日本人にはマジメ過ぎるというか潔癖なところがあると思っています。美しさのために実用性を削るとか、おいしさ優先の不健康な食材は苦手で、それよりおしゃれでありつつ実用的だったり、おいしさとヘルシーさを両立するような方向性が好き。
そういう人にとって、今回のXC40は間違いなく朗報でしょう。まさしくおしゃれと実用の新機軸で、ある意味無印良品的というか、もっとプレミアムなところを狙っているのは間違いないですが、ドイツ系とは違った北欧ならではのテイストを打ち出せているからです。
格納式コンビニフックはまさにその象徴。小沢的にはこれだけで、日本での成功がある程度見えてきた気もしました。クオリティーは高いけど、今ひとつ面白みのないドイツ勢にはない魅力を打ち出せていると。
ちなみに会場にはスウェーデン発のブランド、AXEL ARIGATOのプレミアムスニーカーも展示。前述デザイナーのイアン・ケトル氏が「北欧人気質と日本人気質は似ているところがある」と語ったように、新世代ボルボはそもそも日本人向けですらある気がします。
そして今回のおしゃれ性能や新北欧スタイルを生み出したのは、間違いなく新世代プラットフォームCMAのおかげ。これを今回ボルボは中大型車用プラットフォーム「SPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー)」とほぼ同時期に開発しているわけで、ジーリーのお金のかけ方は確かにハンパじゃないわけです。
この新XC40が日本に上陸するのは2018年春ごろと言います。アニキ分登場から間髪入れずに弟分が登場し、見事なタイミングで3つのシリーズが全取っ替えできるわけで、こんなことってかつてのフォード傘下じゃあり得ません。ここにはボルボがもともと持っていた意欲的な戦略に加え、中国ジーリーの豊富な資本と大胆投資の勝利。
新しい文化誕生のウラには必ずいいパトロンがいる。これは自動車界でもまったく同じなのです。
自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は日経トレンディネット「ビューティフルカー」のほか、『ベストカー』『時計Begin』『MonoMax』『夕刊フジ』『週刊プレイボーイ』、不定期で『carview!』『VividCar』などに寄稿。著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はロールスロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。
[日経トレンディネット 2017年10月12日付の記事を再構成]
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