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NTTドコモ第一法人営業部IoTデザインプロジェクトチームの有本香織氏。農業に情報通信技術を売り込むなかで、「アグリガール002番」という呼び名を持つことになった

NTTドコモ第一法人営業部IoTデザインプロジェクトチームの有本香織氏。農業に情報通信技術を売り込むなかで、「アグリガール002番」という呼び名を持つことになった

人工知能(AI)やあらゆるモノがネットにつながる「IoT」などの技術革新が進み、ビジネスに大胆な発想転換が求められる今、多くの日本企業がデザイン思考に注目している。米アップルなどシリコンバレーの企業が次々採用して革新的で商品・サービスを提供したことで知られる。NTTドコモはICT(情報通信技術)分野でデザイン思考を活用し、農家の高齢化や地方創生など社会的な課題解決に取り組んでいる。その中心となっているのが女性社員だ。同社第一法人営業部で農業ICT推進プロジェクトを立ち上げ、自ら「アグリガール」「IoTデザインガール」として活動する有本香織氏に聞いた。

女性2人組が農場のアイドルに

――農業ICT推進プロジェクトはどのように始まったのですか。

2014年、当時の第一法人営業部長が「これからは農業や教育、医療、交通などの社会課題に対する意識をもっとビジネスにも取り入れていこう」と呼びかけ、JAグループの担当だった先輩の瀬戸りかさんと一緒に農業支援プロジェクトを立ち上げることになりました。そこで農業ベンチャーのリモート(大分県別府市)と組み、「モバイル牛温恵(ぎゅうおんけい)」という牛の分娩監視サービスをJAグループに提案し、協業を始めました。

サービスを提供するには、全国規模のインフラや地域ネットワークを活用する必要があり、支社支店に協力を呼びかけました。農業向けの商品は初めてだったので戸惑う声もあり、まずは身内の理解を得るために2人で全国を行脚しました。牛温恵を販売するのにJAグループの販路を利用したのですが、その構造を理解して実際の流れを作るまでには試行錯誤し、やはり多くの関係者を訪ねました。16年には水位や温度など水田情報をデータ化してスマートフォンに届ける水田センサー「パディウォッチ」の販売を始めました。いずれも高齢化で人手が足りない農家とその家族の負担をICTを使って減らすサービスです。

――女性2人の営業活動から始まったのですね。

そうです。「(農業に)女性2人で営業に来るのは珍しい」と興味を持ってもらえ、飛び込みでも打ち解けやすかったと思います。そのおかげか、ICTに苦手意識がある人にも話を聞いてもらえたり、「それならあの担当者に聞けばいいよ」と情報を教えてもらえたりもしました。そこで「アグリガール」と名乗れば、さらに親しみを持ってもらえるだろうと考え、プロジェクトチームの女性社員の有志を募ることになりました。女性中心の横断的な活動は社内で初めてでしたが、今、メンバーは100人を超えています。

瀬戸さんはアグリガール001番、私は002番……、通し番号をつけたのは「おニャン子クラブ」のイメージです(笑)。自己紹介で「第一法人営業部から来ました」と言うより、「アグリガール002番の有本です」と言えば、初対面の人でも一気に距離が縮まります。今では「うちには何番と何番が来たよ」「うちは何番だ」と、農家さん同士でも楽しんでくれています。

アグリガールからデザインガールへ

――アグリガールとして活動していた時からデザイン思考を取り入れていたのですか。

当初は意識していませんでしたが、あるときIoT分野の第一人者である東京大学の森川博之教授から「アグリガールの活動はデザイン思考的だ」と評価していただきました。それ以降、慶応義塾大学大学院でのデザイン思考ワークショップに参加するなど、基礎的な考え方やエッセンスを学びました。顧客志向やプロトタイピング(試作品の作成)の重要性、グループでの議論など、実業に応用できるヒントを多く得ました。

これまで異分野の人と対話する際に「アグリガール」という共通言語をつくったことや、わかりやすい言葉や図を描いて意図を伝えてきたことなどは確かにデザイン思考的なのかもしれません。「今まで普通のコミュニケーションだと思っていたこともそうだったのか」とあらためて気づくことも多く、活動しながら今も勉強を続けている段階です。

――アグリガールでの経験が「IoTデザインガール」の活動につながったのですか。

「IoTデザインガールワークショップ」で議論する女性たち(9月13日、東京都港区)

「IoTデザインガールワークショップ」で議論する女性たち(9月13日、東京都港区)

そうです。17年7月、総務省と自治体、民間がIoTの活用で地域活性を目指すために立ち上げた「地域IoT官民ネット」の一環に、私たちが提案したIoTデザインガールのプロジェクトが採用されました。アグリガールの経験を通じ、農業に限らずIoT分野で女性の力をさらに活用したい、地域を元気にしたいという思いが強くなりました。それには女性のなかからIoTデザイン人材を多く生み出す必要があると考えたのです。

当社のほか、IT系を中心とした企業や自治体が40以上参加し、介護や医療、地域活性といった様々な社会課題に対し、IoTを生かした新たな仕組みをつくっていきたいと考えています。9月には1回目のワークショップを開き、集まった約30人が少子高齢化などのテーマに沿って議論しました。今後はさらに具体的に、新しいサービスやビジネスにつなげるためのワークショップを重ねていく予定です。

心と心を結ぶ人間中心の思考法

――IoTガールではなく、IoTデザインガールと名付けたのはなぜですか。

ビジネスでは論理的に考えるロジカル思考が前提ですが、それでは捉えきれない人と人とのコミュニケーションが、デザイン思考なら可視化できると感じます。そのコミュニケーションとは人間の頭と頭ではなく、心と心を結ぶイメージです。本来、人と人をつなぐのは主に営業の役目だったかもしれませんが、これからは優れたデザイナーのようにプロジェクトの設計からコンサルタント的な役割、そして人をつなぐことまでできる総合的なデザイン力を持ったIoTデザイン人材が求められます。そういう人材を育てていきたいと考え、この名前にしました。

――デザイン思考に取り組むうえで、女性ならではのメリットはありますか。

男女の差はないと思います。性別というより、相手の考えや立場を想像することに普段から慣れている人の方が理解しやすいかもしれません。

――デザイン思考にはどんな可能性がありますか。

フレームワークを学んだくらいでは、成果を出すのは難しい思考法だと思います。ただ、本当に心からやり遂げたいことがある人には積極的に試す価値があると思います。人間を中心にした発想法なので、仕事を円滑に進める対人関係づくりの大きなヒントにもなる。ビジネスに取り入れていくことで発想転換につながる可能性を強く感じています。

有本香織
 2002年、NTTドコモ入社。群馬支店法人営業部門に配属。07年にドコモ・ドットコムに出向し、モバイルコンテンツの企画・コンサルティングに携わる。ドコモ第一法人営業部所属の14年、農業ICTプロジェクトチームを立ち上げる。17年から「IoTデザインガール」育成プロジェクトに携わっている。

(柳下朋子)

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