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USJ復活の立役者が企業再生支援 売れる仕組み伝授

日経トレンディネット

2017/10/26

インタビューに応じる森岡毅氏
日経トレンディネット

経営の危機に瀕していたユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ、大阪市)をV字回復させた立役者、森岡毅氏。同社を2017年1月に退任した後、「次はどこに移籍するのか?」と業界内外の注目を集めた。そしてついに、半年以上の空白期間を経て、再始動を発表。彼が選んだ道は、マーケティングを主軸とする新しい会社の立ち上げだった。森岡氏の新しいビジョンは何か。

――新しい会社の設立主旨を教えていただけますか。

森岡:マーケティングの力によって、持続可能な企業再生を手がけることです。マーケティングの本質は、その企業の製品やサービスが選ばれる「必然」をつくり出すこと。言い換えれば、売れる仕組みをつくることです。そのノウハウを移植するのが、新しい会社の役割です。

社名は、「刀(カタナ)」としました。マーケティングの精鋭をそろえています。

――日本風の社名に込められた意味は?

森岡:「日本を元気にすること」が、社の理念の根底にあります。今の日本が直面しているさまざまな問題に対して、マーケティングを駆使して解決策を示す。それが日本全体の活性化につながるはずです。日本は本当の意味でのマーケティングの普及が遅れています。これから世界と戦うための武器として、我々がマーケティングという「刀」を提供するわけです。私個人の究極的な目標は、「日本のブランドマネジャー」になること。「ジャパンブランド」を強くする活動に、必死で取り組んでいきたいですね。

マーケティング精鋭集団「刀」の創業メンバーは森岡氏(右)と今西聖貴氏(写真中央)、立見信之氏(写真左)の3人。プロフィールは文末

■我々が離れても成長を持続できる

――従来のコンサルティング業とは違うものですか。

森岡:明確に違います。従来の一般的なコンサルティング業は、ある企業に対して「今、必要な製品やサービスはこれです」と具体的に示します。例えて言えば、「おいしい魚が欲しい」という会社に、アジやマグロを提供するようなものです。しかし我々は、困っている企業が魚を自力で捕れるように、釣り竿を渡してその使い方を教えます。ノウハウそのものを売りたいわけです。おそらく世界初のビジネスでしょう。

優秀なコンサルタントやマーケターがいる間はうまくいくけど、離れたら業績が悪化した、では意味がありません。我々が関与しなくなっても、企業が成長し続けることが重要です。「持続可能」とは、そういう意味です。

――クライアントとなる企業とは、どのような形で提携するのでしょうか。ビジネスモデルをお聞かせください。

森岡:「刀」の創業理念をそのまま実行させていただくには、ある一定の期間、我々のチームが先方の企業に常駐しなければなりません。ただの相談相手ではなく、我々も経営に参画します。当然、企業側にもそれだけの覚悟を持っていただきます。

USJをターンアラウンド(企業再生)させるのに3年かかりましたから、再生の見通しがつくには、同程度の時間は必要でしょう。チームを構成するのは、その企業の事情に合ったスペシャリストたちです。我が社には、需要予測のプロフェッショナル、金融のエキスパートなど、得意分野の異なるメンバーが集まっています。私自身がそのチームの一員になることもあれば、別の者が現場のリーダーになることもあります。いずれの場合でも、最終的な責任は私がとります。状況によっては他の形式での提携もあり得ますが、以上が我々のビジネスの基本形です。

――森岡さんが築き上げたノウハウを、他の企業に移植するということでしょうか?

森岡:その通りです。17年1月の退社後にUSJでの経験を生かす道を考え抜いた結果です。どこかの企業に移籍すればまたそこの仕事しかできませんが、この会社を設立することで同時に複数の案件に携われます。

ある意味USJは、私にとって壮大な実験場でした。USJを劇的によみがえらせた原動力は、個人のマーケティングスキルの強化などの「個人技」と、需要予測のノウハウ、意思決定や人事評価制度、マスタープランの策定、組織の構造など、人の行動を一定の好ましい方向に向かわせてパフォーマンスを高める「システム」との掛け算により、全社を消費者目線で連動させたことです。こうした取り組みが会社を救うことを証明したと自負しています。

そして任天堂と共同で開発する新エリアを2020年の東京五輪前にオープンできるメドが立ったのを機に、新たな旅に出ることを決意しました。USJでの自分のミッションを完遂したと判断したからです。私がいなくてもUSJのシステムは変わることなく動き続けており、今年度も同等もしくは前年を上回る好業績で着地するとみています。

USJの経営再生でも、どうしても必要な能力を備えた人材を外から獲得して体制を整えるのにかなりの時間を要しました。新しい会社では最初から一流のチームを編成しています。よりスピーディーに、そしてより完璧な形で問題を解決できるでしょう。

――企業再生の見通しをつけるのに必要な3年間は、マーケティング手法を学ばせる「教育期間」ということですか?

森岡:成長する企業に必要なのは、マーケティングの知識だけではありません。マーケティングに基づいて戦略を立て、それを実現可能にする組織づくりが不可欠です。つまり、マーケティング能力と、戦略的に組織を構築できる「戦略人事能力」が一対になって初めて、企業は再生できるのです。

マーケティング能力と戦略人事能力。そのどちらかだけを提供できる組織は他にもあるかもしれません。しかし両方を同時に提供できる会社は、我々以外には見当たりません。

■レジャー施設の新規開発や事業再生も視野に

――戦略人事の重要性について、もう少し詳しく説明していただけますか。

森岡:経営資源のなかで、最も大切なのが「人」であることは言うまでもありません。成長する企業とは、人的資源を伸ばし続ける企業ということです。

これまでの日本の企業では人的資源を「センスがいい」「天才的」など、個人的な能力に頼りがちでした。しかし、その企業に特化した人事システムを構築すれば、社員の誰もが、より高度な能力を発揮できるというのが、我々「刀」の考え方です。

一人ひとりの力は60点でも、最適のシステムを組み合わせればその力が80点にも90点にもなる、と私は信じています。市場構造に適合したシステムをつくれば、個人の能力に左右されない組織になり得るということです。

――人事に介入して組織をつくり変えるから、企業再生にはある程度の期間が必要なのですね。

森岡:付け加えれば、企業の体質を改善するには、何かを足すだけでなく無駄を削ぎ落とす作業も必要です。

例えば、ある企業を外部から観察して30個くらいの改善点が見えたとします。しかし、そのすべてに対応していては、組織はいつまでたっても変わりません。ある特定の期間に、企業が集中して取り組めることは、いくつもないからです。

30の改善点から先に手をつけるべき3点を見極めて、そこに集中するように提言するのも、我々の役割です。最も重要な問題を解消すれば、残りの改善点は自然と解決するものです。

実は「刀」という社名には、このように無駄を「削ぎ落とす」という意味も込めています。

新たなプロジェクトの依頼が多数舞い込んでいる

――すでに動き出しているプロジェクトはありますか。

森岡:守秘義務がありますので具体的な社名は明かせませんが、小売業、製造業などで新たな取り組みを進めています。

技術志向の強い製造業の方にはマーケティングの価値は分かりにくいかもしれません。他にまねできない技術を開発することで、成功体験を積み重ねてきたからです。ただ製造業者が正しいと信じる方向性が、消費者の評価ポイントとずれることもある。ですから日本の誇る技術力に消費者視点が加われば、日本の製造業はもっと輝けるはずです。メディアや金融業なども、マーケティングを導入することで大きく成長できる余地があります。つまり日本の経済全体にまだまだ伸びしろがあるということです。

――経験を積まれたレジャー業界はいかがですか?

森岡:もちろんレジャー施設の新規開発や事業再生は視野に入っています。日本の未来を考えたら、エンターテインメント施設の開発は絶対に欠かせません。私たちの取り組みが、日本社会を活性化するきっかけになるとしたら、これ以上の喜びはありません。また、そうなると確信しています。

森岡毅氏(代表取締役CEO)
●戦略家・マーケター
1972年生まれ。神戸大学経営学部卒業後、96年P&G入社。ブランドマネージャーとして日本ヴィダルサスーンの黄金期を築いた後、04年P&G世界本社(米国シンシナティ)へ転籍、北米パンテーンのブランドマネージャー、ヘアケアカテゴリー アソシエイトマーケティングディレクター、ウエラジャパン副代表を経て、10年USJ入社。12年、同社CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)、執行役員、マーケティング本部長。USJ再建の使命完了後、17年、マーケティング精鋭集団「刀」を設立。主な著作に『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』、『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門』、『確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力』(共著)がある。

今西聖貴氏(シニアパートナー インテリジェンス)
●市場構造の解析および需要予測モデル開発・運用のプロフェッショナル
1953年生まれ。シンシナティ大学大学院理数部数学科修士課程卒業。83年P&G入社。日本の市場調査部で抜群の実績を上げて頭角を現し、92年P&G世界本社(米国シンシナティ)へ転籍。160カ国を超える市場でビジネスを展開するP&Gの中枢において、世界各国に有効な需要予測モデルの開発、世界中の市場分析・売上予測をリード。12年、森岡の招請によりシニア・アナリストとしてUSJ入社。17年、森岡らとマーケティング精鋭集団「刀」を設立。代表著作に森岡と共著のベストセラー『確率思考の戦略論』がある。

立見信之氏(シニアパートナー ファイナンス)
●ファイナンスのエキスパート
1971年生まれ。早稲田大学法学部、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス修士課程卒業後、98年に三井物産入社。三井物産戦略研究所で新規事業立ち上げのプロジェクトマネジャーを務める。04年ボストン コンサルティング グループに移り、消費財メーカーの海外進出案件や外資系エンターテイメント企業の通信事業進出などのコンサルタントを務める。11年、USJ入社、企画部長として中期戦略および資本政策の企画立案・実行を牽引。USJにおいて困難を極めた投資とリターンのファイナンシャル・マネジメントをリード、森岡をサポートし、USJのV字回復に貢献した。17年、森岡の志に共感し、マーケティング精鋭集団「刀」を設立。

(文 奥井真紀子、写真 大高和康)

[日経トレンディネット 2017年10月18日付の記事を再構成]

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