人気マンガは「ネタの宝庫」 アニメ・実写化で世界へ
「銀魂」や「亜人」「昭和元禄落語心中」などマンガを原作とする映画作品やテレビアニメがますます目立っている。アニメ作品に加え「僕たちがやりました」など作品の実写化も急増中だ。マンガが映像作品の原作として重宝されるのは、テーマや切り口が多種多様な作品が次々と生まれ、いわば「ネタの宝庫」となっているからだ。2010年代に発表された作品を中心に、ヒットマンガの現状とマンガ界の動向を紹介する。
国外でもそのままMANGAで通じるなど、抜群の人気を誇る日本のマンガ。しかし紙のマンガ誌の推定販売金額は12.9%減。同じくコミックスは7.4%減(2016年、公益社団法人全国出版協会調べ)という状況で、集英社ライツ事業部の高橋雅奈氏は「100万部超えはめったにない」と話す。
それでも刊行数は「昔は1カ月で600点くらいだったが、今は多い月だと900点くらい。1年間トータルで1万点以上」(ジュンク堂書店池袋本店の田中香織氏)まで増え、さらにはネットやスマホで読めるウェブマンガも盛んだ。実は今、多種多様の面白さがパワーアップしているのがマンガなのだ。
それが顕著に表れるのが、ここ数年のアニメ化&実写化の急増ぶりだ。昔からマンガとアニメは密接な関係にあり、実写化もされてきた。それが10年代に入り、まずアニメの注目度が高まると、映画やテレビドラマ、そしてミュージカルから舞台まで、マンガを原作とした作品が制作されるようになった。
「人気のあるほとんどの作品には、複数社から映像化のオファーがある」と集英社の高橋氏。「『週刊少年ジャンプ』も含め、ほとんどの編集者もそれが狙い。映像化で作品の良さが拡散できれば、『ワンパンマン』を筆頭に『僕のヒーローアカデミア』『東京喰種 トーキョーグール』のように、海外での原作の人気も高まる。集英社としては、『ブラッククローバー』を次の『NARUTO―ナルト―』に育てたい」と話す。
講談社はアニメ制作に出資
そんな中、アニメ化に全社を挙げて攻勢をかけるのが講談社。ライツ事業部を中心に、自ら企画を立案し委員会の組成やアニメ制作に関わり、出資もする。ここ数年は毎年10~15本の新シリーズを立ち上げている。
集英社同様、積極性の理由は「原作を読むきっかけにしてもらうため」だが、「3年ほど前から世界中にアニメ配信が広がり、ビジネスの形が大きく変わってきた」と講談社ライツ事業部の松下卓也氏は話す。「アニメ配信の広がりは視聴者層拡大につながり、これまでパッケージでの回収が難しかったギャグ系の作品や、『寄生獣』に代表される名作のアニメ化も可能になってきている」と言う。
「ある程度の人気作はアニメ化が常態化しており、5~10年前のように映像化で爆発的に売り上げが伸びることはほとんどない」(高橋氏)ともいうが、「コミックは巻数が積み重なるのでアニメ化による増売効果も大きい。『昭和元禄落語心中』のような女性向けコミックは、電子書籍への跳ね返りも大きい」(松下氏)など、映像化の力はまだまだあるようだ。
では、今実際に売れているマンガは何なのか。「マンガ大賞」の実行委員も務め15年以上コミックスの売り場に立つジュンク堂の田中氏によると「直近のテレビアニメで大きく動いたのが、今月実写映画化された『恋と嘘』や、『カイジ』に代表されるギャンブルものの『賭ケグルイ』。少年少女の冒険をファンタジックに描く『メイドインアビス』もアニメ化の効果が最も出た作品の一つ」ということだ。
<いちゃラブ>ものが人気ジャンルに
田中氏は定番ジャンルにも変化があるとも話す。「増えたのは<いちゃラブ>とでもいうのか、『逃げるは恥だが役に立つ』のように幸せな人をめでるもの。安心感の伴う『からかい上手の高木さん』も近い」。さらに「定番ものでも『フラジャイル』のように病院が舞台でも、主人公が医者や看護師でないなど切り口が多岐にわたるようになった」という。
大ヒット作の「ONE PIECE」や「キングダム」に代表される冒険ものでは、「ゴールデンカムイ」がこれからアニメ化される。また、旧作や女性向きのオタクものも売れているそうだ。
こうした現状を踏まえ講談社ライツ事業部の松下氏は「単純に『王道のこれ読んでおけ』という感じではなくなった」と話す。ジュンク堂の田中氏も「マンガの絵柄やストーリーに男性向け・女性向けという境目がなくなってきた」とみている。ウェブマンガの興隆など、マンガ界は大きな変化を迎えているといえるだろう。
(日経エンタテインメント!10月号より再構成 文・山内 涼子 平島 綾子)
[日本経済新聞夕刊2017年10月21日付]
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